第75話 美少女の悩み

 夕暮れになり、まだ薬草の採取を終えたいなかったヴァイスとクラリッサは、牧者ぼくしゃの言葉に甘えることにした。


 なお牧草地帯で二人が出会った牧者は、牛飼いであった。

 ヤギも飼っているが、牛の乳や肉を売って生計を立てているらしい。


 また若い頃にクラリッサの母がいる娼館に通ってはいたが、悪人ではなかった。

 男を警戒し母屋ではなく納屋に泊めてもらう事にした二人に、わざわざ温かい夕食まで持って来てくれたのだ。


 しかも一人暮らしをしているようだが料理までが上手で。

 クラリッサなどは男が姿を消すなり湯気の立つお椀に飛びつき、チーズの薫りが濃厚なシチューに口を付けていた。


 他にもカリッと焼かれた厚切りのベーコンや、ジューシーなウィンナーまで出してくれた。

 少し野菜が少ない気はするが、ヴァイスとしても満足なメニューである。


 お礼にナタリアが焼いてくれたパンを男に渡してしまったので、残ったパンを半分にして、クラリッサと分け合ったのだが。

 あと3個は大ぶりのパンが食べれそうである。


 なお、二人が泊まることになった納屋には、干し草が山と積まれており。

 地面に置いたランプの明かりを頼りに、地面に横たえられた丸太に腰を掛けて食事をしている。


 「さっきは、ありがとう……。庇ってくれて……」

 「ん?別に大したことないよ。それに俺はクラリッサのお母さんの方が凄いと思うよ」


 夢中になってシチューを食べていたクラリッサがスプーンを止め、ポツリと呟き。

 その様子をチラッと確認したヴァイスが、器を膝の上に乗せて答えた。


 僅かに開いた納屋の扉から、夜空に輝く星が見える。


 「どうして?あんな所で働いてるのよ……」

 「ん~~上手く説明出来るか分からないけど。女の人が1人で子供を育てるのって、大変な事だと思うんだよ」


 「…………」

 「それに男の人だって、全員が奥さんをもらえるわけじゃない。だからあーいう所が必要なんだと思う。まぁ~、ウィルはどうかと思うけどね」


 「ふふっ、そうね。ウィルさんは、ちゃんとお嫁さんを探すべきよ」

 「だよな?顔は……まぁ厳ついけど。筋肉は俺よりあるし、あの胸毛が好きなだって人も居そうだよな?」


 「いや~あれは……。アタシはパスかな?」

 「ひど……」


 そんな感じで、ヴァイスは当たり障りのない言葉お選び、民主主義の国から来た人間らしい考えを伝えると。

 ここには居ない友人の話に、話題をすり替えた。


 ついでにと、さり気なく脈を探ってもみたのだが、美少女から返ってきた答えは素っ気ないものであった。


 (残念だったなウィル。元気だせよ……)


 勝手に話を振ったヴァイスが、これまた勝手に友人の恋路に終わりを告げる。


 「あっ、そうだ。あのオジサンに黄金のスカベの事、聞いてみたらどうかな?」

 「それいいね。確かに、ここに住んでいれば、何かを知っているかもしれないな!」


 そして唐突に閃いたクラリッサの言葉に、今度はヴァイスが喜んだ。

 彼にとっては、薬草採取などよりも、そちらの方が重要な獲物なのである。


 徐々に歯車が噛み合い始めた若い二人を眺めていた小ヤギが、藁の上で寝そべりながら、メェ~~と鳴いた。

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