第10話 side セイラス



 その方はいろいろと規格外きかくがいの女性だった。


 私は、穏やかな人が聖女様になるのだと思っていた。

 けれど私の目の前に現れた彼女は、そんな幻想げんそうを見事に打ち砕いた。



 目が覚めた時の絶叫ぜっきょう

 ……今思い出してもじわじわと笑いがこみ上げてくる。


 私を含めて、神官たちも驚き過ぎて動くことができなかった。

 それに、そのあとすぐ。

 私を見て気絶するという面白いことも起こしてくれた。



 今でこそ教皇として隙を見せないようふるまっているが、私は元来がんらい、おもしろいものが好きだ。


 だって退屈たいくつまぎらわせてくれるし、みていて楽しいだろう?



 ……それに、見た目にダマされなかったのも好印象だったな。


 私は、自分の見た目がどう評価されているか知っている。


 白と薄紫がまじりあった不思議な髪色も、透明感のある肌も神聖視されやすい。

 ついでに顔も整っているし、力も誰よりも強いから、余計に。


 だからこそ、いつも私の周りには救いを求めて人が集ってくる。

 近づけばおがまれるし、笑いかければころりと落ちてくれる。



 ……けれど彼女には通用つうようしなかった。


 むしろこの顔のせいで、警戒までされていた。

 正直、意外すぎて……で笑ってしまった。



 それがよかったのか。

 それまでは逃げられてばかりだったけれど、ちゃんと話をすることができた。


 今でも距離は遠いし、顔を合わせれば全力で反らすし。

 ……よくわからないことを口走ることもあるけれど。


 なんとか協力を取り付けることができたのだ。




 それから彼女を見ていて分かった。


 どうやら、素の自分のときの方が身近に感じてもらえるということが。

 正直――予想外だった。



 だって素のは、育ちが悪い。

 口調も性格も、聖職者とはかけ離れている。


 だからネコを何重にも被った。


 「」から「」になり、『素晴らしい、理想の教皇』を演じていた。


 教皇となってから……。

 いや、神聖力が発現してから、ずっと。


 それなのに……。


 まさか、素を見抜かれるなんて。



「ふふ、だからだろうな」


 そんな彼女に俄然がぜん興味がわいた。


 人は見た目じゃない。

 彼女は確かにそう言っていた。


 見た目に捕らわれているこの国で、そんなことが言える人などいない。

 彼女は異質いしつだ。

 価値観かちかんも、考え方も、何もかもが違う。


 きっと彼女は違う場所から……それもからやってきたのだろう。



 でも、だからこそ。


 もしかしたら彼女なら、この国に変革をもたらしてくれるのではないか。

 魔物や瘴気だけではなくて、もっと――。




「……だからまずは、王家の暴走をどうにかしないとな」


『聖女を見つけたものに報酬を与える』


 初めは本当に聖女を求めていたから打ち出したものなのだろう。

 けれど欲深い人がそれだけで済むわけがない。

 すぐに金色の目をもつ少女たちを奪い合うようになった。



 あれがはじまってから、俺たちのような下層の人間の生活は……地獄じごくと化した。


 人と人が、争うようになったのだ。


 上層部は権力欲しさに、下層部は金と安全欲しさに。

 どんどん治安が悪くなっていった。



 ただでさえ魔物や瘴気に怯えているのに。

 人にすら怯えなくてはいけなくなった。


 犠牲ぎせいとなるのはいつも力のない者たちだ。


 家族から引き離され。連れ去られ。売られ。

 挙句あげくの果てに国を救えと結界の外に連れ出される。


 結果、捕まってしまった人たちは誰一人として戻っては来なかった。



 ……その中には何より大切にしていた妹分いもうとぶんもいた。


『お兄ちゃん! 助けて、お兄ちゃん!!』


 そう言って泣き叫びながらさらわれていくあの子を、俺は守ってやることができなかった。

 目を閉じれば今でも鮮明せんめいに思い浮かぶ。


 すすの付いた赤茶色の髪をした子だった。

 生きていたなら、ちょうど聖女と同じくらいの歳になっていただろう。


 あの時から、どうしても俺の中には拭いきれないほどの国への嫌悪けんお感がある。




「っ」


 脇腹がずきりと痛んだ。

 妹分を取り戻そうとして負った、古傷だ。



 なんであんなことをしたのか。

 どうして聖女が現れるまで待とうとしなかったのか。

 あれさえなければ――少なくとも人に怯えることにはならなかったはずなのに。


 この痛みを感じる度に、あの怒りがよみがえる。


 だから決めたのだ。

 この国を変る。


 それだけが……。


「俺の、贖罪しょくざい



 幸いにも、そのあとすぐ強大な神聖力が宿った。

 だから、すぐに神殿に入り教皇を目指した。


 国が信用ならないのなら、同等の地位にある教皇になればいいと。

 そうすれば同じような思いをする人をかくまってあげられるかもしれない。



 あの子のように罪のないものが悲しまなくても良いように。

 自分たちのように、大切な者同士が引き離されないように。




「……もうすぐだよ、


 役者やくしゃはそろった。


 あの聖女様ならいい意味で場をひっかきまわしてくれるだろう。

 この先を想像しながら私は次に打つ手を考えるのだった。


______


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