第4話 師匠のパンツをゲットせよ

「ヒィッ、ヒィッ、フーッ。ヒィッ、ヒィッ、フーッ」


「ほらほらー、足が上がってないわよー。もっと高く上げなさーい」


「ブフヒーーー(苦しいーーー)」


「まだ50mも走ってないのに、そのざまなの。この怠け者!」


「く、くそーーー、ブフーーーッ」


 朝イチで魔法の師匠がやって来た。


 俺の魔力はたった2しかない。

 だが1しかない体力よりはマシだと、期待で胸をふくらませていた。


 なのに、魔法の修行ではなくて、おもいっきり走らされているんだよ。


「ブッフーーーーーーーーーッ!(死ぬーーーー)」


 ◇◇◇◇◇


 出会いは朝食を終えたすぐだった。

 居間に可愛らしい少女がいて、それが魔法の師匠だと紹介された。


 どうみても10才前後の少女だ。

 びっくりさせられるが、悟られないよう冷静を装う。


「リリアンだ。君がクズ豚と噂されているダメ人間かい?」


 ツインテールのロリ少女から、上から目線での第一声だ。これには更に驚かされた。


「嘘だろ、あの『お助けリリアン』のイベントかよ」


「ほう、僕の事は知っているんだね。ならば話は早い。さっそく修行をはじめるよ」


 首根っこをつかまれ引きずられる。

 俺の1/4にも満たない華奢きゃしゃな体格で、難なくそれをしてくるのだ。


 でも不思議なことではない。

 このリリアン・ツインテールなる人物は、見た目とは裏腹に何百年も生きている。

 世界から賢者と崇められている方なのだ。


 あと、僕っ娘でもあるのでプレイヤーの中でも根強いファンが多い。


 見た目とのギャップに萌えるらしいが、実物を目にするとその気持ちがわかる。


 まあ、味方にこそならないが、フラリと現れ様々なイベントを起こしてくれるんだよ。


 装備品やレベルアップなど、他では手に入らない恩恵はマジ有り難い。

 これでスキルもくれたらなぁと、よく仲間内で話していたものだ。


 ただしリリアンによるお助け期間は短いんだ。

 せいぜい1日か2日しかいない。これはどん欲にいくべきだな。


「師匠、ご指導よろしくお願いします」


「ふーむ……魔法習得のまえに、その突き出たお腹をなんとかしようか」


「へっ、ダイエットで?」


「体力がなくちゃ魔法もへったくれもないだろ。それとただ走るんじゃないよ。足に魔力をまとわせて、負荷をかけておやり」


「き、筋トレじゃん」


「つべこべ言わずサッサとやる。ほらーー!」


 指先から電撃をだし、器用にも俺の尻に当ててきた。


「いってーーーー!」


 元より鍛えるつもりではいた。

 だが、想像以上にこの体は情けなかった。

 ほんの20mで息がきれる。



《ミッション発生 リリアンの下着を盗み、屋敷から追い出せ (報酬、クリアケース) ☆☆★》



「ぶっふーーーー!」


 はあ? 屈折したミッションだな。しかもこんな余裕のない時に。


 そもそもパンツは、見たり脱がしたりするから楽しいんだよ。

 馬鹿すぎて考えるまでもない。


 それと他に魔法の師事を頼める人がいないんだ。

 こっそりとアメリアが教えてくれたが、頼んだ他の人には全て断られたらしい。


 たった1日であっても、リリアン師匠が俺にとって最後の頼みの綱なのだ。パンツを盗るなんてとんでもないぜ。


「ぶふふぶ、ぶふぁぶふーー(にしても、痛いってーーー)」


 リリアン師匠は一切の手加減をしてこない。

 有難いが、かなりキツイ。


「ルイス様、頑張ってくださーーい」


 チアの格好で、アメリアが応援してくれている。

 だが限界だ。無様にも倒れてしまった。


 顔面を打つかと思いきや、アメリアの膝枕で助かった。すげえタイミングで柔らかい。


「ル、ルイス様、大丈夫ですか?」


 答えようにも指一本すら動かない。

 汗と痙攣けいれんが続く。まだ100mも走ってないのにだ。


「ふーむ、今日はここまでだね。アメリアだっけ、この怠け者を休ませてやりな」


 アメリアが水を差し出してきた。

 グビグビと飲み干した。


「あ、り、ブフー」


 酸素が足らなくて、声にならない。

 だが、100mとは情けない。


 大きく深呼吸をし立ち上がる。

 肩を貸そうとしてくれるアメリア。それを断るのに首をふるしかできない。


「ルイス様?」


 ぎこちない笑顔をしてみせて、再び走り出す。

 師匠が冷ややかな言葉で止めてきた。


「おいおい、自堕落な生活をしてきたんだろ。急な変化は毒だよ?」


「だ、だから……こそだ」


「ほほう」


 言いたい事は沢山ある。


 後がないとか。

 変わりたいとか。

 記憶のルイスに負けたくないとか。


 だが、息をするので精一杯。

 伝えられないのがもどかしい。

 とにかく足を前に出す。


 師匠が頭に水をかけてきた。


「な、なっ!」


「魔法回復ポーションだよ。負荷がなけりゃ効果が薄いからね。その根性をムダにするのは勿体ないよ」


「は、はひ」


 それから倒れる度にアメリアに助けてもらい、また走り出すを繰り返した。


 お昼まで走り続けた。


「よーし、お昼ごはんにするよ」


 外での食事となった。

 もう歩けないので有難い。


「ルイス様、言われた通り脂肪分ぬきのヘルシーメニューですよ」


「それとルイス、これも飲んでおきな。ぼく手作りの特製スペシャルドリンクだ」


 手作りのスペシャルドリンク?

 クセがなく一気に飲み干す。


 食事のボリュームは満点だ。

 吐き気で食べれないと思ったが、そんなの心配無用であった。


 爆食し、ゴロリと草むらの上に寝転がる。


「ふわー、食ったーーー。ありがとな、アメリア」


「はい、見ていて気持ち良かったです」


 走った距離は大したことがない。かなり遅かったからな。

 だが全力をだし、途中で投げださなかった。


 師匠も我慢強くつきあってくれた。


 さっきのミッションを思い出す。


「パンツってか、アホらし」


 こんな良い人を裏切れだなんて、最悪なルートを歩ませるつもりだな。


 まっ、どんな悪役人生設計であっても、その件にはのっからないよ。


「ルイス、ステータスの変化はあるかい?」


「ステータスですか?」


 おっと、今は修行に集中だ。馬鹿なミッションの事は忘れてしまおう。


 言われるがままステータスオープンをし確認した。



 名 前:ルイス・ウォルター・アルヴァレズ

 H P:2/4

 M P:0/6

 レベル:1

 体 力:1⇒2

 魔 力:2⇒3

 スキル:なし


 悪 名:9,980



「は、はい?」


 HPとかも含め、ステータスが軒並みあがっている。


 基本ステータスの上昇はレベルアップでおこる。それこそゲームの基本だよ。

 走っただけで上がるなんてあり得ない。


 でも実際におきている……まさか。


「あっ、さっきの飲み物ですか?」


「ああ、努力したからね。その結果が出たのさ」


「うおおおおおおお!」


 これがお助けリリアンの恩恵かよ。凄すぎるだろ。

 これを続けたなら、なんとかなるかも知れないぞ。


 勇者がきても一方的にボゴられるのも無くなるぞ。

 そう喜んだけど、お助けリリアンの基本を思い出した。


「あっ、そうか。『続けたなら』か。ふぅー、そう上手くはいかないよな」


 リリアンからの指導は、一時的なイベントで短期間のお助けだ。


 だからずーっとはあり得ない。無い物ねだりはムダな時間だよな。


 そうなると食後の休憩もおしい。少しでも長い時間を師事してもらいたい。


「師匠、午後もよろしくお願いします」


「いいねぇ、うんうん。じゃあ特別メニューをやってみるかい? 今のアンタにはぴったりだよ」


「と、特別メニュー?」


 き、き、きたーーーーーーーーー!


 特製ドリンクに特別メニュー。

 このコンボはでかいだろ。


 さすがお助けリリアン様だ。


《ビーゴン、ビーゴン、ビーゴン。ルートから逸脱しています。警告、今すぐリリアンに襲いかかってください》


 興奮しているからか、頭の中で響く警告音さえ気にならない。

 俺はもっと成長できるんだよ。


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