魔王様は魔法が使えない?なら私が使うしかないじゃない!!~ 勇者パーティを追放されたので、魔王と雇用契約結んだら最高でした~

甘寧

episode.1

「ニーナ。悪いが、パーティを抜けてもらう」

「は?」

「俺は美女を侍らかせたパーティを作りたい!!!」


目の前で堂々と言い切る勇者を目にして、言葉を失った。

青天の霹靂とはこう言う事なのだろう。


──今、この国では空前の勇者ブーム。

街のあちらこちらには自称勇者で溢れかえっている。

「勇者と言うだけでモテる」と、どっかの馬鹿が言った言葉を真に受けた非モテ野郎共が集まった結果だ。


そして、これだけ勇者が増えれば必然的にパーティを集めのにも苦労する。

ニーナのいるパーティも勇者であるクルトと魔法使いであるニーナの二人だけ。


こう見えてニーナは魔法の腕前は一流。

当然引く手は数多だったが、ニーナに目を付けたクルトが泣きながら「俺だけじゃパーティにならない!!」と土下座で頼み込んできたから、渋々承諾したのだ。

それにも関わらずこの愚行。呆れてものも言えない。


(百歩譲ってパーティを抜けるのがいいが、理由が許せん)


要は、ブスは要らないって言われているのと同じ事。

だが、ニーナの見た目はそこまで悪くない。

まあ、人の好みは様々なので、そこを口にするとキリがない。

腹が立つのは女としてのプライドの問題。


クルトは他人に影響を受けやすい。良く言えば感受性が高いと言えるが、悪く言えば単細胞。


大方、どっかの勇者が美女を引き連れているところを目撃して「あいつが出来んだから俺だって!!」って所だろう。


「……分かった。短い間だったけど、ありがと」


ニーナは溜息を一つ吐くと別れを告げた。



❊❊❊



突如無職になってしまったニーナが向かった先は魔王が住んでいると言われる森。


なにせ、生きていくには金がいる。

クルトとパーティを組んでいたが、請け負った仕事と言えば用心棒程度。報酬は知れているので、手持ちだけでは心もとない。


そこで、目をつけたのが魔王討伐。

一度、クルトに話をしたがビビりで臆病なクルトは当然拒否。

まあ、正直、クルトと一緒に行った所でお荷物になる事は目に見えて分かっていたので、それ以降魔王の話はしていない。


「今は私一人。邪魔な奴はいない。殺るなら今しかない!!」


これまでに何人もの勇者が挑んでいるらしいが、成功したものはいない。

自分の腕に自信のあるニーナは、恐れることも怯むこともしなかった。


(明日からの生活を考える方が俄然恐ろしい……)


そんなこんなでやって参りました。魔王の森。


「ふむ。不気味な感じはあるが、全然行けるな」


意気揚々と一歩を踏み出すと、ブワッと毛が逆立つ感覚に襲われた。

すぐに杖を手にし辺りを警戒する様に見渡すが、怪しい者の気配は無い。


(……気の所為か……?)


そう思い、再び足を踏み出そうとした瞬間


「こんな場所に人間が何の用だ」


背後から腹に響くような低い声が聞こえ、勢いよく振り返った。

見た目はニーナと同じ人間に見えるが、頭には角。それが人では無い証拠になった。


(それにこの威圧感)


間違いなく目の前の者が魔王……!!!


そう確信した。


「飛んで火に入る夏の虫とはよく言ったものね!!魔王、貴方に恨みはないけど私の生活の為にお命頂戴!!」


すぐに杖を振りかざし、お得意の魔法をお見舞いするが、華麗に避けられた。

相手は魔王。簡単に倒せるとは思っていない。


ちょうどいいからストレスの捌け口にさせてもらおうと、休む暇なく魔法を撃ち込むが当の魔王は逃げてばかりでこちらに攻撃を仕掛けてこない。


まあ、この時点で何かおかしい。とは感じていたが、こちらとて生活がかかっている身。

細かい事を気にしている暇はなかった。


「──ッち、ウロチョロと……仕方ない」


ニーナもいい加減疲れ始め、確実に仕留める為に魔王の足を氷で覆い動きを止めた。


「ふっふっふっ、手間取らせてくれちゃって……」

「お、お待ちください!!!」


微笑みながら魔王の元に近づく私を止めようと、足にしがみつく者がいた。

足元を見ると、明らかに魔族。外見は人とは違いつり上がった目に尖った耳。肌も緑色。背もニーナより更に小さい。唯一人の言葉が喋れると言ったところか。


「貴女様がおっしゃる通り、この方は我々の王です!!ですが、魔王様が人間に何かしましたか!?反撃も防御もしない相手に一方的に攻撃を仕掛けるのは虐めじゃないんですか!?」


いや、それを言われるとなんも言えない……

と言うか、これ、私の方が悪役な感じの流れになってる?


「我々は人間に迷惑などかけた事ありません!!『勇者と言ったら魔王討伐』なんて話は古いんですよ!!」


確かに、魔族より人間の方がよっぽどタチが悪いと言われれば否定は出来ない。

街を歩けばスリに遭い、言い争っているのは人間同士。それもくだらない理由ばかりで、周りは見て見ぬふり。

更には女だからと軽視された挙句にセクハラ紛いの言葉の数々。

そんでもって、最終的には所属していたパーティの追放。


考えれば考えるほど腹が立ってきた。


「……サイモンもういい、その辺にしておけ」


自分の部下を宥めるようにして割って入っていた魔王はニーナを睨みつけるように見ると、とんでもない事を口にした。


「我は魔法が使えん」

「は?」

「魔王が魔法使えないとおかしいのか?」

「いやいやいや、おかしいでしょ!?」


しれっと自分はこれで魔王やってます感出されてニーナは愕然とした。


魔王と言えば魔族の親玉。その親玉が魔法の使えないポンコツなんて魔族の風上にも置けない!!むしろ、それでいいのか魔族達!!


ニーナは目の前のポンコツ魔王を苦虫を噛み潰したように睨みつけた。


「まあまあ、落ち着いてください。実はこれには深い訳があるんです。話すと長くなるので色々端折りますが」


サイモンと呼ばれていた部下がニーナに説明してくれた所によると……


『魔法が使えないなんて不憫』

『ならばみんなで護ってやるか?』

『じゃあ、いっその事魔王にしとく?見た目魔王みたいだし!!』


「──とまあ、簡単に言えばこんな感じです」


サイモンが物凄い笑顔で教えてくれた。


ツッコミたいところは諸々あるが、魔族ノリ軽ッ!!

そんでもって仲間思い!!


ニーナの中での魔族と魔王のイメージが瓦礫となって崩れる音がした。


「けど、それじゃあ今までやって来た勇者はどうやって追い返したの?」

「奴らは我の姿を見た瞬間、腰を抜かしたり、逃げ出す者が多かったな」

「ええ、万が一にも攻撃をして来ても差程大した事がなかったので、その都度私が影からお助けしておりました」


なるほど……今まで来ていたのは自称勇者ばかりだったか。

そこへ私みたいな本物が来たから慌てたんだな。


とはいえ、いつまでも自称勇者ばかりが来るとは限らない。最近では成果を挙げている勇者も少なからずいるのも確かだ。


その話を二人に伝えるとお互いに顔を見合せ、目配せした後ニーナに向き合った。


「──いくらだ」

「は?」

「いくらで我の元で働く?」


ニーナは自分の耳を疑ったが、目の前の人物は至って本気だと言う顔でこちらを見ている。


「ゴホンッ……些か気早だとは思いますが、貴女様は私の見立てですと、中々の腕前をお持ちだと推測しますが……?」


このサイモン。中々いい目をしておる。


自分の力を認められ、内心歓喜しているニーナだが、魔族と手を組む訳には……


「貴女様の力量を踏まえまして、給金はこれぐらいで……」

「───……………………え?」


サイモンが見せてきた金額に自分の目を疑った。

明らかに額がおかしい。


(……ゼロが多い……)


断じて少ない訳ではない。多すぎるのだ。


「……ねえ、これ、金額間違ってない?」

「やはりこれでは少ないですか!?では、これで……」


更にゼロを付け加えられて、流石のニーナも焦った。

この金額に見合った対価を要求されたら臓器を売ってまで払わされそう。


「金額はこの半分でいいです」

「なんと!!そんな安価でいいんですか!?」


魔族の金銭感覚バグってる……


頭を抱えながらニーナは考えた。


このまま魔王を倒せば金持ちにはなれるが、それはあくまで一時だけ。

それに街に戻った所で、ここまで羽振りのいい職場は中々巡り会えない。

それに、ぶっちゃけあの街に想い入れもない。


だが、このまま安易に返事をするのは危険だ。

まずは待遇と勤務形態を聞かない事には返事はできない。


「ちなみに、福利厚生や仕事内容は……」

「こちらがお願いしている身ですので、ご要望がございましたら何なりと」

「えっ?三食昼寝付きで残業手当あり。週休二日制で労災あり……でも?」

「その程度の事でいいんですか?勿論、衣食住の生活は補償させていただきますし、我々は二交代制の8時間労働ですが、人間である貴女様は日勤のみで大丈夫です」


更に、仕事中に怪我をした際の補償もしてくれるらしい。


「人間である貴女様には魔族との共同生活は苦痛かもしれませんが──……」

「やります!!是非、やらせてください!!」


魔法使いニーナ。魔王と雇用契約結びました。

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