【掌編】「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

まほりろ

第1話「感想をください!」

ある作家が飛行機の中で倒れた。


偶然居合わせた医者が作家に駆け寄る。


「か……感想を、褒め褒めの……感想を……」


作家が苦しそうに呟く。


「いかん!

 感想欠乏症だ!

 急いで乗客の中から感想を書ける人間を探すんだ!」


医者が叫ぶ。


「お客様の中に滋賀内自家木さんのファンの方はいらっしゃいませんか?

 彼の作品の感想を書ける方はいらっしゃいませんか?」


CAが乗客に呼びかけた。


「僕に任せて貰おう!

 僕の名前は長文感想!

 僕が書いた感想は詞のように美しいと評判だ!


「お客様はこの方のファンの方ですか?」


「いや全く!

 そいつの作品を読んだこともないし、ついさっきまで名前も知らなかった!」


「それでは感想なんて書けないのでは?」


「悪いがそこに散らばっている原稿を読ませて貰った!

 ちっとも面白いとは思わなかったが、同じ飛行機に乗り合わせた好みだ!

 特別に褒め褒めの感想を書いてやろう!」


長文感想は懐から万年筆を取り出し、原稿用紙の裏に感想を書き出した!


「さあCA!

 僕の書いた芸術的な感想を読み上げるのだ!」


「人の原稿を勝手に読むのも原稿用紙の裏に感想を書くのもいかがなものかと思いますが、お客様の命には変えられません!

 感想を読み上げます!

 ペラペラペラペラペラペラペラペラ…………」


長文感想の書いた感想は、世界一薄い和紙よりも薄くペラっペラっだった。


「いかん患者の脈拍が弱まっている!」


医者が慌てる。


「やはりファンですらない人の書いた、薄っペラの感想では作家の心に響かないのですね!」


CAが取り乱す。


「何……!?」


長文感想が二人の言葉に愕然としている。


「あの……私、先生のファンで……先生の作品は全巻持ってます!

 こ、これ……短いですけど読んでください!」


乗客の一人、小柄な美少女が立ち上がり一枚の紙をCAに渡した。


それはメモ用紙にえんぴつで書かれた短い感想だった。


「先生の作品が大好きです!」


CAが少女の書いた感想を読み上げる。


「奇跡だ! みるみる回復していく!」


医者が叫んだ!


メモ用紙にえんぴつで書かれたたった一文が、とある作家の命を救った。


「負けた……! 僕の完敗だ!」


長文感想はその場に膝をついた!


一命を取り留めた作家は、命の恩人である美少女に後日プロポーズしたが、

「私の好きはそういう好きじゃないんで、ごめんなさい。これからもファンとして応援してます」

とすげなく断られたという。



―終わり―



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