第69話 邪神
真っ直ぐに、私へと向かってくる。
自分を封印した相手の力を持つ私を、消すために。
邪神を浄化するには、今までよりも遥かに強大な力が必要だろう。
限界まで集中して、時間をかけて練り上げた
だから狙われると分かっていても、丸腰でもその場に立ち、ひたすらに願いを込めるしかない。
(「
そう信じて術に集中する。
だから、今までで、最大の術を。
すべてを、あるべきところへおくろう。
「があああああ!!」
のびた
――ガキイイィン
金属の高い音がすぐそばで聞こえる。
きっとレナセルト殿下が爪を
そのすきに魔術で攻撃を繰り出している音がする。
きっとノクスさんだ。
皆、自分の役目を果たそうと頑張っている。
私も負けていられない。
(その憎しみも、
雷の光を集めるように、神の力を、すべて体の中に
願いを込めると、体は一層光を増していった。
邪神は悲しい神だ。
姉を失い悲しみにくれ、取り戻そうとして兄に封じられた。
すべては兄弟を思ってのことだったのに……。
その怒りも悲しみも、何百年経とうと色あせない。
魔物から果てのない怒りを感じたように、今もその感情に
(ずっと、一人で……)
そんな
私なら、耐えられない。
愛しい人を、家族を奪われて。
そして痛みを抱えたまま、眠り続けていた。
だから。
「……一人は、寂しいものね」
浄化の力を身に
私は――そのまま邪神へと抱き着いた。
「聖女!?」
レナセルト殿下の驚いた声が聞こえたけれど、離すわけにはいかない。
だって。
(これが、一番確実だもの。それに、彼をずっと一人のままにさせるわけにはいかないから……)
私の身に
雷が降り注ぐ
(――私を目掛けて、落ちておいで)
私は、もう覚悟をしているから。
「っ!」
髪が、肌が、邪神の放つ瘴気とまじりあって消えていく。
瘴気と共に、邪神の感情が、
それは、遠い日の3人共にいた記憶――。
(ああ、そっか)
彼は戻りたかっただけなのだ。
兄弟3人が仲良く暮らしていた、あのときに……。
一人は、寂しいから。
(大丈夫だよ。私が一緒に行ってあげる。だからもう、そんなに悲しまないで)
邪神の頭を優しくなでる。
そして最後の言葉を口にした。
国中を包み込むかのような
白に染まる視界で、レナセルト殿下が手を伸ばして走ってくるのが見えた気がした。
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