第10話 悪役貴族の日常(無自覚編)
《星2つミッションの失敗により、大幅な減点となります》
名 前:ルイス・ウォルター・アルヴァレズ
職 業:クズ御曹子
レベル:2
体 力:100⇒102
魔 力:100⇒102
スキル:魔法剣(Lv1)
悪 名:9,940⇒9,890
◇◇◇
《悪名の減少により、9,900で得たゴキブリの通り名を失いました。繰り返します……》
はい?
今までゴキブリ扱いだったの?
道理で嫌々ながら接してくる人がいるなと思ってたんだ。
そうなるとドドベルからの
一万ポイントのウンチといい、
「待てよ。これだとアメリアがすげえよな」
ウンチの時も、ゴキブリだったさっきまでも、変わらず笑顔でいてくれた。
アメリアは貴重な存在だ。
見捨てられないよう頑張るよ。
ちなみに今の通り名は『特殊な詐欺の海賊王』である。
……単純にカッコ悪い。
アレだと思われるのは耐えられないな。
はやく悪名をさげて、この不名誉な通り名から逃げ出したいよ。
その為にも次の日から俺は、父の
農作物の収穫の見通しや、治安にインフラ整備と多岐にわたる。
覚えることが多すぎる。それもこれも、ルイスの怠けが原因だ。
そのツケは払わないといけない。
周囲も分かってくれる程、本当に忙しくて大変だ。
しかし、それを邪魔する者がいる。
「あのー、リリアン師匠。いま勉強中なので、ヒザに座られると邪魔なんですが?」
「気にするな、僕はここが好きなのだ」
「いえ、そうじゃなくて……」
賢者リリアンが、仲間になってくれたのは嬉しいよ。
でも何故か修行でもない時間でも、俺の側から離れない。
「それに君も嬉しいだろ? こことかツンツンされるとすごく喜ぶじゃないか」
「ひいーーーーーー!」
弱点の脇や横腹をつつかれる。
師匠が上にのっているから身動きがとれず、いいようにやられているんだよ。
「ちょ、やめ、あはははは」
「ほらほら~、ハグされるのも気持ちいいだろ。それと、フゥー、耳も弱いんだね」
あああー、
それを生あたたかい目で見てくる父親。
罰ゲームのような扱いだ。
賢者を邪険に扱うことは出来ないし、かといって本能に従うなんてダメだしな。
どちらも選択出来ないなんて、性悪ミッションよりもタチが悪い。
「あっ、リリアン様。まーたルイス様の邪魔をしてるんですね」
「ゲッ、アメリア」
ふぅ、助かった。
師匠の妨害はあるのだが、すぐにアメリアがやってきて助けてくれる。
父でも逆らえない相手なのに、アメリアは容赦がない。
「げっ、じゃないですよ。何度言ったら分かるのですか。ルイス様は真剣なんです。師匠が邪魔してどうするのですか?」
「だってー、ぼく暇なんだもん」
「魔法剣を調べるのはどうしました。本はここには無いですよ。ほら、調べにいってらっしゃいませ」
「えーーーーーーーっ」
ブーたれる師匠の首根っこをつかみ、外へと追い出してくれた。
これで集中できるよ。
「助かったよ、アメリア」
「ルイス様はリリアン様を甘やかせすぎです~。たまにはビシッと言ってくださいよ~~」
「すまんな、アメリアに頼りっぱなしだな」
「もう、ルイス様ったら~」
苦笑いで誤魔化しておく。
まあ、アメリアは怒ってはいない。
どちらかというと、俺の世話をやけて嬉しそうなんだよな。
一種のイベントというか、ここ最近はこんなやり取りが多い。
いまも上目遣いで甘えた声だから、俺もドキドキできて楽しいんだ。
「おっ、おやつを持って来てくれたのか。ありがたい」
「また話をそらしましたね~」
た、楽しい。
さすが『乙女と一緒にタクティクスサーガ』だよ。
プレイヤーのツボを心得てるよなぁ。
ヒロイン達とのイチャイチャも売りのひとつで、親密度が上がればデートなんかも出来たりする。
こういうのでも戦術がいるからな。
アメリアとは今日はここまでだ。
それに他に仕事はたくさんあるし、アメリアも俺だけにかまってばかりはいられない。
他の使用人たちが代わりにやってくる。
この人達との交流も、俺にとっては大切なんだ。
彼らと関わることで、徐々に悪名を払拭できるチャンスがある。
細かいが接し方であったり、話す内容によって1点2点と減ってくれるんだ。
実にありがたい日常だ。
「あ、あの、ルイス様、お手紙をお持ちしました」
「おお、すぐに持ってきてくれたんだな、ありがとう。大事な手紙だから助かるよ」
「い、いえ、とんでもごさいません」
ただし大半の使用人は、アメリアのようにはいかない。
まだ緊張しながら接してくるんだよ。
この娘もそうだ。用事が終わると一目散に逃げていった。
悪名が悪名だからな、恐れられているのがよく分かる。
騙されないよう警戒をしていて、目を合わせようともしてこない。
こればかりは仕方ない。
コツコツと信頼を勝ち得ていくしかないよ。
◇◇◇
〈ところ変わって、使用人の控え室。誰ともわからないメイドたちの楽しげな会話が飛び交っている。〉
(きゃー、ルイス様に礼を言われたわ~。マジカッコいいの、もう最高よ~)
(だよねえ、最近ますます磨きがかかってるから、じかに見れないよ。心臓バクバクでまじやばいわ)
(分かる~。たまに手が触れたりするとさー、すっごい気持ちいいのよ。アレなんだろね?)
(次は私の番ね、ちょっと行ってくるわ)
(いいな~、どうだったか教えてよー)
何やら廊下が騒がしい。
今まで俺が気づかなかっただけなのか、使用人たちが活気に満ちている。
真面目だし、よく働いてくれるし、来客にもウケがいい。
その真面目により、俺の新たな事実が判明した。
悲しいことに、俺はだいぶ汚いようだ。
恥ずかしい位によくゴミをつけていて、それを使用人に指摘される。
ーーつんつんーー
「ぬおっ!」
「あっ、すみません。ゴミが付いていたので」
「お、おう。ありがとう」
ーーつんつんーー
「ヒィヤッ!」
「すみません、私も見つけました」
「そ、そっか。すまんね」
と、取ったゴミやホコリを見せてくる。
とても尋常じゃない量なんだ。
最初はイタズラで触ってくるのかと思ってた。
でも本気で汚いみたいだよ。
みんな嫌なんだろうな、無表情で取ってくる。
ダブルのショックに襲われるよ。
鏡を見ても自分では分からない。
知らない内に付けていて、実に汚ならしいんだよ。
「もしかして、裏でゴミ男とか呼ばれてないかなあ、心配だよ」
悪名を下げる事に没頭しすぎた。
身だしなみだって大切だ。
もう少しお洒落も気にかけるか。
◇◇◇
(きゃー、ルイス様ってカッチカチなの~)
(うんうん、着痩せすらから気づかなかったけど、筋肉すごいよねぇ)
(それにヒィヤッって声も可愛いし、もうギュッてしてあげたいわ!)
(何回やっても怒らないしさ。次はお尻にしようかなー)
(エローーい、きゃははははは)
うっ、何だか急に寒気がしたきたな。
熱はないようだけど、ポーションあおって早めに寝るか。調子いいのにおかしいな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
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ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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