第38話 乾坤一擲の大博打
前回までのあら寿司
今川家として最後の総力戦で曳馬城に籠った徳川家康を攻める寿四郎達。ついに曳馬城を陥落させ、城から逃亡する徳川家康を追い詰める!! リベンジなるか!? 寿四郎!?
堂々の第一幕最終話です!
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曳馬城の西、三河側へと出るための虎口(城門)。四つ有った虎口のうち三方を包囲された松平勢がここに殺到してきていた。虎口をくぐって城外へと脱出した先頭集団の中に金色の鎧に身を固めた男を発見し、すぐさま全軍で突撃を掛ける。
「やっとたどり着いたぞ!! 松平家康!! 俺を覚えているかッ!!? 」
迎撃に向かってくる騎馬武者を打ち払いながら叫ぶ。一年前のあの日からこの時をずっと待っていた。あの時は何をどう足掻いても届くはずも無かった槍が今、届きそうなところまで近付けている! そう思うだけで力が漲ってくる。どれだけの敵が目の前を遮ろうとして来ても絶対に負けることは無い、そんな気がした。
「お、おぬしは誰じゃ!? ワシは知らん、お主のような者など知らんぞ! 」
想定通りの答えが返ってくる。ああ、そうだろうとも。貴様にとっては戦場で戯れに命を狙い、惜しくも取り逃がした名も知らぬ有象無象の一人だろう。だがな、こちらはそうは思っていないんだ! 俺の恨み、あの時刺し違えてでも貴様の首を獲ると決めたこの想い、味わうがいいッ!!
俺はここが乾坤一擲の大博打と決めて、家康の跨る騎馬に向けて全力で馬を駆る! 進路上に一騎の兵が遮りに入るが、突進の勢いを利用して槍を突き入れる。そのまま騎馬の武者を振り落とすと馬同士が接触するのも構わずに駆け抜けた。俺の突き出した槍は家康の跨った馬の喉を突き、馬が勢いよく倒れて金色の鎧が泥の上をゴロゴロと転がる。
「絶対に逃がさねえッ!! 」
俺も馬から飛び降りると泥にまみれて色が変わった鎧を追いかける。走り抜けながら刀の鍔に手を掛けて抜き放つ!今ココでその名の示す力を発揮してくれよ、徳川スレイヤー・妖刀村正!!
「これで終わりだッ!! 」
俺の抜き放った一太刀は立ち上がりかけた家康の胴を鎧ごと逆袈裟に斬り裂いた! 血しぶきと悲鳴を上げて前側に崩れ落ちる。その顔は驚愕に満ちていた。このような者に何故自分が、とでも言いたそうな表情。
そうだろうな、まさかこんな名も無い者にこんな所で討ち取られるとは思っても見なかっただろう。だけどな……俺だってこの時代でも平和に生きていけると、やっと子供も生まれて幸せを感じて生きていると思えた矢先に、こんなにもあっけ無く最愛の人を奪われて幸せを奪われるとは思ってなかったんだ。そうして奪われてまた奪って……なんだろうな、そんな事を続ける意味って。
これでようやく雪辱を、敵討ちを果たしたはずなのに何故だか空しい気分だ。
総大将である家康が討ち取られたことを受けて、城内に遺されていた者は皆降伏した。城外で戦っていた大久保勢は、大筒による砲撃で城が逃げ込めない事を判断すると早々に撤退している。やがて降伏した者の捕縛が終わり、城周辺の安全が確認されると王子がこちらにやってきた。が! 開口一番、思ってもみなかった言葉が告げられる。
「その者は竹千代(家康の幼名)ではないぞ。奴ならばもっと品の無い顔をしておったわ」
まだ泥や血を落としきれていない首を確認するなり王子は吐き捨てるように言った。影武者、という事か……だとしたら本物の家康は元々この城に居なかったのかそれとも何処に潜んでいたのか。
「松平家康、どうやら大久保忠寄と具足を入れ替えており、既に逃亡済みのようです」
王子の後にやって来た伝令が捕えた者からの情報を伝える。まさか前線に大将が紛れてるとは誰も気づけないわ! その為の大久保軍団だったって事か、とんでもない大胆な策だ。してやられたぜチックショウ!
「それはともかく。曳馬城から、この遠江の地から松平を追い出すことには成功した。寿四郎、これはお前の手柄だ! お前の陣頭指揮でこの勝利を手にした、そういう事で良いな? 」
と告げる蹴鞠王子。本当なら今回の勝利を『自分の采配の結果だ』と喧伝すればもう一度、戦国大名としての道も開けるかもしれないのに……と俺は喉まで出かかったのだが、蹴鞠王子は何年も前から変わらない、悪ガキのような笑いを浮かべて叫んだ。
「よぉし!! 駿河に戻って蹴鞠すんぞ!!!」
~ 蹴鞠で始める天下泰平 転生した戦国大名の息子は血を見るのが嫌なので戦をさっさと終わらせて蹴鞠で遊んで暮らしたい 完 ~
……
ってのは王子の話で俺の話じゃないし大体アイツは転生者的なナニかではない、多分。
俺と、この遠江・駿河のその後に話を戻そう。
井伊谷城の奪還戦も含め、曳馬城での戦後処理が終わって遠江の要害・高天神城に戻った俺達は主だった者を集め、評定に入る。曳馬城は度重なる戦と今回受けた数発の砲撃で城がボロボロになっている事を受け、新たに作り直すことが決定した。
今回陣を置いた磐田の地にも新たな城を築き、曳馬・磐田・高天神と海沿いの平野に3つの城を連携させ、山側には井伊谷城・二俣城・掛川城の3つに力のある武将を配置することで遠江の平野部は押さえられる。
武田と領地を接する山側の国衆たちは今回、今川に逆らえば武田に滅ぼされるという不安から大きな反乱は起こらずに済んだ。
この遠江は今後、朝比奈信置が国主となって朝比奈家・岡部家を中心に再興していく事がすでに決まっている。
そして駿河は先月の朝比奈城での評定で王子がブチ上げた通り、駿府から小原一味を追い出した戦功と今回の戦の戦功を以て俺が王子の後継として国主になる事が決定した。
領内は目立った離反や内乱も出ていない事から、これまでの今川家重臣が所領安堵で各地域を治めていく事となり、それに異議を唱える者もほとんど居なかったらしい。数人は反乱国衆の鎮圧が必要らしいが、それはあまり問題ではなさそうだ。
ただ駿府の町はここ数年の動乱と小原との戦いですっかり荒廃してしまったので、今川館は取り潰して新たに太守の館を含めて再建していく事になった。
とはいえ軍監の采配で名のある貴族や商家は、町が戦に巻き込まれる事とその後の復興までを見越してあらかじめ小田原に財産ごと避難してもらっていたので、彼らが戻ってくるなら復興も早いだろうとの事だ。彼はその為に新三国同盟の直後から駿府-小田原間を行ったり来たりしてたのだとか。
どんだけ先読みが早いんだよアイツ。エスパーかなんかなのか。
それから半年が経って色々な事が落ち着いた永禄8年(1565)1月半ば。
駿府が復興するまでの仮住まいである蒲原城にて、駿河国主として初めての新年の祝賀を執り行う事にした。祝い膳として用意したのはもちろん寿四!寿司ネタの華、マグロを中心に・金目鯛・寒ブリ・寒サバといった冬に油が乗った旬の魚が中心だ。
「ふむ、貴様の国主としての振る舞いも中々板に付いてきたな」
寿司をつまみながらそう言ってくるのは元上司にして、今は遠江朝比奈家の客将となっている蹴鞠王子だ。自分ではわからんがそういうものなのかな?
「いやいや、彼の堂々とした立ち振る舞い。我が親父殿にも臆さずモノ申せる態度。初めてお会いした時から大将の器であると我が北条家は見抜いておりましたぞ」
とフォローしてくれるのは北条家の4代目当主・北条氏政。いや初めて小田原城天守閣に呼び出された時は内心チビりそうなぐらい緊張してたんだけどさ、バレてないならそれで良しだ。
「何を申す、この寿四郎の乱世には珍しい潔さと筋の通った一本気、初めに見初めたのはこのワシぞ!」
最初に発掘したのは自分だと言い張るのは甲斐の虎・武田信玄。そうだな、確かにあの時、この男に認めてもらえたことから色んな事が始まっていった、気がする。
「私も寿四郎殿のお陰で、こうして安寧に過ごすことが出来ておる。感謝しているぞ」
人前なので髷を結って男装した姿だが上杉輝虎もそう言って感謝を述べる。越後に関しては俺が出来た事は大して無いように思うのだが信玄が俺の前で話した通り、俺の存在が信玄の意識を変え、それによって犬猿の仲だったものを和平に結びつけたのだとしたら少しは役に立てたのかもしれない。そう思っておこう。
「ようやく駿府も再興しつつあるな。我が遠江も比奈浜・磐田と築城が進みつつある。比奈浜城が完成した暁には一度見に来るといい」
これは新たに遠江国主となった朝比奈信置。曳馬城のあった場所には前よりも大きな城が作られ朝比奈家の名から比奈浜城と名付けられるらしい。遠州平野と浜名湖を一望できる天守が出来上がる予定だとか。出来上がったら是非とも行ってみたい。
甲斐信濃に関東相模、日本海越後とここ、駿河・遠江。
残念ながら三河は家康に切り取られてしまったし、さらに西にはまだ対峙したことのない乱世の怪物、第六天魔王・信長がこれから勢力を伸ばそうとしていたりと乱れた時代だけれど、俺達はこうして集まって力を合わせながら誰も飢えたり無益な争いで亡くす事のない天下泰平を目指して、自分たちの領地を守りながら生きていく。奪い合う事ではなく、お互いの差し出せるものを出し合い分け合って新たな価値を生み出すことが誰もが豊かに過ごせる未来に繋げられると信じて。
~ 第1幕 完 ~
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お読みいただき、ありがとうございます。
これにて第一幕完結となります!
感想など応援でいただけると嬉しいです。
第二幕以降も乞うご期待!!!
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