【最終幕、連載開始】寿司から始まる天下泰平 ~転生したら漁村の豪族だったので戦国で寿司を作ります~

川中島ケイ

第一章 立志編 ~戦国転生から東駿河国衆へ~

第1話 寿司屋でコケたらいきなりの小〇伸也

この物語はフィクションです。

登場する名称は実在の人物・団体などとは

一切関係ありません。


また作中に「ドラ〇もん」のような伏字も出てきますが

読者様がイメージしやすいよう、現代にある分かりやすいものに

置き換えた比喩ですので形容詞的なモノと捉えていただければ幸いです。

____________________


 俺の名前は浜中 寿(はまなか ひさし)34歳独身。


 地方都市で食品メーカーに勤めながら一人暮らしをしているごくごく平凡な社畜だ。


 平日は大体7時か8時くらいまで残業して、土曜も休みのはずなのに大体会社に居て、日曜は疲れ果ててダラダラ寝てて1日が終わる、そんな快適な社畜ライフを送っている。


 そういう生活なんで友達と遊ぶこともなければ彼女も久しく居ない日々。だから楽しみといえばコレぐらいしかない。


 土曜日の夕方過ぎ、大手チェーン店の寿司屋のカウンター。これからファミリー層で混み始めるであろう時間に、俺は何貫かの寿司をつまみに2杯目になる生ビールを飲んでいる。


 土曜日は休日出社で特に定時もないので大体16時には退社して、ウチの会社の商品を扱ってくれているこのチェーンに来るのが半年ぐらい前からのルーティンになっていた。


 カウンターの後ろの方で順番待ちをしている人込みをチラ見しながら優雅にジョッキを傾けるのは少しだけ優越感に浸れて気分が良い!


 時折ファミリー層の『こっちは待ってるのにまったりしやがって』みたいな視線を感じない事もないが、こっちはあんたらが休日を優雅に過ごしてる時間も必死で仕事してたんだ、それぐらいは許せよって思ってやり過ごしていた。


 ビールを飲みながらスマホのニュースサイトで入ってくる情報は『物価は高騰してるのに賃金が上がらない』とか『来月からまた値上げ』とか『海外の戦争がまた戦局悪化した』とか『何処かで強盗が』とか特殊詐欺とか本当にうんざりするものばかり。

 だけど、ここで席について寿司食ってる人たちを見てる分にはなんだかそういうものからは遠いような気がした。その光景に自分の仕事が少しでも貢献できていることも僅かだけど達成感を感じる。


 ……なんだかなぁ、政治とか難しい事はよくわかんないけど、みんながこんな風にささやかに楽しんで暮らせるのが続いてくれればいいのに……


 そんな事を考えながら皿に残った寿司をつまんでビールのジョッキを空け、ちょっとトイレにでも行こうかと半分立ち上がって振り返ったのと、人込みを避けようとした誰かが俺の座ってる椅子の足にぶつかったのが同時だった。


 あ!!! ヤバい!!!! これコケる!!!!


 と思った次の瞬間には視界がひっくり返るのを感じてガン!!! と良い音と共に俺の頭は地面に叩きつけられた!


「お客様!!! 大丈夫ですか!!? 」

「おい! 誰か救急車呼んでくれ!!! 」


 周りにいた人間がガヤガヤと喋っているであろう声は聞こえるが、どれも声が遠すぎてあまり聞き取れない。それよりも何も痛みを感じない事が逆にヤバい様な気がする。


 普通さ、こういう時ってまさしく頭が割れるようにズキズキ痛くなったりするもんだよな……おかしいぞこれマジで……


 そう思ってるうちに声だけじゃなく視界もぼやけてきて、眠気に抗えずに寝落ちする時みたいに俺は気を失った。




 気が付くとすぐ近くで波の音が鳴っていた。


 目を開けてみると一面の砂浜と海が目に飛び込んでくる。太陽は高く、照り付ける光が眩しい。


 起き上がってひとまずは打ったはずの後頭部をさすってみるが、痛みも触ってみた感じの違和感もない。


 良かった、とりあえず打った頭は大丈夫みたいだ! 違和感といえば俺こんなに髪長かったっけ?ってぐらい。


 その後、後頭部に触れた手も見てみるが血が付いたりもしていない。でもなんか手とか腕とか心なしか短い感じがするし、さっきまでスーツだったはずなのになんかボロい浴衣みたいなのを着てる。


 一体ここは何処だろうと思いながら足元の水面に映る自分の姿を確認すると……


「え!? コレ俺??? 」


 そこには見知った『疲れきった典型的な中年差し掛かったおっさん』の姿じゃなくて(自分で言って悲しくなるけど)小学生か中学生ぐらいの少年が映っていた。


 髪は頭のてっぺん辺りで一つにまとめ上げ、日に焼けて色黒だが幼い感じの残る顔つきをしている。手足はヒョロヒョロで細く、着ている服も生地が薄い半袖短パンみたい長さ。


 それでも寒さを感じないというのはきっと、この辺がそんなに寒くない地域だからなのか? あるいは夢だからなのか。


 二番目の可能性を考えて腕をつねってみると


「痛ッ!!!」


 どうやら痛覚はあるから違うらしい。


 にしてもコレが34歳男性の身体なワケは無いから、ホントに何が起こったか分からないけどな。


「もしかしてこれ…異世界転生ってやつか???」


 数日前に会社の後輩女子達が社内の自販機前で話してたワードが唐突に思い浮かぶ。


 なんでも現世で不慮の事故に遭った主人公が中世のファンタジー世界に飛ばされて転生者特典で貰った力で無双する話が流行ってるとかで、漫画とかの方面だと作品数が多すぎて一大ジャンルになってるとか。


 でもさすがに【寿司屋で転んで頭打って異世界転生】とか多分そんな前例はないし生えてる木も服も明らかに日本っぽいからファンタジー世界ではないか……


「おおーーーーい!!! 若ぁーーーーー!!! 探しましたぞーーーー!!!」


 考える暇もなく、急にどこからかそう叫びながらこちらに向かって走ってくる小太りの男が見えた。


 見た感じは40代半ばぐらいか、薄くなったボサボサの髪の質感で俺よりは歳食ってるであろう事がわかる。そして俺が着てるのと大差変わらない、粗末な感じの作務衣か浴衣みたいなのを着ている。


 どことなく小〇伸也っぽい感じがする男だな。


 砂浜を軽快とはいえないドタドタした走りで近付いてくる男を観察していると、男は俺の前で立ち止まって息を切らしながらこう言った。


「もう!! 城を出られる際はこの爺めにちゃんと言ってくださいよ! おかげでだいぶ探し回ったじゃないですか!!! 」

「ああそれは、どうもすみません。」


って条件反射で謝っちゃったけど、え?? いやアンタの探してた若って俺の事? 俺はアンタを見た覚えはないんだけどな……


「ところでアナタどちら様でしたっけ?」


 まだ息が切れている小手〇也っぽい男に尋ねると何の冗談かというような口調でこう答える。


「ハハハ…… ご冗談を! 長年の若様の教育役、多羅尾増俊たらおますとしにございますぞ!! 若様が生まれた時から知っているというのに。なんなら乳が欲しいと出るわけも無いのに私の胸をしゃぶったこともあったというのにお忘れですか?」


いやっ!!!

いやいやいやっ!!!


 どう見ても俺の上司か取引先の上役ぐらいの年代よね!?幼少期の記憶とか曖昧だとはいえさすがにこんなイカツイおっさんの乳とかしゃぶった記憶ないんですが!!! いや、そんなエピソードあったとしても0歳児で覚えてるワケねーだろ!

とツッコミを入れるべきか迷っていると


「冗談はともかく、久しぶりに城に戻られた父君が若を呼んでおられましたぞ! 早う城に戻らねば!! ささ、早く早く!!! 」


と言って俺の背後に回り込み、その太い腕で背中を押して歩かせようとする。


「城って何ですか!? それにウチの父がいるとかホントに? に人違いだと思うんですけど…… 」


 そう言って抵抗してみるが体格差からか全く動じず、取り合ってくれる感じはない。


「まあまあそんな戯言は城に着くまでに聞きますから!! さ、若もご自身の力で歩いて下さいよ!! このまま押してるとワタクシも持病の腰痛がまた出てきてしまいますから」


 腰痛を盾に取られてはおっさんは従うしかない。


 自分がゴネたせいで人の腰痛の原因になったとか申し訳ないからね。同じ痛みを知る者にしか分からない苦しみというやつだ。


 とりあえず、案内されるままに俺はその城とやらに行ってみることにした。


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