第365話 ウミウシの店の引き継ぎについて
-翌朝-
オレたちはまず、朝食を食べてから、カイリたちの荷物をアイテムボックスに格納する作業を開始した。
カイリの荷物は調理道具一式、ユーカは本がメイン、トトとキッカはおもちゃが少しと、あとはみんなの服だ。
家具は引き継ぎの子どもたち用に置いていくので持っていかない。
なので、引っ越しの最終準備は割とすぐに終わってしまった。
「じゃあ、私たちは、町の皆さんにもう一度挨拶してきますね」
「うん、わかった。夕食を食べてから出発するから、それまでは家にいてね」
「はぁーい。ほら、行くわよ」
「へいへい」
「ノアール、ノアールも来て。みんな寂しがってたわよ」
ユーカがオレの隣に立っているノアールに手を伸ばした。
「そうなの?でも、ノア、パパとデートが…」
「挨拶だけだからすぐ終わるわよ」
「そっかぁ、パパ、行ってきてもいい?」
「大丈夫だよ。オレもアリアさんのところに行くし、またお家で待ち合わせしよっか?」
「わかった!行ってきます!」
言いながら、ユーカの手を取って、元気よく出かけていった。
「いってらっしゃーい」
「あ、待ってくださーい!わたしもついて行きまーす!」
リリィがノアールたちのあとを追う。オレが見ているうちにすぐに子どもたちと合流した。
子どもたちの輪の中には、当たり前のようにティナが付き添っているのだが、テンション上がってて少し心配だったんだよね。リリィがついて行ってくれてちょうどいい。
ノアールたちを見送ってから、オレは自分の用事を済ませることにした。
アリアさんがいる温泉宿に向かうとしよう。
♢
ガラガラ
「おう!ライ!来たね!」
「あ、こんにちは〜」
温泉宿の引き戸を開けたら、ロビーのソファにいたアリアさんが声をかけてくれた。待っていてくれたようだ。
「とりあえず、座りなよ!」
「はい、失礼します」
オレは靴を脱いでから温泉宿にあがり、ロビーのソファに座った。アリアさんも向き合う形で座っている。
「まずは、長旅お疲れさん!」
「いえいえ、オレたちは雷龍様の背中に乗せてもらってるだけですし、2日で着くので全然疲れてませんよ」
「そうかそうか!そういえばたった2日でウチナシーレから来ちまうんだったね!いやー、自分の目で見てなけりゃ、あんなちっこいのがドラゴンだなんて信じれなかったところさ」
「ですよねー、オレは逆でしたけど」
「逆?逆ってどういうことだい?」
オレは雷龍様との出会いについて、アリアさんに説明した。オレは先に竜の姿の雷龍様に出会って、散々戦ったあとに幼女の姿に変身するのを見た、という話しだ。
「ははは!ライ!あんた冒険してるねぇ!」
「はは、ですね、あのときはマジで死ぬかと思いました」
「よく生き残ったよ!でも、そのおかげであの雷龍様に認められたんだ!よかったじゃないか!」
「まぁそうですね」
「いやー、面白い話を聞いた。あ、そうだ、そろそろ本題といこうかね。カイリたちの店の引き継ぎの件さ」
「ですね、昨日の夜見た感じですと、問題なく引き継げていたようですが、どうですか?」
「そうだね、一応、店自体は回せるようになった。釣り堀の方も含めてね。
子どもたちも増えたことだし、運営自体は問題なさそうなところまできてる。ただ、やっぱりカイリの腕に追いつくのはまだまだ先になりそうさ」
「なるほどー、やっぱこの期間じゃ、完璧に引き継ぐのは無理でしたか」
カイリは、半年近くステラ直々に料理の指導をしてもらっていた。
今回、料理に興味がある孤児院の子どもに料理指導をはじめたのは2ヶ月前だと聞いている。たった2ヶ月では、元々料理の心得があったカイリに追いつくのは無理だったようだ。
それにカイリは教えるのがあまり得意じゃないのもあって苦労したそうだ。
「でもね、なんとか人様に出せるレベルにはなったから、これからの上達に期待するしかないね」
「なるほど、後任の料理担当の子ですが、カイリともめたり、料理が嫌いになったりとはしてませんか?」
「んー、最初は自信なさげだったけど、カイリのやつも怒ったりはしないからね。最近は褒めてくれたりしたみたいで、今は楽しそうに料理してるよ」
「そうですか、それなら良かったです。結局、孤児院には何人新しい子を迎え入れたんですか?」
「近くの町から4人引き取って、奴隷にされてた子を2人買い戻して解放したから、6人だね。だから、今は全員で12人の子どもたちを面倒みてることになる」
「なるほどなるほど、さすがアリアさん、善人ですねぇ」
「よしとくれよ!これも、あんたが寄付だとかお礼だとか言って置いていったお金のおかげさ」
「いえいえ、それほどでも?」
オレは、ちょっとおどけてドヤ顔をしてみる。
「はは!まぁ、とにかくだ、みんな前向きでいい子たちだから、たぶんしばらくは大丈夫さね。将来的にあの店で働き続けるかはわからないけどね」
「んー、まぁ、今いる子たちには独立してもらった方が将来的には多くの子どもを救えるような気もしますけど、そのあたりはアリアさんたち本職のシスターにお任せします」
「そうだね、任せておきな!引き継いでおいて潰すようなことはしないよ!」
「あはは、まぁそこはあまり気を張らずにやってください。とりあえず、話しておくことは以上ですかね?」
「そうだね、あんたたちは今日の夜には旅立つのかい?」
「そうですね、暗くなったら出発しようかなと思っています」
「そうかい、来て早々大変だろうけど頑張んなよ!王様!」
「あれ?アリアさんにその話ってしましたっけ?」
「ユーカから聞いたのさ、正直まだ半信半疑だけどね。リューキュリアの国王が亡くなったってニュースは届いてるけど、新王のことはまだここまで届いてないからね」
「そっか、ウチナシーレからここまで距離ありますもんね」
「だね、まぁとにかくだ、ウミウシのことは任せときな。もしどうにもならなかったら、ライ陛下の力を頼らせてもらおうかね!」
「はは、陛下はやめてください、今まで通りでお願いします」
「ははは!なんだかねぇ、ホントにあんたが王様になったのかい?」
「まぁ……、一応…」
「じゃあ、いつか見学にでも行こうかね、そのときは城の中を案内してくれるかい?」
「はい、もちろん。ぜひ子どもたちと旅行に来てください。て言っても、2ヶ月近くかかる行程なので現実的ではないかもですが。
あ、なにかあれば、この水晶で連絡してください」
オレは、新しく作ってもらった通信機能がある水晶をアイテムボックスから取り出し机に置く。
「魔力をこめて声をかければ、うちの屋敷に置いてある水晶と繋がるようになってるので」
「へぇ……これはまた面白い魔道具を…」
アリアさんは台座にのせられた透明な水晶を興味深そうに覗き込んだ。
「わかった。あんたが帰ったら1度連絡してみるよ」
「ですね。ちゃんと繋がるか実験してみましょう。もし誰も近くにいなくて繋がらなくても、話し続けてもらえば音声を記録して後で聞き直せますので。そのやり方も教えますね」
これは、腕輪型通信機と指輪型通信機には無かった新機能だ。以前の魔道具では、魔力が不要な代わりに、留守電機能なんてものは付加できなかった。これだと、常にオレが身につけておかないといけないし、電話に出ない、という手段がないから困っていたから追加してもらった機能だった。
まぁ、懸念していたのは、嫁とイチャイチャしてるときに、嫁以外から通信が入ったら嫌だな、と思った結果の新機能だった。
「へぇ〜、ホントに面白い魔道具だね」
そしてオレは水晶の使い方を一通り、アリアさんに教えた。
それから、「夜には店の鍵を渡しに来ますね」と伝え、手を振って温泉宿を後にする。
時刻はまだお昼前、このあとはノアールとの初デートだ!
オレは足取り軽やかに、カイリたちの家に戻ることにした。
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