12、おじさんがオリヴィアたちを助けてくれた理由
「ルイジおじさん、なぜ私たちをアンナおばさんから助けてくれたんですか?」
私たちのいる屋根裏部屋へ上がって来ようとしたおばさんを、聖なるメダルで引き付けてくれたのだ。
「あれはアンナではない。本物のアンナは子供好きで優しい女だった。だがわしが不甲斐ないばっかりに、あれの心に悪魔を呼び寄せてしまったのだ」
ローマ近郊の村で大家族の五男として生まれたルイジおじさんは、今の私と変わらない年齢でローマに出て、革工房で見習いとして修行を始めたそうだ。持ち前の集中力を発揮して技術を磨いたルイジおじさんは、二十代になったある日、教会でアンナと出会う。
順調に愛を育んだ二人は数年後、ルイジおじさんが自分の工房を持つのを機に結婚した。
ルイジおじさんの工房は徐々に評判を呼び、ローマの裕福な市民たちの間で注目されるようになっていった。顧客とのつきあいや最新デザインの勉強も兼ねて、ルイジおじさんは社交界に出入りするようになった。
「それでわしは詐欺師と出会ってしまったんだ。彼は子爵で投資家だと名乗った」
私はトーシカってなんだろうと疑問に思ったが、ルイジおじさんの声が苦渋と後悔に満ちていて、口をはさめなかった。
華やかな世界に居心地の悪さを感じていたルイジおじさんに、その子爵は親し気に声をかけてきたそうだ。
「子爵はとてもよい身なりをしていてな。それも投資が成功したおかげだと語った。生家は貧乏貴族だが、新大陸の農業へ投資して財産を五倍に増やしたのだと」
「新大陸?」
好奇心に駆られたリオが、首をかしげた。
「うむ。大西洋を越えた向こうには、南北アメリカ大陸と呼ばれる広大な土地があるそうだ。植民地の農業はこれからどんどん伸びると聞かされて、わしは愚かな夢を見てしまった」
ルイジおじさんは薄くなった髪をぐしゃっと握った。
「金に執着していたのは、もとはと言えばアンナではなくわしの方だったのだ」
今では粗末な服を着て毎日、工房にこもっているおじさんからは想像もつかない。
「わしは上流階級の人間が意匠を凝らした嗅ぎタバコ入れをコレクションしているのを知っていた。詐欺師から、嗅ぎタバコは今後さらに人気が高まる、貴族たちの嗜好品として金に糸目をつけずに質の高いタバコが取引されるだろうと聞かされて、新大陸のタバコ農場に投資するため大金をあずけてしまった」
おじさんの話は難しくて、私とリオは全部を理解することはできなかった。だが若いころのおじさんが、嘘の儲け話に乗ってしまったことは分かった。
「十年以内に元手が五倍にふくれ上がるから、借金してでも金を作った方がいいと勧められたわしは、当時暮らしていた工房兼自宅を担保に金を借りた」
夫婦はローマの中心部にある、一階が工房と店舗、二階が住居という家に住んでいたそうだ。
「だがわしが大金を渡した直後、男は姿を消したのだ」
大人の世界はなんて恐ろしいんだろう。アンナおばさんのように平気で人を
「わしは家も工房も財産も全て失った。残っているのは妻のアンナだけだった」
二人はルイジおじさんの実家がある村に身を寄せた。
「アンナの憎しみは幸いわしではなく詐欺師に向いていた。だが二度と金を失うまいと少しばかりの銅貨に執着し、日増しに憎しみを募らせる様子は普通じゃなかった」
ルイジおじさんはアンナを教会に連れて行った。話を聞いてもらうくらいでは埒が明かず、アンナの様子は日増しに不安定になっていった。
「もう
ルイジおじさんは長兄から与えられた畑の隅の物置小屋を工房に改造し、また革製品を作ることにしたそうだ。詐欺師は彼の技術までは奪えなかったし、ローマにはまだ彼のお客さんが残っているのだ。
新しい一歩を踏み出そうとするルイジおじさんとは異なり、恨み節ばかり口にするアンナは村人の誰とも交わろうとせず、一人自室で銅貨を握りしめていた。
「ある日、教会の神父様から言われたんだ。来月、偉い司教様が村の教会にいらっしゃるから、アンナを会わせるようにと」
ローマから偉い司教様がやってきて、アンナの前で聖書の一節を読み上げると、彼女はたちまち苦しみだした。
─ * ─
ローマから来た司教の判断は?
次回、オリヴィアの未来についても判明します!
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