第50話 動揺
「あ、あそこから出られそう……」
数分後、木箱が積み上げられた奥に扉を見つけた。
そこからはわずかに光がもれている。
私は
「……どこかの、
ドアの先は部屋ではなく、城の廊下らしき場所だった。
ただ薄暗く、シンとしている。
今日はパーティーで、まだ会場にはたくさんの人いるはずだ。
それなのにこんなに静かということは、会場の近くではないのだろう。
(……でも、使用人の一人も通らないっていうのは、いよいよ怪しい……)
城の中であれば、大体どこにも使用人や
それなのに、ここは忘れさられたように静まり返っている。
まるで、誰も出入りできない場所のように。
「……」
見上げれば天井は高く、頑丈そうな柱には細かい彫刻が刻まれていた。
少なくとも、だいぶお金がかけられた場所であることは間違いない。
ということは……。
(少なくとも王族の誰か、もしくは貴族の重鎮が関わっているに違いないわ)
この規模のものを、城の中に作ったのだから。
最悪の場合、王家全体が関わっている可能性も否定できない。
だとすれば。
誰にも見つからないようにしなくては。
私は辺りを見回して、息をひそめて廊下にでた。
壁を背に、こそこそと進む。
角を曲がろうと、覗き込んだ時だった。
――ドン!!
「「っ!!」」
何かにぶつかった。
固くて、大きな何か。
慌てて見上げれば、そこにあったのは――
「
「っ! 君は……!」
狐の面をした氷色の髪の男性がいた。
先ほどまで、追いかけていたはずの人が。
彼はとても驚いた様子だったけれど、すぐにはっとなって私の口を覆った。
「!?」
(静かに)
その後すぐ、有無を言わさずに近くの部屋へ押し込まれた。
あまりのことで事態が飲み込めない。
けれど、この状況はかなりやばいということだけは分かった。
だって、こんな場所で会う人がまともな人のわけがないから。
パニックになって腕を外そうともがくけれど、よりきつく抱きすくめられてしまう。
彼はそのままドアのスキマから外の様子を伺っていた。
「――そっちは?」
「いや……」
「どこいった、あの男」
遠くから、そんな声と共に複数人の足音が聞こえてきた。
隙間から覗けば、庭で見たような黒いフードの人が見えた。
恐らくは、魔術師の仲間なのだろう。
(もしかして、自分の存在がバレている!?)
そう思ったが、男と言っていたから私のことではなさそうだ。
とするのなら……。
(亡霊さんが追われている……? なんで? あの人達は、仲間じゃない……?)
私は
そのまま息をひそめて、廊下から聞こえてくる話に耳を澄ませる。
「魔術師に侵入されるなんて。
「とにかく探せ。奴は
「見つけたら?」
「さあな。今まで通り、我らの神への
「どちらにせよ、あの方に報告するのが先だろう」
「ま、ずっと目ざわりだったし。いい機会かもな」
手負い、贄、処理。
聞こえてくる会話は
とても
「っ」
ちらりと亡霊さんを見る。
侵入者というのは恐らく亡霊さんのことだろう。
そしてあの会話を信じるのだとすれば、亡霊さんもまた、魔術師ということになる。
(魔術師同士が……?)
仲間割れだろうか。
けれど、そんな雰囲気ではない。
どちらかというと、ずっと敵対しているかの様な言い草だった。
(いったい、何がどうなっているの!?)
わずかな隙間から見える彼らは全員フードを深く被っており、顔を見ることはできない。
「あ~、くそ。ちょろまかとしやがって。魔術に制限なけりゃ、あんなやつ」
「油断しただけだろ」
「うっせ。はぁ、早く自由に使いてーよ」
「もうすぐだろ。なにせ、聖女がようやく見つかったのだから」
「!!」
突然自分の話になってびくりと震える。
少し動いてしまったが、悲鳴は飲み込んだ。
おかげで気がつかれなかったようだ。
「まあな。20年もこつこつやって来たんだ。後は雷神の
「ああ。ようやく、我らの神が目覚めるだろう」
「先祖代々の夢を叶えるときが来た」
「ああ。今後は……我らフューリの時代だ」
(フューリ……?)
何か重要なワードのような気がする。
黒フードの人たちは、私たちがここに隠れていることも気が付かずに薄く笑い合っていた。
「そのために、不安要素は刈り取っておかないとな」
「ああ。魔物の補充にはあのじーさんが行ったし、俺たちはこのままここの警備を頑張らねーと」
「さっさと捕まえようぜ」
「ああ」
彼らはそのまま、我が物顔で奥へと行ってしまった。
「…………」
(私が、なに? 捧げる……? それ、って)
どくどくと心臓が騒ぐ。
自分が何か恐ろしいものに狙われている。
残念ながら、それは間違いなさそうだ。
そしてそれは、恐らくは王宮の中に巣くうナニカ。
でなければ、どう考えてもパーティーの招待客でない彼らが、この場所を堂々と出歩いている訳がない。
たぶん、この場所は彼らの本拠地なのだろう。
そして、すべてのワードを繋げるとすれば……
彼らの名は『フューリ』。
魔術師の集団で、王家に根を深く張っていて、少なくとも第一王子は彼らと関係を持っている。
その目的は、
その最後の仕上げとして……。
「私を……狙っている?」
(だからセイラス様は、あんなに王家を警戒していたの……? 庭で見た奴らも仲間? やっぱり、王家全体が敵なの? だとしたら、レナセルト殿下は?)
分からない。
誰が味方で、誰に狙われているのか。
もう、なにも分からない。
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