タクシー

次の信号

タクシー



とあるタクシー

走る街中はまだまだ賑かな夜の時間

後部座席で女が一人、流れていく景色をぼんやり眺めている


「そしたら誰もいないんですよ」

「あれ気のせいかって思って」

「で、戻ってテレビ見てたんですよ」

「そしたらまたこんこんて」

「あ、やっぱり気のせいじゃなかった」

「出たんですよ」


「誰もいないんですよ」

「で、ドア閉めて振り返ったら目の前に全身丸出しの女の人が」

「曲がっちゃいますね」



「はい?」


話しかけられたのが自分だと気が付いて女は咄嗟に返事を返す


「時間掛かりそうなんで曲がっちゃいますね」

「あ、はい、お願いします」


そう言いながら運転手は安全を確認して、ここぞのタイミングでハンドルを切る

ゆっくりと回転していく通りの賑わい

かっち、かっち、かっち、かっち


「もう10分位ですよ」

「がたがたがたがた、がたがたがたがた」

「そしたら隣の人が帰って来てどうしましたって」

「いや全身丸出しの女の人が」

「あー」

「笑ってるんですよその人」


タクシーはどんどん暗い道へ入って行く

たまにまだ灯りの着いている二階の窓が温かい


「お客さんもうなんか食べました?」

「いえ、まだ」

「何食べるんですか?」

「何にしよう」

「急に言われてもですよねぇ」


「運転手さんもう食べました?」

「いえ、私もまだ」

「何食べるんですか?」

「なんにしますかねぇ」


かっち、かっち、かっち、かっち、かっち、かっち、かっち、かっち


更に暗く細い道へ入っていくタクシー

もうヘッドライトの灯りも全く頼りになっていない


「ほんとにもう凄いんですよ」

「映画でしか見た事が無いような」

「丸出しと丸出し」

「ぎええええええええええええええ」



「ゆっくり目開けたんですよ」


「誰もいなんですよ」

「お客さん、ここ何処だか分かります?」

「あ、大丈夫ですよ」

「なんにも見えない」

「ほんと全然、大丈夫ですよ」

「お客さん分かります?」


「えー」

「なんにも見えない」

「なんか見えます?」


「えー」


「なんにも見えない」


「なんにも見えない」


暗闇をゆっくりと進んでいくタクシー

時計はとっくに0時を過ぎていて、運転手は前方に夢中で気付いていない


かっち、かっち、かっち、かっち、かっち、かっち、かっち、かっち



終わり


















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