透明人間

いとう

透明人間

透明人間は、光を透過するから、人間をみれない。網膜自体が透明で、光を透過してしまうからだ。


透明人間にとって、人間は透明人間になる。認識できないものは存在せず、透明になるからだ。


人間と透明人間は、互いが見えないから街中でよくぶつかり合う。


ぶつかるまで分からないから、街を歩くのはとても怖い。ぶつかっても何にぶつかったか分からないから、謝ることもできない。


透明人間は毎日悩んでる。ただ透明だから、その悩みを誰も知らない。彼の話す言葉は、いつも独り言になる。


透明人間に唯一、感じられるのは自分の手に触るものだけ。彼にとって自分の手だけが、彼の目になる。


彼は自分の動脈をよく触る。見えもしない、皮膚一枚下に血が流れてることを確かめる。彼は自分が生きていることに心強い安心感を抱いていた。




ある日、透明人間は自分の手を陽にかざした。どうしても自分の生きている血の、赤い色を確かめたくなった。


日の光は、彼の透明な右腕を射った。


透明なヘモグロビンは、彼の中で強烈な反射を繰り返し、鮮やかな偏光をみせた。光のスペクトルが彼の身体で自由に踊っていた。


けれど、その光が透明な彼の目に届くことは決してなかった。光れば光るほど、彼の目は光を通過してしまうのだった。


彼はそのとき、彼が生きてることが、彼の目には、永久に分からないことを悟った。


その瞬間、透明人間の彼は、この世界から完全に消滅してしまった。

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透明人間 いとう @itou0329

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