第5話 亜空間での特訓 ①

「それじゃあ、覚悟しな。僕が認めるまで止まらないからね」


「は、はい」


 重い言葉に、俺はうなずく。

 師匠の指先に魔力が集まったと思ったら、空間がゆがみ大きな門が現れた。


「この中は、時間経過が極端に少ない亜空間だ。長期の修行にはもってこいなんだよ」


「ルイスさま、お達者で。ぐすん」


「お、おう」


 付いてこれないと知ったアメリアは半泣きになっている。


 だいぶ粘ったが、食事やらは揃っているとリリアン師匠の説得され、しぶしぶ残ることを承知したのだ。


「修行頑張ってくださいね。ア、アメリアはいつまでもお待ちしております」


 今生こんじょうの別れでもないのに大げさだ。

 せめてもの励ましだと思い、元気に手をふって門をくぐる。


 中に入ると真っ暗やみだった。

 警告音も消えていて、完全に外とは隔離されているようだな。


 師匠の声だけが聞こえてきた。


「ここは何もないからね。光も君が作り出すんだ。まずは魔力の鍛練だよ」


 小さな手を添えられてやり方を教わる。光をイメージするのが肝心らしい。


 作り出すのは難しくはなく、すぐに出来た。自慢じゃないが、かなり強い光だよ。


「ははは、簡単ですね。……あら、もう消えた」


 たちまち辺りは真っ暗に戻る。再び出そうにも、魔力がないのか上手くいかない。


「ああ、持続が肝心さ。普段通りに生活をして、24時間灯せたら一人前だよ」


 そう言うことか。

 魔力操作と無意識の集中がいるな。

 それと大量のMPも欠かせない。


 幸いポーションで魔力回復をしてもらえるから、魔力切れは心配ない。


 何度も何度も試していく。

 気づけば食事の時間になっていた。


「はあ、たった1分か。情けないですね」


「この半日で1分なら上出来だよ。時間は無限にあるんだ、地道にいきな」


「はい」


 特製ドリンクと一緒に詰めこみ、すぐにまた特訓にかかる。地道だが、それを繰り返していく。


 ◇


 何日か経ったかもしれない。時計がないから時間の経過がわからないんだ。


 ようやく数十分は、連続で光を出していられるようになった。


 難しかった魔力のコントロールも、少しずつ掴めてきた。


 ま、それが出来るのもステータスの上昇の賜物たまものだな。


 名 前:ルイス・ウォルター・アルヴァレズ

 職 業:怠惰なクズ御曹司

 H P:14/14

 M P:46/46

 レベル:1

 体 力:2⇒7

 魔 力:3⇒23

 スキル:なし


 レベル1の一般平均が10だから、かなり成長しているよ。

 結果が見えるとやる気もいてくる。

 ますます修行に熱がはいるよ。


「そろそろ下地が出来てきたね。もうひとつギアを上げていこうか」


「いいんですか?」


「ああ、君は優秀な生徒だよ。その素直さが武器なんだろうね。お姉さん、そういうの好きだよ」


 無意識での操作法を極めるため、勉強を平行して教えてもらう事となった。


「数字には強いようだけど、他が足らないねえ。歴史や法律と覚える事はいっぱいだよ」


「師匠は何でもアリなんですね」


「ははは、マナーやダンスは専門外さ。それは外で教えてもらいな」


 楽しいな。それを長い時間をかけて覚えていく。


 お陰で知識も増え、空間全体を照らしても、全く灯りが途切れることもなくなった。


 また何週間か経ったのは確かだ。


「いいねえ、次に移ろうか。僕と魔力を押し合う組み手だよ」


 魔力の膜を形成し、突起をつくり相手に届かせる。これも魔力操作の訓練だ。


「いいよ、ルイス。今度は拳に集めてみな。うん、うまい、うまい!」


「ぐはっ! 1ミリも届いてないクセによく言いますよ」


「ははは、1ミリでも僕に刺さったら一人前さ。できたらご褒美をあげちゃうよ」


 少しでも雑になると、容赦なく吹き飛ばされる。


 手加減をしてこないのは、受け身の際にも魔力の膜を作れと事だ。


 そんな訓練を何ヵ月やったのだろうか。

 ステータスはどんどん上がっていき、体力と魔力ともに100へと到達した。


 次第に押し勝てる場面が出てきた。


「ルイス、君の才能には驚かされるよ。クズ豚ってのは本当かい? 僕には信じられないよ」


めてもらえるのは嬉しいですね。でも、隙ありーーーー!」


「おっと、甘いよ。それは罠~~」


「いってーーーー!」


 楽しくてしょうがない毎日だ。

 最近では、木剣をつかっての組み手も加わった。

 最高位の賢者だと思っていたが、むちゃくちゃカッコいい太刀筋だ。


 そんなある時、師匠からとんでもない事を告げられた。


「そろそろスキルが芽生える頃だよ。何がくるか楽しみだね」


「えっ……スキルですか?」


「おや、嬉しくないの? 張り合いがないねえー」


「またまた~、ご冗談を。スキルなんてそう簡単には生えないでしょ」


「何言ってるの、その為の修行だぞ。もしかして、君は僕の事を見くびっている?」


「い、いえ、滅相もないです」


 冷静さを装うが、内心は『キターーー』と絶叫だ。


 スキルなんて特定キャラのイベントでしか、手に入らない代物だ。


 何がくるかはランダムのようだが、それでもこれはデカいぞ。


 このゲームでは、S、A、B、C、Dランクと5段階に分かれている。

 もちろん上位ほど希少で、ランクがひとつあがるだけで威力は倍増する。


 期待しすぎは良くないけど、できたら上位のスキルが欲しい。


 例えば竜言語魔法や神殺剣術になったら、勝ち組確定。想像しただけでヨダレが出てくるよ。


「そうニヤケないの。生えてから喜びな」


「はい」


 ただ強くなりたい。成長したい。

 その欲求が俺を突き動かしてくる。


 どんどん師匠にのめり込んでいく。時間の経過はわからない。

 もっと技をしりたい。師匠と同じ高みに登りたい。


 強く願って稽古にはげんだ。


 夢中でつづけていると、視界が光に包まれ体が軽くなった。

 とすぐに光は収まった次の瞬間、渾身の一撃を入れる事ができた。


「ぬぬぬ、やるわね」


「師匠、いま何かが俺の中で弾けたような感覚でした。これって一体なんですか?」


「それがスキルの発現さ。ステータスを確認してごらん」


「ついにですか」


 ゴクリと喉をならし、震えながらステータスオープンを唱えてみる。


 ◇◇◇◇◇


 名 前:ルイス・ウォルター・アルヴァレズ

 職 業:クズ御曹子

 H P:62/200

 M P:78/200

 レベル:1

 体 力:100

 魔 力:100

 スキル:魔法剣(Lv1)New!


 ◇◇◇◇◇


 きた。


 うん、きたよ。


 不可能だと思い込んでいたが、ちゃんと俺の物になっている。

 しかも俺が熟知しているスキルだ。


 悪役のルイスであっても、これは勝ち筋が見えてきたよ。


 もっと感動に浸っていたいが、リリアン師匠が覗き込んでくる。

 早く教えろって顔だよな。


 まあ俺の顔をみれば、良いのを引き当てたのは丸分かりだが、ちゃんと話さないとな。


 ニヤリとする俺に嬉そうに催促してくるし、焦らさず素直に報告をした。


「やりました、師匠。スキルはあの魔法剣でした」


「うわっ、やばっ」


「やばい?」


 あれ、変な反応だな。喜んでいる感じがしない。


 視線をずらしてひきつっているし、口ごもっているよ。


 これには俺も戸惑ってしまう。

 微妙な空気が流れているよ。

 

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