第49話 隠された部屋



 ――カツカツカツ


 階段を降りる音がやたらと大きく聞こえる。


 壁にあるランプが照らしてるので踏み外すことはなさそうだが、先ほどからもうずいぶんと下っている。

 一体、どこまで降りていくのだろうか。


(ランプに火がともっているってことは、人が通ることを予想しているんだろうけど……)


 立ち入りを制限されている場所に、隠されていた階段。

 ちなみに、入り口は入ったら自動で閉じられた。


 まるで……みつかると困るものであるかのように。



 この時点で嫌な予感しかしない。


 考えられるのは、王族用の隠し通路とかだろうか。

 もしくは、魔術師たちが入り込むための……?


 だとしたら、ここにいるのは非常にまずい気がする。



(調べるだけ調べて、出られなさそうだったらすぐに戻ろう)



「あっ」


 階段の終わりが見えた。

 重そうな扉がある。


 私はバレないように、ゆっくりと少しだけ扉を開いた。




 灯りはない。

 真っ暗な部屋だ。


 光を入れるために階段の扉を少しだけ開けておき、誰もいないことを確かめてから中に入った。



 乱雑らんざつに積み上げられた木の箱や、ほこりを被った書物などが散らばっている。

 物置のような部屋だった。


 長い間放置されていたのか床には埃が溜まっており、歩くたびに舞い上がる。

 通るたびに靴の跡ができた。


 ――カタン


「あ、うわっ」


 何かに肩がぶつかり、乗っていたものが落ちてくる。

 慌ててキャッチすると、一冊の古びた本だった。


「あぶな。……ん?」


 偶然、背表紙が目に入る。



 そこには『炎神えんじん御使みつかい 1』とあった。


「炎神の御使……?」



 聞いたことのないワードだ。


 それに、炎神とは?


 この世界の神は雷神のベルタード様だけのはず。

 もしかしたら、他の神様もいたのだろうか。


「……そういえば」


 魔術師たちが崇めているものが邪神と呼ばれていたっけ。

 それと何か関係が?


「……」


 魔術師について、何か分かるかもしれない。

 私は気になって、開いてしまった。



 それは、日記だった。







『398年 炎神の御使と思われる人間を複数捕獲ほかく。我らフューリの同志どうしになるかもしれない』


『〇日 奴らは固く口を閉ざしたまま。拷問ごうもんを実行』


『〇日 数名が瀕死ひんし。我らに賛同さんどうしなかった。話さないのなら価値はない。にえへ』


『〇日 奴らの姫を手に入れた。金目きんめではない。が、利用価値はありそうだ。炎神の御使らしく、髪は深紅しんくに染まっている。強い子を望めそうだ。王へ献上けんじょう



「…………なに、これ」



 ――拷問の、日記。



 見なければよかった。

 正直、今すぐにでも記憶きおくを消したい。


 まるで観察日記のようにリアルな記録。


 拷問のことが書かれている所など、目をおおいたくなるほど生々しい。

 苦痛の悲鳴が聞こえてきそうな……。


(贄? 拷問? 王に、献上……?)


 信じたくはないが、書かれていることがもし、過去にあったことだとしたら……。



「う……」


 気分が悪くなり、本を閉じる。


 人目を避けるような場所に、忘れられたように置いてあった。

 それが意味するのは、きっと……。


「……とにかく、ここからでなくちゃ」


 少なくとも長居ながいする様な場所ではない。

 それだけは確かだ。


 私は怖気おじけを振り払い、足をすすめた。


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