第10話 下層の魔物をハメ殺してみた

【お詫び】

7話、9話で生配信にはWi-Fiという表現を使用しましたが、よく考えたら別にWi-Fiじゃなくても生配信できることに気付いたので修正しました。


◆◆◆


 青白く光る岩壁で作られた鍾乳洞。

 下層の光景を一言で言い表すならこんな感じだろうか。


「ト、トオルさん。さっきのドラゴンを倒したのって、空間操作系のスキルですか!?」


 しかしホムラちゃんは目の前の幻想的な光景よりも、俺の戦闘スタイルの方が気になる様子。


「いや、スキルじゃないよ? ただの技術。ホムラちゃんも頑張ればできるようになるかも」


「えっ」


:こいつはなにをいっているんだ?

:スキルじゃない????

:いや明らかに普通じゃない事が起きてたぞ?? スキルじゃなきゃ何なんだよ

:ホムラちゃんに真似できるなら俺らにも真似できるって事?


 スキルとは先天的に人類が得た特殊能力の事だ。ホムラちゃんは炎を出せるんだっけ?

 対して俺の空間操作は後天的に身につけたもの。つまりただの技術だ。


「ほら、優れた剣士とか空間ごと叩き斬ったりできるでしょ? あれの応用。周りの空間の流れを認識できれば、それに介入して好きに斬ったり捻じ曲げたりできる」


「え、えぇぇ……?」


:ごめんマジで意味わからない

:ホムラちゃんが反応に困ってるw

:空間を斬れる剣士とか聞いたことないんだけど……

:Aランクの中にそんな奴いるの?

:そもそもAランクの戦闘なんて配信者でもない限り基本出回らないし……

:ホラじゃね? 流石に

:ホムラちゃん剣士だよね? 空間ごと斬れる?


「む、無理です……」


 うーん? なんか思ってた反応と違う。もうちょっと納得したみたいな意見があると思ったんだけど、殆どが懐疑的だ。リスナーと俺の間に認識のズレがある?

 ……おっと。


「第一魔物発見〜」


 ここは開けた空間だから、魔物が来たらすぐ分かる。

 さっきの疑問は一旦後にして、今は配信に集中しますか。


「あれはミスリルヤドカリだね。文字通りミスリル製の殻を被ったヤドカリ。ホムラちゃん、戦った経験は?」


「パーティーで下層に潜った時に、一度だけ。ただ斬撃と炎に耐性があるみたいで、私の攻撃は殆ど通用しませんでした……」


 顔を歪めるホムラちゃん。

 多分、自分の実力が下層で通用しないと痛感してしまった、嫌な思い出なのだろう。

 ならば。


「じゃあせっかくだし、簡単な倒し方を紹介しながら戦いたいと思います」


「本当ですか!?」


:下層の魔物倒し方レクチャー?

:ほんとならかなり貴重な情報では?

:ヤドカリの倒し方って確立されてるの!?

:確立されてたらミスリルは高級素材なんかになってない

:ただのヤドカリと甘く見たらいかんぞ こいつ滅茶苦茶強いからな


 ……本当は俺の店を宣伝する動画なんだけど、まあ偶にはこんな寄り道もいいだろう。ホムラちゃんの今後の為にもなりそうだし。


「まぁ見てて」


 ミスリルヤドカリはこちらを見つけると、即座に殻の中に引っ込む。

 かと思いきや、そのまま高水圧の液体をレーザーのように発射してきた。


「これがミスリルヤドカリの主な攻撃方法ですね。口から強酸性の液体を凄い勢いで噴射します。しかも自身は殻にこもって身を守り、決して近づこうとしてこない。ジェット噴射みたいに水圧を利用して高速移動もできるし、もたもたしてると仲間を呼んでくる。初見だとめんどくさいと思います」


 俺とホムラちゃん、配信用ドローンの周りにちょっとしたバリアを張る。

 空間を歪めて攻撃を逸らすものだ。ヤドカリの攻撃くらいならこれで無効化できる。


:すげー!!

:強酸レーザーが変な方向に逸れていってるw

:無敵じゃん

:やっぱりこいつの実力本物では?


「あの外殻はミスリルだけあってとにかく硬い。殻をぶち破れる火力があれば楽勝だけど、それがない場合は――殻の中から追い出してやりましょう」


 俺は強酸性ウォータージェットに対し角度をつけて突っ込む。

 ミスリルヤドカリは体の向きを微調整して再度狙うが、全く追いついていない。


「あいつの弱点は、発射口が一箇所しかないこと、そして小回りが効かないから、狙いが雑なこと。だから細かく動いて狙いを逸らします」


 俺がヤドカリとの距離を詰めると、ヤドカリは逆に距離を取ろうと、地面に向けてウォータージェットを放つ。

 反動で奴の体が跳ね上がる。この時を待っていたのだ。


「奴が飛んだらチャンスです。捕まえます」


 一気に加速して距離を詰め、空中にいるヤドカリをキャッチ。


:ええええええええ

:マジかよwww

:今の動きめっちゃ速かった!

:キャッチボールじゃないんだぞw

:あんな危険な魔物によく近づけるな

:ていうかキャッチできるもんなの? 重くない?


「あ、見た目より軽いよコイツ。ミスリルは軽くて丈夫なのがウリだしね。んで、捕まえればこいつは何もできません。水吐くしかできないからね」


 俺の手から逃れようと噴射して暴れているが、ガッシリ掴んでいるので逃げられるわけがない。

 すぐにコイツもそれを理解するだろう。その時コイツどんな行動をするのか?


「自分が捕まった事を悟ると、こいつの本体が出てきます。殻から出て直接強酸をぶっ掛けようって腹積りですね――そこを叩きます」


 ミスリルヤドカリのもう一つの弱点。

 殻から顔を出す時、一旦噴射を止めなければいけないという事。

 つまり隙だらけの状態でご対面という訳だ。


「とりゃ」


 ミスリルの殻に比べれば、本体の防御力などカステラのようなものだ。

 殻から出てきた本体が俺に酸を吐くより早く、待ち構えていた俺は手刀で奴を叩き潰した。

 本体が死亡した事で、殻ごと粒子となって消え去り、ドロップ品の宝箱だけが残る。


「とまあこんな感じですね。一対一ならこのハメ技が使えるのでミスリルヤドカリは雑魚です。……お、ヤドカリ肉だ。これ炙って焼くと美味いんだよね〜」


:うおおおおおお

:マジで倒しやがった

:これ本物じゃん!! やっぱこの人めちゃくちゃ強いよ!!!

:これミスリル取り放題になるのでは?

:すげえええええ

:下層の魔物ってこんなあっさり倒せるもんなの……?

:このハメ技は世界に拡散すべき。この方法を知っていたという事実こそが、逆川透が詐欺師ではない事を証明してくれる


 魔物は死ぬと宝箱を残すことがある。

 中には色々な物が入っていて、これを地上に持ち帰って換金するのが探索者の主な仕事だ。

 ちなみに宝箱が出る確率はその場に居る人数に比例する。これには視聴者の数も・・・・・・・・・・含まれる・・・・

 生配信を見てる人が多ければ多いほどお宝が出る確率が高いって事だ。ダンジョン配信が流行るのも仕方ないね。


◆◆◆

おかげさまで10話に到達しました。応援して下さる皆さま、ありがとうございます。

よろしければレビュー、コメント、評価いただければとても嬉しいです。

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