大学4年生、夏
指爪のの香
第1話 7月3日深夜バイトの日
深夜26時30分、
渋谷の道玄坂を登りきった先のコンビニでエナジードリンクを買っているぷりん髪の女は、それなりにプライドを持って、それなりの人生を楽しんでいる。
最近の若者言葉で言えば、「限界大学生」という共感性羞恥心がやられる言葉で片付けられるが、見た目が派手なだけ、の私は、振り切ったギャルにはなりきれず、最近ちょっとばかりの反抗をして舌ピアスを開けた。
口の中に、緑色のエナジードリンクを掻き込むと、ピアスの金属と液体が化学反応を起こしているのではないか、というくらい口中に衝撃が広がる。
ここからバイト終わりまで3時間もあるではないか。深夜営業なんて労基のかけらもない。この時間に働く度に、騒ぎ立てる渋谷の若者を見ながら、どこか羨望のような、嫌悪感の入り混じった気持ちになるが、その気持ちが何故生まれているのか、という答えを出すほどの脳みそもない。眼の前にある動物のような人間たちを、ただボーっと見つめながら、空いてるグラスや皿を雑に片付けて、客に見えないようにドリンク場の奥でタバコに火をつける。
店長も、うるさいバイトリーダーもいないこの時間に誰も何も言わない。誰も私などに興味も関心もないこの建物。メンソがすっと身体に染み渡る。
これだこれ。生きてるって今だ。
朝5時
アルバイトが終わって、道玄坂を駆け下りると、この世の地獄を見る。本当に世界っていろんな人がいる。あ、さっき2階の5卓に座っていた人たちだ。
二人減ってない?
…なるほどね。
むしろ皆が素直で思いのまま生きているこの時間をみるのが好きだ。
本当に天国に行っちゃいそうな人もいるけど。
朝6時10分
最寄りの駅を降りると、今から出勤する人たちに出会う。駅から遠ざかるときは、正直少し恥ずかしい。私も先程まで働いておりました。皆様もこれからお務め頑張ってくださいませ。と言いながら歩きたいぐらい、申し訳無さを払拭したい気持ちもある。
こんな早くからどんな仕事に行くんだろうか?
私も将来彼らの仲間入りをするのだろうか。
大学4年生、夏 指爪のの香 @nonokasasizume
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