幼馴染みクライシス

したらき

第1話

side 優斗ゆうと


中学校生活が2年の三学期に入り、3年生の先輩たちが受験で重い空気になっていて、自分も来年は同じ環境に身を置くことになるのかと恐怖心を持ちながら日々を送っている。

そんな状況で建国記念の日の3連休が目前に迫った平日の放課後に、近所に住む同い年の幼馴染みである初芝梨衣子はつしばりいこが家までやってきた。


梨衣子は幼馴染みひいきを抜いても可愛らしい見た目で、それに仕草も可愛いいので、学校でも可愛いと言う生徒が多く学年でも人気がある方だと思う。

僕はそんな梨衣子の事が気が付いた時には好きになっていた。

僕の母親と梨衣子のお母さんが僕らの公園デビューの頃に出会って意気投合して仲良くなり、それからは家族ぐるみの付き合いになっている。

小学校低学年くらいまでは、梨衣子の一つ年下の妹の芽衣子めいこちゃんと3人で一緒にいることが多く、成長するにしたがって少しずつ距離は遠くなってしまってはいるものの、それでも頻繁に互いの家を行き来し、今でもふたつの家で家族同然の付き合いをしている。

僕も梨衣子に釣り合うようにと頑張っているけれども格好良くなれている気がしなくて最近では気が引けてしまっているところもある。


「ゆうくんに相談があるんだけど、良いかな?」


「もちろん良いよ。なに?」


「あの、ゆうくんの部活のOBに大井おおい先輩っているじゃない?」


「うん、いるね」


大井先輩は昨年の大会が終わって引退した僕の部サッカー部の元エースで、去年の大会では全国まで導いてくれた立役者だ。そして、その実力を買われてサッカーが強い高校からスカウトされて進学することが決まっている。

部員の誰もが憧れるかやっかむかしているといっても過言がないくらいの存在感だったし、僕もその技術には憧れる。今の2年には1年前の大井先輩ほどの技術がある選手はいないし、それも無理からぬことだと思う。


「そのさ、来週バレンタインがあるじゃない?」


「う、うん」


「チョコを渡そうと思うんだ」


「そうなんだ・・・」


「その大井先輩は受け取ってくれるかな?」


大井先輩はサッカーの技術はすごいと思うし尊敬するけど、性格については軽蔑している。自分が上手いからと他の部員を貶すし、暴力的に振る舞うことも多い。ある程度の分別があるからか怪我をするほどではないけど、けっこう強く殴りつけてきたり蹴りつけたりする。それでいて外面を作るのが上手くコーチや先生方には性格が良い様なアピールだけはしっかりできているので僕は好きじゃないし、悪感情が露骨な部員はやっかんで色々言っている。


「どうだろう。でも、梨衣子が渡したいんだよね?

 なら、渡せるように協力するよ」


「え?それは悪いよ・・・」


「梨衣子は大事な幼馴染みだからさ。そんな遠慮なんかしないでよ」


本音で言えば接点を持たせたくない。でも、変に反対をしても梨衣子は嫌がるだろうし、それが原因で関係が拗れるかもしれない事が怖い。

更に言えば、大井先輩はモテるし美人の先輩と付き合っているらしいから、梨衣子がチョコ渡しても綺麗な思い出で終わるだろうというのもある。

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