5.戦いを勝ち残り、脱出せよ。

『さあ、誰からでもいい。来い。私は戦いたくてうずうずしてるんだ。お前達が私を楽しませてくれることを望むよ』




私の言葉に挑発され、3人の内最も若そうな兵士が鉄バットを振り回しながら向かってくる。


「ふんっ!」


(人間は感情をすこーし昂らせればどんな智将でも冷静な判断ができなくなるのよね。特に若いのは)


私もまだ30にもなってないが、精神は40代ぐらい安定していると思っている。たぶん。先程の病室での失態は見なかったことにする。


「ぐっ、がぁ!」


的確に急所を捉えた2段蹴りは相手の体勢を崩すのに十分な威力だった。体勢を崩した相手はふらりと倒れ、呆気なく鉄バットを奪われた。


「………!」


無言で、しかも愉悦の表情を浮かべながら相手の後頭部を殴る私の姿はどう映るだろうか。


「次はお前だ、そこのチビっこ」


指を差された兵士は分かりやすく動揺し、顔面蒼白である。


(こんなのが兵士でいいのか?)


少し味方がコテンパンにされたぐらいでここまで動揺していては戦場では真っ先に殺られるだろう。


情けなどない。殺れるやつから殺っていく。


「せいぜい来世で幸せになりな」


逃げ出そうとしていたチビ兵士を鉄バットで殴打した。その顔は恐怖か、はたまた生への執着で歪んでいた。


「お前さん、一体何者なんだね。一兵卒かと思うておったが、その動き、只者でないな」


最後に残った老兵が問うた。こいつは先程の2人とは違いどれだけ挑発されても落ち着いていた。初めに私が笑ったときでも多少は驚いたものの、すぐに平静を取り戻した。


「…敵兵にのこのこと自分について話す馬鹿がいるか?」


「そりゃそうじゃな。そう言われると返す言葉もないのう」


お互いの空気がより一層険しくなる。


「爺さん、早く戦おう。あんまりてこずっている様じゃ給料落とされんじゃあない?」


「………」


老兵はほとんど音を立てずこちらに飛び込んできた。それを鉄バットで弾く。


「効くと思うたか。娘子よ」


すかさずこちらも一発かましにいく。


それもするりと避けられた。ここまでできるやつがいるとは。


(なかなか楽しいじゃない…!)


自分でもなかなか狂っていると思うが、生来の性格だ。サイコパスと云うのだろうか。




 その後も幾度も攻撃を仕掛ける。それを避けられる。相手の攻撃を避ける。いたちごっこを続けていた。


(……!)


先に隙を見せたのは、老兵だった。


「たぁぁ!」


ほんの僅かに空いた隙を突く。ずっと相手の様子を伺っていないとできない技だ。これも長きにわたる地獄をくぐり抜けてきたからこそ身についた技だ。


「ぐおお…」


老兵は少し呻くとそこに倒れ込んだ。


(強かった…相手が隙を見せてくれたから…なんとか)


この老兵には心から敬意を表す。少なくとも70歳は超えているだろう。その年で私を翻弄するほどの動きをしてみせたのだ。


本音を言うとこの老兵を手厚く葬ってやりたいのだが、敵地から抜け出ることが最も大事だ。


(意外に時間を食っちゃったな……)


 そもそもこうなる前に窓から脱出していればよかったのだ、と少し後悔したが、すぐに考えを改め脱出に集中した。




窓から地面まで約10mといったところか。


窓の桟に足をかけて、一気に飛び降りる。


地面に落ちても、四つん這いの体勢だったり地面が土が盛られた場所だったりでそんなに体にダメージは出なかった。死ぬ確率は低いが大怪我をする可能性はあったため、とりあえず動けることに安心した。


余談だが、飛び降りで有名な清水寺の舞台は地面から13mあるものの、生存率は85.5%あったそうだ。割と死なないのかもしれない。(ただ地面が柔らかい土というのもあるだろう) 




 着地地点から5m離れたところにある茂み。ここには『黄界』の監視の目も緩いため、政府軍スパイの潜入に使われる穴がある。そこまで一直線に走る。


幸い誰にも気づかれずに穴まで走れた。そこからほふく前進で穴を進む。




 穴を抜けた先には、見る元•中心街の廃墟ビル群がそびえ立っていた。




『どうやって軍キャンプに帰るかねえ…』

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