第1回『スタート』参加作品
コメディ/高校生
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「スタート」
教科担当の合図と同時に、鉛筆を走らせる音が響き出す。
授業前の小テスト。スピード勝負の三本勝負。
一様に濃紺に包まれた生徒たち。見慣れたいつもの顔ぶれも、その瞬間に表情を変える。
本戦たる期末試験のための腕試し。微塵も気を抜くわけにはいかない。
テスト用紙との一騎打ちの始まりだ。
スタートを切るや、忘れず書かねばならないのはもちろん名前。
僕は一心不乱に氏名欄を埋めていく。
『鷹庭鷺祥慈郎』
いや画数多すぎだろ!
『鷹』書いている間に『田中一』なら二問はいくぞ!
そうだよ。こんな小難しい苗字なんだから、せめて名前は『
この際ひらがなで書いてやろうと思ったこともあったが、それはそれで『たかにわさきしょうじろう』だ。画数では確かに圧倒的に優位だが、なかなかに長い。
それに常に学年トップ3の成績の僕が、『鷹庭鷺祥慈郎』ごとき書けないなどという誤解を与えたくもない。
『鷹』も『鷺』も僕の手にかかれば、今にも飛翔せんばかりの美しさで紙面に現れるのだ。
どうだ見ろ!
これが鷹庭鷺祥慈郎の『鷹庭鷺祥慈郎』だ!
「はい、そこまで。次のプリントを配ります」
「あ……」
やってしまった。
答案用紙は白いまま、無情にも次戦のスタートが切られるのだった。
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