第113話 あれ?俺って何時代に転生したんだっけ?

 出雲・月山富田がっさんとだ城から備後の山中を抜け、毛利家長年の本拠地であった吉田郡山よしだこおりやま城を通って瀬戸内海沿岸の新たな城・広島城まで40里(約160km)


 吉川元春の計らいで俺とカンパチと軍監、光と元春の正室・新庄局で馬車に乗り込む。ちなみに鮫之介サメは流石に連れて行けないので月山富田城で俺達が戻ってくるまで捕まっていてもらう事にした。流石にあんな大暴れを何度もされたんじゃ敵わないからな。


 件の吉川元春は馬車では無く、馬に跨ったので俺達もと申し出たが『他家からの客人を馬車に乗せないのは吉川家の面子にかかわる』と言われて大人しく従う事にした。のだが……


 

 気まずいっ、密室で知らん初対面のオバサンも交えての移動とか気まずすぎるよっ! おまけにこの新庄局って人、なんていうかブ……いやかなーり個性的な顔をしているし、その上気さくに話しかけても大丈夫ではなさそうなツンとしたオーラを放っている。うかつに話し掛けて何か地雷を踏んでしまったらヤバい、と他の3人も思っているのか誰も何も話題を振ろうとしない。


 おまけに移動中、何者かの襲撃を受けた場合の守備も考えてか、馬車は分厚い革製の幌で覆われていて外の景色は見えない。採光用に高い位置に隙間は作ってあるが、それも視界よりはるかに上だ。乗り心地は予想していたよりも快適で、馬と違って自分で手綱を握ってバランスを取る必要が無いので楽ではあるがその分、退屈で眠くなる。薄暗い無言の中でゴトゴトと揺られているうちに俺はいつの間にか寝てしまっていた。



「……四郎、寿四郎!! もう~さっさと起きなさいよ!」


 突然、光の声で叩き起こされて幌が開けられ、眩しい光に目を細める。馬車はもう目的地に着いたのか全く揺れを感じなくなっていた。


 だが肩と膝の辺りに重さを感じてそちらを見るとなんと、軍監が俺の肩を枕にして、カンパチは俺の膝枕でぐっすりと眠っている。おいおい、光か若芽かウチの娘達なら許してやるが、さすがにおっさん二人に囲まれてのコレは嬉しくないわ。


「まったく、殿方はいっつもこんな感じなのですから。会話を楽しむ余裕というものがありませんのね?」

「そうなんですよ、御方様。寿四郎、もう先に御方様に案内してもらって城に向かうからね!」


 いつの間にか光と新庄局は馬車を降りて先を歩いている。その姿は母娘のような雰囲気でとても仲が良さそうな感じだ。俺達が寝ている間にどんな会話を繰り広げていたのかわからないが、意気投合してくれたなら何よりだ。


 ただ……1つお願いするなら両脇を固めてるおっさん二人をどかすの手伝ってから降りて欲しかったな。重くて降りれない


 

「すっげぇ! なんだ此処は!?」


 米子に着いた時にも驚いたのだけど、馬車を降りた先に広がっていた景色はその比では無かった。


 城の堀から幾重にも伸びた水路に沿って建物が所狭しと立ち並び、それらが瀬戸内海へと向かってずっと続いている。その間を広い石畳の道路が広がり、港の方向から城へと向かって絶え間なく行き交う馬車。


 そこから積み荷を降ろす人々はタキシードのような服装で身を固めていて、受け取る側は昔の海軍のような軍服にズボンにブーツだ。腰に下げているのは刀ではなく、西洋式のサーベル。



 あれ?俺って何時代に転生したんだっけ? 今って戦国日本……よね?



「日ノ本のヴェネッツィーアこと広島へよくぞ参られた。朕こそが毛利家当主・毛利・テルマエ・ジャポーネ輝元てるもとであーる!」


 

 今なんか偉そうな声で変なワードが後ろの方から飛んできたな? かなり発音はクセがあるけどヴェネチアとか何とか。しかもテルマエなんてたしか風呂って意味だから異名が『日本風呂』ってことになるけど知ってて使ってる?? と思いながら振り返るが、壮大な造りの広島城がそびえ立っているだけで誰も居ない。


「ここじゃ、ここ」


 声に合わせて視線を下げると、そこには小学生ぐらいの子供と変わらないような身長の、変な格好をした男が偉そうにポーズをキメていた。真っ赤なガウンみたいなのに中世の肖像画でしか見た事無いような馬鹿デカいヒダヒダのエリを付け、モコっとした短パンに白タイツを履いてチョビ髭でステッキなんて持っている。ギャグか? その格好は客を驚かせて楽しませるためのサプライズなのか!?


「あまりに斬新で洗練された朕の服装に驚いたであろう? これこそが洗練された南蛮渡来の正装! そしてこの毛利の新たな中心地・広島こそが南蛮の都を体現した日ノ本イチの南蛮都市なのじゃ!」


 

 いや、それを正装だと言い張ってドヤ顔で自慢してる君に驚きだよ! この男が本当に毛利輝元なのか? これホントは夢で俺はまだ馬車に居るとかじゃないの? お願いだから、変な夢でうなされてるだけだと言ってくれ!


「ほっほーう、まぁだ馬車酔いから醒めておられぬようだな。では酔い覚ましに良きものを見せてやろう」


 毛利輝元を名乗る変な男が指を鳴らすと、後ろに控えていた銀縁眼鏡で執事風の服装をした男が片手を挙げ、兵達に命令を下す。


 

「東国よりの使者殿を歓迎する為、祝砲! 発射!! 」


 その掛け声と共に、広島城の前に整列した軍服姿の兵達が火縄銃の倍もありそうな長さのマスケット銃を天に向かって一斉に構える。次の瞬間、甲高い発砲音が一斉に鳴り響いて空に向けて空砲が撃ち放たれた。


 そして次の瞬間には並んでいた兵隊たちの後方から、これまた真上方向に照準の向けられた大砲が前列へと運び込まれ、ドドドドドドッという音と共に空へと火花が上がる。ちょうど城の上空へと打ちあがったソレは天守閣より高い位置で炸裂し、花火となって色とりどりに空を染める。


「ふぅむ。やはり花火は夜に限るの。また夜に打ち上げるので楽しみにしておれ♪ して、目は醒めたかの?」


 

 いや正直、目が醒めたどころか度肝を抜かれたわ。マスケット銃、と言えばいいのか火縄銃の倍もありそうな長さの銃の先には槍が付けられていて、それを持った兵士が軽く見積もっても100人は並んでいる。


 先程花火を打ち上げた大砲も撃ったのは5、6発だがその3倍近い数が並べられていた。これは歓迎どころか『毛利を敵に回すならこの武力を相手にすることになるぞ』っていう無言の脅しみたいなものだ。


「ほっほっほ、ならば良い。今度は城を案内するゆえ、付いて参れ」

 

 輝元が再び指を鳴らすと城から俺の足元まで真っ赤なカーペットが現れ、その両脇に軍服姿の毛利兵が立ち並んで敬礼する。そんな奇妙な状況の中を、俺達は広島城内へと向かって進むことにした。


____________________

 お読みいただきありがとうございます。

今話の輝元の服装ですがアントニス・モル作

『フェリペ2世』の肖像画の服を赤くして

エリマキトカゲ級にひだ襟をデカくした奴を

イメージしていただけると幸いです。

(結構調べ周りましたw)

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