15.嵐の前の静けさ
『何が何でもやってやる。もうお前ら"黄界"には好き勝手させない。首を洗って待ってろよ!』
特殊狙撃兵及び上級准尉の隊3つが、戦争を終わらせるため、最後の砦へと出発した。
(あー、よく考えると、俺よく今まで死ななかったな)
最後の任務に赴く道中、
(思えば、俺がこの戦争に身を投じたのってちょうど5年前なんだな)
俺が
(よく頑張ってきたよな、ササ。独りだったのに。俺じゃあ絶えられないよ)
俺が幸実と出会ったのは18歳のときだ。配属先で班が同じだった。第一印象は、「こんなやつが射撃の天才って言われた
(あいつによく世話を焼いてやったけな。訓練場の場所を2回に1回は間違えてるようなやつだったからな)
でもあいつは変わった。戦争に身を投じるようになってから。ズレてるところはなくなり、甘かったところは厳しくなった。きっと昔の幸実を知っている人がいれば、今の彼女を見て絶句するだろう。
かつてよく世話を焼いた友人は今、誰も届くことのない高みにいる。
(もう、お前はいないんだな。昔の鈍臭くて危なっかしかった
「なに?何をジロジロ見ているの?」
「何でもねーよ、ササ」
親友の成長は喜ばしかったが、同時に少し寂しく思う自分がいた。
(ふふ、2人ともこうやって軽口叩きあうところは昔から変わらないのね。2人の立場は逆だけれど)
「どうしましたか、優木准尉」
部下の1人が話しかけてきた。彼はやや苦労性な人物で、少し丸まった背中と眼鏡が特徴だ。
「いいえ、少し馬鹿2人に呆れているだけよ」
「注意いたしましょうか?」
「大丈夫。彼らなりの緊張しないためのルーティンみたいなものだから。まあ、うるさすぎて周りに迷惑がかかっているようなら注意してちょうだい」
「了解いたしました」
彼はまた後ろに戻っていった。
(2人を見ていると、昔の私と少将様みたいに見えてくるのよね)
かつて、私と少将は恋人どうしだった。どちらも上流家庭に生まれて、幼い頃から仲が良かった。一時期同じ家に住んでいたこともあった。そして、その関係も今の
(お元気そうでなによりだけど、みんな変わっていってしまった)
幸実も、少将も、いつの間にか私の知っている人ではなくなっていた。昔の幸実はおっとりして、少し危なっかしいところがある
(一体どこで私達は分かたれてしまったんでしょうね。ササ、
そうやって儚げに笑う咲蘭の顔を、幸実はどう受け取っただろうか。
ゴーストビル 19階-20階
私達は必死に外階段を駆け上っている。下の隊が必死に戦っている中で、だが。
「ササ!ゴールは見えるか?」
「まだまだだよ!全く、なんでこんな長くするかねえ!非常階段なのに!」
現状、内部には20階へ行く手立てはほぼない。たった1つ20階に通じているエレベーターがあるが、最も警備が厳しく、最も鎮圧まで時間がかかる箇所だろう。そこの戦闘に時間がかかるくらいなら、と選んだルートは東側の小さな塔にある非常階段を使って進むルートだ。こちらは鎮圧に時間がかからず、15階から直通で行けるというメリットがある。その反面老朽化がとんでもなく進んでいることや、20階の警備が厳しい可能性がある、というのがデメリットだ。
(今のところ敵兵らしき人影はなし。ただ20階までにもいないかと言われると疑問だ)
ライフルやその他武器防具を持って5階分の螺旋階段を駆け上るのは結構疲れる。できるだけ軽量化しているが、それでも5キロはあると思う。
「(上の方から光が見える……)もうすぐで20階よ。全員戦闘用意をしなさい」
とうとう20階入口についた。他の隊の兵がそっとドアに手をかける。思いっきりドアを開き、盾を構える。
やはり銃弾が迎えてきた。かなり強化された盾らしく、中々壊れない。だが、弾の装填のためか、一瞬攻撃が止んだ。まず10人だけ行かせることにした。10人が盾を構えて一斉に飛び込む。
「次、行きなさい」
そうやって10人ずつ出していく。しばらくすると声も止み、煙だけが残った。
「………!大丈夫みたい」
先に1人だけ入り、他の敵兵が倒れているのを確認する。
私の確認が終わると、他の准尉や狙撃兵もぞろぞろと入ってきた。もう一般兵のほうは隊列をきちんと組んでいる。さらに奥の方にはこちらにやってくる兵士の列が見えた。
『この隊列を崩さないようにしてください!私達は真ん中の列に紛れ込むように入るからね。さあ、最後の戦いだ』
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