第6話

side 梨衣子りいこ


「それで用って何?」


ゆうくんと朱音ちゃんが離れていくと大井おおい先輩は促すように問いかけてくれた。


「えーとですね、バレンタインなのでチョコを贈らせてもらいたくて・・・これ、良かったら受け取ってください」


「嬉しいな。わざわざくれるってことは期待して良いのか?」


予定通り渡したらすぐに立ち去るつもりでいたけど、何やらそのまま立ち去れない展開になる。


「えっと、大井先輩って岩崎いわさき先輩と付き合っているんじゃないんですか?」


「ああ、陽希はるきか。付き合ってないぞ」


「ええ?でも、学校中で噂に・・・」


「それは噂を放置しているからな。俺も陽希も」


「なんで?」


「陽希はたぶんだけど、男避けだな。

 俺はその方がステータスがあるからな・・・学年で一番とも言われている女がカノジョって言われるのは悪くないだろ?」


思ったよりもくだらない理由だった。


「でも、噂だけで違うとしても、そこにわたしが入り込むのは・・・」


「いいよ。そうしたら、今までのは噂を放置してただけで正式なカノジョができたって言えばいいだけだから初芝はつしばちゃんも寝取ったみたいに言われずに済むだろ?」


「それはそうでしょうけど・・・でも・・・」


「いいじゃん。俺ももうすぐ卒業だけど、カノジョは欲しいし、それが初芝ちゃんなら嬉しいぜ」



その後も問答を繰り返したけど、わたしからチョコを渡した手前、付き合わない流れに話を逸らせなくて大井先輩と仮のお付き合いをする事になった。


「りーちゃんどうだった?」


ゆうくんと朱音ちゃんの元へ戻ると朱音ちゃんが問いかけてきた。


「・・・大井先輩と仮のお付き合いをする事になった・・・」


「え?岩崎先輩と付き合ってるんじゃ?」


「それがね、噂は嘘なんだって・・・それで今はフリーだからって・・・わたしからチョコを渡したから断わりきれなくて・・・」


「え?断わるつもりだったの?なんでチョコを渡したかったの?」


「そ、それはね!思い出作り!」


朱音ちゃんとの話を黙って聞いていたゆうくんが疑問を投げかけてきた。

当然、本当の理由は言えないし、それは朱音ちゃんもわかってくれていると思うので、とりあえず苦し紛れ思い付いたことを口にした。


「そっか、思い出作りか・・・」


ゆうくんはつぶやく様にわたしの言葉を繰り返すと、なんとも言えない表情になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る