第25話 初めての神社

 レッドキャップを倒した後、俺達は荒廃した幹線道路を進み、魔物を見つけては倒していった。イノシシが現れた時はひやりとしたが、レッドキャップの投げ斧などをつかって倒せた。

 ただ、魔物には二種類がいたのにはおどろいた。

 普通に死体を残すものの他に、倒すと黒い泥になってしまう奴等がいたのだ。

 アヤ曰く、それらは本体が別にいる魔物の”影”らしい。

 本体は影にスライムを食わせて自分を成長させているとか。

 中々新しい世界も一筋縄ではいかないみたいだ。

 そんな道のりを経て、俺達は今この辺りで一番大きな神社の前に来ていた。


「はじめてのお参りだね、一体何を捧げればいいのかな?」

「さて、なんだろうな。今までアヤが取り込んだもので足りればいいんだけど」

 鳥居をくぐりながらカノと並び歩いて行く。


 日本の国の神様は力を失っているせいで使徒に魔法を直接使わせる事ができない。

 そのためには彼らは供物で力を取り戻し、その分で基本一回限りの魔法の行使を可能にする呪符を作るのだ。

 俺達は彼らの使徒ではないけれど、その辺りの話はスイ様が通していあるらしいから、俺達は神社に供え物を捧げればいいらしい。


 ここに来るまで、アヤにはスライムから貯まっていた素材(彼らにすれば魔素を吸った残りかす)をもらったり、変わったものがあれば取り込んでもらっていた。

 ただし種類がそこまで多いわけではない。動物の死体や植物は肉や木材になるが、これらは例外で、ほとんどは単純な姿に収斂した。


 鉄をはじめとする金属類はインゴットに、プラスチックの類いはナフサに、ガラスは砂になってしまった。複雑な化合物はどこにいったのかと思えば、ストレージに【混沌石】表示されるものにまとめられてしまった。見た目は完全にスラグ、一般的に言うスラグはガラスに閉じ込められた焼却炉の最終的なカスだ。現時点でどう使うかは全くわからない。

 スイ様が、スライムは世界の再生のための存在といっていたのでスラグがこのままということはないんだろうけど……


 畑に残された太い杉の木々が鎮守の森を作っていて、中にある社殿と社務所に影を落としている。

 

「すいませーん、だれかいますかー?」


 念のため社務所に声をかけてみるも、帰ってくる声はない。

 近づいてみると、開きっぱなしの窓から散らばったお守りが見えた。


「もう神主さんもいないみたいだね」


「だな。どの神の使徒になったにせよ、ここは危険だからどこかには避難したんだろう」


 そのまま社務所を通り過ぎていくと、脇道にそれた場所に古びた社が見えた。

 人が一人入るか、というくらいの小ささだけれど、なんとも言えない力のようなものを感じる。

 神社には本尊とは別に、こういった別の神をまつる社が建てられている事がある。

 例えば伊勢神宮がそうだ。

 天照大御神を祭る内宮以外に、百二十四の宮社が立てられている。

 

——キィ


「?」


 気がつけば、社の戸がゆらゆらとゆれていた。


「なあカノ、あの扉なんであいてるんだろう?」


「え、知らないけど。なに? 心霊現象?」


 魔物が跋扈して神様にまで会っているのに心霊現象もないだろう。

 呆れていると、アヤが社に近づいてなにか調べている。

 何をしているのかと見ているとアヤはふわりと戻ってきた。


「……リクト、ここに祀られていた神様、いなくなったみたい」


「いなくなった? どうしてだ?」


「ちょっと今はわからない……ごめん」


 アヤが沈んだ声で謝ってくるけど、そこまで期待していない。

 スイ様の話ではアヤだって作られてまもない存在らしい。

 彼女に高天原の知識を期待する方が無茶だ。


「アヤだって神様の全部を知っているわけじゃないんだろ? 気にしなくていい」


 申し訳なさそうに肩を落とすアヤの頭をポンポンと叩き、道を歩いて行った。

 そしてここが本命、神社の本殿だ。

 朱塗りの柱の横を過ぎて靴を脱ぎ、引き戸を開けて社殿の中に入る。

 畳敷きの社殿の正面には鏡が据えられた祭壇が組まれていた。


「あれだけ大きな地震があったのに綺麗だね」

「社殿だけになんらかの力が働いていたのかもな」


 などと想像話しながら祭壇の前で胡座になり、スイ様からもらった縦長の和紙、奉書紙を祭壇に乗せる。


「これで神様と対話出来るの?」


「と、スイ様からは聞いているが、どうなるのかな」


 二人で言葉を交わしている内に奉書がひとりでに開いた。

 これは読めってことだろうな。


『我はミサキの神、千年の昔よりこの地にあり。七代の御方の使徒たる汝等に力を分け与える』


 奉書にはこれだけが書かれていた。

 思わず祭壇を見あげるが、しばらくたっても何も起こらない。


「授けるといっても、供物がなにか教えてもらわないと困るんだけどな」

「だよねぇ」


 ここに来るまで結構な量と種類の資源を回収している。どれを渡したら良いものか。


「とりあえずお酒じゃない?」

「まあ確かに」


 酒屋に残っていた一升瓶を床の上に置く。

 すると見るまにビンの中の酒が減っていった。

 かけつけ三杯かよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る