なんか用かい(妖怪)?、ペット(怪獣)飼うかい?。

高井希

第1話研磨とケルベロス

ねえキミ、都市伝説って知っているかい?。

そう、口裂け女とか、きさらぎ駅とか、戦争や宇宙からの侵略時に、都庁が巨大ロボットに変形して戦うみたいな話、君も聞いたことがあるだろう?。

辞書を引くと、「都市伝説とは、一般の人々により語られ信じられている口承の一種。実際にありえないような話に真実味と不安を加え、本当にあった事実として語られる。現在、都市伝説は、Eメールを介してたびたび広まる。」なんて、書いてある。

そんな都市伝説の一つに「困っている子どもにだけ怪獣や妖怪(ペット)を売ってくれる、妖怪みたいなおじいさんの店」の話がある。

その店は、いつの間にか困っている子供の前に現れるそうだ。

そして、子供の悩みを聞いて、それを解決するための怪獣や妖怪を売ってくれるっていうんだ。

その怪獣や妖怪は、見た目は犬だったり、猫や、キツネ、鳥、蛇だったり普通のペットなんだけど、中身は怪獣や妖怪で、主人になった子供を助けてくれるらしい。

店主のおじいさんは妖怪みたいに、しわだらけだけど、子供と怪獣や妖怪が大好きなんだって。

そうそう、だけど、怪獣や妖怪の取り扱いには気を付けないといけないようだ、ちゃんと食べ物をあげて、散歩や世話をしてあげて、友達みたいに仲良くならないと、怪獣や妖怪はいつの間にか、おじいさんの店に帰っちゃうらしい。


 この都市伝説を友達と知った時、友達は「ウソだ」って笑ったけど、僕はきっとこんな店があるって信じてた。

だってその時、僕はすごく困っていたから。

帰り道、僕は「絶対ある。絶対ある。」って言いながら歩いていた。

そしたら、古びた木造の小さな店が目にはいってきた。

看板は汚れてたし、難しい漢字が書いてあったから、よくわかんなかったけど、ペットという文字だけは読めたんだ。

その店の入り口は、ガラスの引き戸になっていて、外からでも、犬や猫がケージにはいっているのが見えた。

僕は、恐る恐る中に入った。

「ごめんください。」

と言ったら、

「いらっしゃいませ。」

と、耳元で、かすれた声がしたから、飛び上がって驚いちゃった。

いつの間にか、小さな皺くちゃな顔をした妖怪みたいなおじいさんが、僕のすぐ横に立っていた。

おじいさんだけじゃなかった。

おじいさんの肩にはおじいさんとそっくりのしわくちゃな顔をしたサルがチョコンとのっていた。

いつの間に来たんだろう?。

僕が、じろじろ見てたからおじいさんがこう言った。

「なんか妖怪?。」

妖怪?、ちがう、なんか用かい?って言った事に気づいて、

「僕、困ってるんです。」

と、答えた。

おじいさんは開いてるか開いてないか解らないような目で僕をジロジロ見てから言ったんだ。

「どうして困ってるのか話してごらん。」

僕は、クラスのいじめっ子に虐められていることを話し始めた。

それまではなんともなかったのに、ある日、クラスのいじめっ子グループのリーダーが僕を見て言ったんだ。

「こいつ、気に入らない顔してる。みんなで、虐めてやろうぜ。」

その時は、ノートを破られた。

それから毎日のように、靴を隠されたり、トイレで水をかけられたり、体操服を捨てられたりした。

その内、学校の行き帰りにも待ち伏せされて、殴られたり、ごみをぶつけられたり、だんだん虐めが激しくなっていった。

どうして大人に相談しないのかって?。

前にそいつらに虐められていた子が、親や先生に言いつけたけど、もっとひどくいじめられるようになって、学校をやめたんだ。

いじめっ子のリーダーの親が偉い人だからって、みんな言ってた。

「僕、もうどうしたらいいのか解らないよ。でも、あの子を傷つけたいわけじゃないんだ。もう二度と人をいじめないで欲しい。僕、前に虐められてる子をみても、虐められる方も悪いんじゃないかって思ってた。でも、自分が虐められて初めて気が付いたんだ。虐められるのに理由はないって。あのいじめっ子は、虐められたことがないから、虐められる気持ちが解らないんだと思うんだ。」

ぼくは、思わず大きな声で言っちゃった。

おじいさんは自分の肩にのっているサルを見ながら、しばらく考えてから言った。

「あんた、犬は好きかい?。」

「犬は大好き。」

「あんたの家で、ペットを飼えるかい?。」

「うん、大丈夫。庭もあるんだ。」

「そうか、それならこいつを飼ってみるかい?」

おじいさんはケージから真黒な犬を出して僕の前に連れてきた。

「こいつはケルベロスだ、あんたがかわいがってやれば、相棒になって、あんたの敵をやっつける。かわいがれるかい?。」

「ケルベロス?。僕、知ってるよ地獄の番犬でしょ。頭が3つあるはずだし、もっと大きいんじゃなかったかな?。」

「よく知っているな、これは仮の姿じゃ。敵の前では本当の姿を現すんじゃ。信じるかい?。」

「でも、いくらなの?。僕、今5百円しか持ってないんだ。」

「じゃあ、5百円でいいぞ。その代わり、こいつを大事にできるかい?。」

「本当に?。ありがとう、僕、絶対にこの子を大事にするよ。」

僕はおじいさんに5百円を渡し、犬を貰った。

「よろしく、ケルベロス。僕は研磨。」

黒い犬は尻尾を振って大きな丸い目で僕を見つめた。

「さあ、一緒に帰ろう。」

家に向かって歩いていくと、途中で例のいじめっ子たちが、待ち伏せしてた。

「研磨!。なに逃げようとしてるんだ。こうしてやる。」

いじめっ子が僕に殴りかかろうとした時、黒い犬はいじめっ子に向かって唸り声を出した。

「ウー、ウー」

「何だ、こんな犬。」

いじめっ子が犬を蹴ろうとすると、

「ガウッ!」

黒い犬が変な声を出したと思ったら、黒い犬の体がグングンと巨大化して、地獄の門番、三つの頭を持つケルベロスが本性を現した。

そして、いじめっ子のリーダーの顔の目の前で、大きな口を開けた。

「うわー!、化け物だ!。食べられる!。助けてくれ!。」

いじめっ子達は、慌てふためいて逃げて行った。

それを見たケルベロスはプシュッと縮んでもとの黒い犬に戻った。

「ありがとう、やったね!。ケルベロス。」

僕は、黒い犬を撫でてやった。

「ケルベロス、家に帰ったら、お礼に、ごちそうするよ。」

「ワン!。」

黒い犬は一声吠えて、しっぽを振った。

僕らは大急ぎで家に帰った。

「ただいま。お母さん、犬飼ってもいいでしょ。冷蔵庫のハムもらうね。」

玄関で靴を投げ飛ばして、大急ぎで冷蔵庫からハムをもってきて、庭で待っている黒い犬にあげた。

黒い犬はガツガツとハムを一瞬で食べ終えた。

母さんが家から出てきて、

「まあ、頭のよさそうな犬ね。これから番犬よろしくね。」

と、言って黒い犬の頭を撫でた。

「名前はなんていうの?。」

「ケルベロスだから、ケルにする。ケルって呼んでいい?。」

「ワン。」

「気に入ったみたいね。でも、ケル用にドックフードや、リードを買ってこないとならないわね。」

「じゃあ、今から行こう。」

僕と母さんは近くの店で、必要なものを買ってきた。

去年までは僕の家には犬がいたから、犬小屋はそのまま使えたんだ。

犬小屋に今買ってきた犬用のベットを置いて、犬小屋の前に水とドックフードを並べてあげた。

「今度、犬小屋にペンキ塗ってあげるけど、いまはここで寝てね。」

僕の言葉で、ドックフードを食べ終えたケルが、犬小屋に入っていった。

気に入ってくれたみたいだ。

「父さんはいつ出張から帰ってくるの?。」

「来週だって。ケルの写真送ってあげましょうね。」

「うん、父さんも犬好きだからきっと喜ぶね。」

父さんは出張が多くて、僕と母さんはいつも寂しかった。

だけど、今日からケルも一緒だ。

「ケル、今日から家族の一員だ。」

「ワン!。」

ケルが尻尾を強く振る。


次の日の朝、僕が学校に行くのにケルが付いてきたんだ。

「どうした?。留守番が寂しいのかい?。」

学校に行く途中でいじめっ子のリーダーに会ったよ。

僕とケルを見た途端、そいつは大慌てで走って逃げて行っちゃった。

もう虐められる心配はなくなったみたいだ。

「やったね!。ありがとう。ケルのおかげだ。」

それからはもう二度と僕が虐められることはなくなったよ。

ケルはもう学校についてこなくなった。

だけど学校から帰るとすぐに毎日一緒に散歩に出かけたんだ。

僕はケルとの散歩が楽しくてたまらない。

たぶんケルも僕との散歩が大好きだと思うよ。

だってケルったら時々スキップしてるんだ。

僕は散歩の途中で、ケルを買ったあの不思議なペット屋を訪ねてお礼を言おうと思って探したのに、どうしても見つからなかった。

派出所に行って聞いてみても、

「この辺にはペット屋なんてないよ?。そこで犬を買ったんだって?。夢でも見たんじゃあないの?。ペット屋は隣町の駅前に一軒あるだけだよ。」

って笑われちゃった。

それと、あのいじめっ子が突然、遠くの私立の学校に転勤してった。

なんでも、そこは有名な進学校らしい。

僕を含めて、あいつの転校を喜んだ子は数知れず。

あいつのせいで不登校になった子が、登校しだしたって友達が言ってた。

とにかく、すごくうれしい。

「ケル、あのいじめっ子が学校からいなくなったんだ。お前のおかげかもな。ありがとう。」

僕がケルの頭をなでると、ケルが

「ワン!。」

と言いながら、ちょっと笑ったみたいに見えた。

ケルが庭に放りっぱなしのフリスビーを咥えて僕のところに持ってきた。

「フリスビーやりたいの?。いくよ。」

僕がフリスビーを投げるとケルはジャンプしながら上手にパクっと咥えて僕に渡した。

僕はスピードをつけてどんどん投げた。

ケルはどんな時でも上手に咥えた。

「ケルって、フリスビーが凄く上手なんだね。じゃあ他の事も覚えるかな?。」

皿にドックフードを入れて、

「待て!。」

っと言っでみた。

食べずに待っている。

「よし!。」

ケルはドックフードを食べ始めた。

「すごい。『待て』と、『よし』ができるんだね。」

夕食の時間になった。

ケルは庭で掃き出し窓ごしに母さんと僕が食卓に座っているのを見ている。

天気がいいので掃き出し窓は開けてあった。

「いただきます。」

僕がそう言って食べはじめようとすると、

「ワン!。」

ケルが吠えながら、前足を高く上げた。

「え?。『待て』っていってるの?。」

「ワン!。」

ケルが吠えながら、前足を下した。

「まさか『よし!。』っていったの?。」

「ワン。」

ケルは頷いたみたいに頭を小さく下に振った。

「さっき『待て。』と『よし!。』をされたから、ケルが研磨にお返ししたのね。」

と、母さんは大笑いした。

「解った、もうケルの食事中に『待て。』も『よし。』もしないから、僕にするのもやめてよ。でも、危ない時には『待て。』っていうから、それは聞いてね。」

「ワン!。」

「じゃあ、もう一回、いただきます。」

今日は母さんの手づくりハンバーグなんだから、もう『待て。』なんてごめんだ。

食後には掃き出し窓から庭に出て、ケルとまた遊んだ。

「お手。」

ケルが僕の手の上に前足を置いた。

「すごいぞケル。」

僕がケルの頭を撫でると、

「ワン!。」

と言って、前足を90度に上げた。

「まさか『お手。』のお返しか?。」

「ワン!。」

もう一度ケルが吠えた。

しかたなく僕がケルの前足の上に手を置くと。

「ワン!。」

と、吠えて前足を下げ、僕の頬っぺたを舐め始めた。

「解った。もう『お手。』もしないや。ケルは僕の友達で、子分じゃないって言ってるんだね。」

ケルは僕のいう事が解ったように僕の顔を舐めるのをやめた。

明日はクラブ活動の日なので僕はその準備をしていた。

僕は「謎クラブ」に入っている。

「謎クラブ」は色んな謎が好きな子たちが集まっていた。

僕は都市伝説の謎が好き。

口裂け女とか、きさらぎ駅、もちろん困っている子どもにだけ怪獣(ペット)を売ってくれる、妖怪みたいなおじいさんの店の都市伝説などについて調べて、「謎クラブ」で発表してるんだ。

ケルがケルベロスだってことは絶対に秘密だから発表できないけどね。


「こんにちは。久しぶりね。まあ、研磨君、背が伸びた?。カッコよくなっちゃって。」

「こんにちわ。おばさん、研磨君。」

母さんの友達とその子供のクリスが遊びに来た。

母さんとクリスのお母さんは、幼馴染で今でも仲がいい。

ただ、クリスのお母さんは体が弱いし、クリスのお父さんはどこかに行って帰ってこないみたい。

クリスは本当に可愛くていい子だから、幸せでいてほしいのに。

「クリス、僕の相棒のケルを紹介するよ。」

「まあ、強そうで、カッコいい!。ねえ、私が撫でても大丈夫かな?。」

「もちろん、ケルは強くて、優しいんだ。」

クリスはそっとケルの頭を撫でた。

「クリス、公園に遊びに行こう。ケルはフリスビーが得意だから、カッコいいとこ見せてあげるよ。」

僕らは時間を忘れて遊んだ。

ケルもクリスの事を気に入ったみたいだ。

ケルの秘密をクリスに話したくなったけどグッと我慢した。

「私にもケルみたいな相棒が出来たらいいのに。そうしたら、一人でいても寂しくならないでしょ。」

クリスがケルを撫でながら、ポツンと呟いた。

クリスもあの妖怪みたいなおじいさんのペット屋に行って、ペットを買えたらいいのにな。


ある夜の事だった、ケルが突然すごい声で吠え始めたんだ。

「この声は、もしかして。母さん、家から出ないで。僕が見てくるから。」

外に出ると、ケルが本性を現わして、ケルベロスになっていた。

目の前に、気絶した泥棒が二人。

「ケル、ありがとう。元に戻っていいよ。母さん、泥棒だ、ケルがやっつけた。警察に電話して。」

僕は父さんのベルトを沢山持ってきて、泥棒の手と足を縛ってやった。

よく見ると、泥棒の服はボロボロに破れて汚れていた。

ケルベロスが服を噛んで引きずったらしい。

「それで、気絶しちゃったんだ。」

すぐにパトカーがやってきて、お巡りさんが泥棒達を連れて行ったよ。

「こいつらは、この辺を荒らしまわってる常習犯だ。お手柄だったね。」

そう言って、僕とケルの頭を撫でてくれたのさ。

次の日、出張から帰ってきた父さんもその話を聞いてびっくり。

父さんはご褒美だって、ケルに大きな肉を買ってあげたんだ。

もちろん、僕にもご褒美をくれたよ。

次の休みには家族みんなで、もちろんケルも一緒に、車で海に連れてってくれるって。

母さんがおむすびと唐揚げをたくさん用意してくれた。

僕は、ポテトチップスとビスケットとお饅頭とドックフードをバック一杯に詰め込んだ。

父さんはマイカーをピカピカに洗って準備ばんたん。

後部座席に僕と、隣にケルも乗り込んで、出発進行!。

砂浜でケルとビーチボールでサッカーしたり、海に飛び込んで、犬かきで泳ぎっこしたり。

僕はおむすびと唐揚げをいっぱい食べて、ケルはドックフードと唐揚げをたいらげた。

その後、ビスケットとお饅頭をケルにあげたらしっぽを振りながら喜んで食べてた。

ケルって甘いものが好きみたいだ。

おなか一杯食べて、思いっきり遊んで、帰りの車の中で僕もケルも眠っちゃった。

帰り道では父さんが、ずっと自分が好きなクラッシック音楽をかけてたから、余計に眠くなっちゃった。

ケルもきっとクラッシックのせいで眠ったんだ。

そういえば、誰かが言ってたな、ケルベロスの弱点は甘いものと、美しい音楽だって。

こんなに強いケルベロスでも弱点ってあるんだと思ったら、なんか安心しちゃった。

研磨とケルが重なりあいながら眠っている姿を見て、両親は喜んでいた。

「研磨ったら、すっかりケルと仲良くなって。」

「ああ、前に飼っていた柴犬のシロが去年トラックにはねられて死んでから、ずっと元気がなかったから心配していたが、いい犬が見つかってよかったな。」

母さんと父さんが話してる声で目が覚めた。

僕と大の仲良しだったシロが、去年トラックにはねられて死んじゃった時は、もう絶対に動物を飼わないって思ってた。

でも、ケルは違う。

ケルは本当はケルベロスだからきっとトラックにだって負けやしない。

地獄の門番なんだから、きっと不死身なんだ。

だから、きっと僕を一人残してどっかに行ったりしない。

「ずっと僕と一緒だよね、ケル。」

眠っているケルの頭をなでながら、僕が言うと、

「クウーン。」

と、目をつぶったまま返事してくれたんだ。

ケルがあの妖怪みたいなおじいさんのペット屋に戻ることはないと、その時僕は思ってたのに。






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