第341話 ノアール以外の家族について

 ノアールと一緒にカイリのお店に戻ってきた後、こっちは人手が足りてると聞いて、オレたちは釣り堀の方を手伝いに行った。

 それから夕方まで働いたので、ノアールの魔法は、明日にでもティナたちに見てもらとうと話して店じまいする。


 みんなと合流して、2階のリビングで夕食を取っているとき、オレたちがここに来た理由をカイリたちに話すことにした。


「――ということで、オレはノアールを迎えにくるために戻ってきたんだ」


「そっかぁ……ノアール、ライお兄さんについて行くんだ…ついにかぁ…」


 事情を説明し終わると、ユーカが箸を置いて、少し寂しそうな顔を見せる。


「そんな顔すんなよ、前からわかってたことだろ?」


「私はあんたみたいに無神経じゃないのよ。繊細なの」


「なんだこのブス」


「ぶっ殺すわよ?」


 おぉ…なかなかにギスギスしたやり取りだな…。しばらく会わない間に、ユーカとカイリは仲悪くなったのかな…、と焦る。


「カイリにぃとユーカねぇはいつもこんな感じだよ」


「そうなんだ?」


「いつもイチャイチャしてる」

と、キッカが小声で教えてくれた。


 ふむ?これもイチャイチャの形なのだろうか?

 でも、ブスはよくないよ、カイリくん。ユーカのことが好きなら、それは絶対良くない。あとで説教しておこう。


「あー、それでなんだけど、もし良かったら、みんなもウチナシーレに来ないか?」


「え?俺たちも?」


 睨み合っていたカイリとユーカを遮って、もう一つの本題について提案することにした。

 オレの提案を聞いて、ノアール以外の4人の子どもたちは目を丸くする。


「うん。みんなが良かったらだけど。4人ともウチナシーレで暮らしていける用意はしてきたんだ」


「でも、私たちお店があるし…」


「それなんだけどさ、アリアさんに相談したら、孤児院で引き取る孤児を増やせば、こっちのお店も対応できるだろうって言ってくれたんだよね。

 引き継ぎのために数ヶ月はかかると思うけど、もし、みんなもウチナシーレに来たいって思ってくれるなら、歓迎するよ?」


「うーん?」


 カイリ、ユーカ、トト、キッカが考え込む顔を見せる。


「トトは、キッカと一緒なら…でもね、ティナおねえちゃんとも一緒にいたいな…」


「キッカも…同じ…」


「おお!おお!なんて可愛い子たちなのじゃ!よし!連れていこう!」


 ティナが2人を後ろから抱きしめて、満面の笑顔を見せる。


「でも…カイリにぃとユーカねぇとも一緒がいい…」

と不安そうな顔をするキッカ


「そうね。私もみんなと離れたくないわ」


「だなー。それに、オレの店、手放したくないなー…」


 カイリは、自分の店に愛着が湧いたようだった。やりがいを感じてくれているのは嬉しい。だが、それが障害になることも見越していたので、用意していたカードを切ることにする。


「カイリはさ、漁師になりたいって言ってたよな?」


「え?うん。そうだね」


「今もその気持ちは持ってるか?」


「う~ん。港で漁師のおっちゃんたちを見ると、楽しそうだなって思うけど、俺にはこの店があるからさ~。もうあんまり考えないようにしてる」


「ふむふむ。それは良くない。男は夢を追うべきだ。そして、ウチナシーレは、絶賛、漁師を募集中なんだ」


「へ~?そうなんだ?」


 オレが言いたいことがいまいち伝わってないので、ストレートに伝えることにする。


「カイリ、ウチナシーレで漁師にならないか?」


「……めっちゃ迷うじゃん」


そうだろうそうだろう


「それに、港の近くに店も用意しよう。漁が休みの日とか、カイリが料理を振る舞いたい日には、レストランもやればいい」


「なにそれ、最高かよ」


そうだろうそうだろう


「あんたは単純でいいわね」


「なんだこのブス」


「ぶっ殺す」


また睨み合い出したので、もう一人の才女の方も誘惑することにした。


「ユーカはさ、今も本が好きなのかな?」


「え?はい。好きですよ。店番しながらいつも読んでるから。でも、ウミウシは本屋さんが小さくって…」


「ウチナシーレの図書館は、絶賛、司書を募集中だ」


「……なるほど、私にも餌を用意してきたんだ…」


「ユーカにはかなわないな。まぁ、その通りだよ。ちゃんと仕事としての司書の席を用意してある。仕事の合間になるけど、受付をしながら本を読んでるのは問題ないって聞いてるし、司書になれば本のレンタルは無料だってさ」


「……魅力的な提案ですね。考えてみます」


「お願いします」


 冷静ぶってるユーカだが、あきらかにワクワクしてる顔だった。少ししたら、この提案に乗ってくるだろうと確かな手ごたえを感じる。


「どうじゃ!?どうするのじゃ!?2人とも!来てくれるのじゃろう!?」


 ティナがカイリとユーカの間に入り込み、キョロキョロとする。


「う~ん…」

「どうしようかしら…」


「まぁまぁ、ティナ、2人にはもうちょっと考えてもらおうよ。あ、そうだ。ユーカにはこれを」


 オレは通信機能がある腕輪をユーカに渡す。


「なにこれ?」


「通信機。オレたちがウチナシーレに帰ったあと、ノアールを通して通信できなくなるからさ。渡しておくよ。こっちに来たいって決まったら、すぐに迎えに来れるようにね」


「わかりました。お預かりします。んー、迷うわねー…」


「俺、行きたいかも…」


「あんたは単純だから」


「ブ、」


「ブスって言ったら殺す」


「……」


 そんな感じで話し合いは一旦終わり、夕食を済ませて解散となった。


 ティナは4人の子どもたちにべったりで、「わしと一緒に行こう!な!な!」っとニコニコしながら説得していた。

 トトとキッカは笑っていて、大人になりかけてるユーカとカイリは困り顔だ。自分たちの今の仕事に責任を感じているのだろう。でも、2人はまだ14才、わがままに振舞ったって良い年ごろだ。

 それとなく、ステラやリリィからも説得してもらうように伝えておこう。


 なんとか、みんなが離れ離れにならない方向でまとまって欲しい。そう願いながら、オレは、屋根裏で寝る準備に向かうことにした。



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ノアール

 好感度

  96/100

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『……ど、どどど、どうすれば…」


 オレは、屋根裏で一人になったのを見計らい、攻略スキルを開いて頭を抱えていた。


『知りませんよ。攻略したらいいじゃないですか』


『でもでも!この子はオレの娘で!』


『血は繋がってないじゃないですか』


『でもでも!』


『迷うくらいなら、攻略対象から外してください』


『それはなんかイヤだ!」


『……』


『あれ?攻略さん?』


『……』


『相談にのってよ!』


『……』


『ひどい…』


 攻略さんはいつも通りの対応だった。辛辣なことは言ってくるのに、相談にはのってくれない。ひどいやつである。


『もうアドバイスしませんよ?』


 うん。そうだよね。オレの思考は全部攻略さんにはお見通しだよね。


『すみませんでした。反省してます』


『なんだか、毎回この流れな気がします』


『ははは!お約束ってやつですね!』


『……じゃあ、おやすみなさい』


『あ!おやすみです!なんかはじめてですね!おやすみって言ってくれたの!嬉しいです!』


『……』


『あれ?おーい。はぁ…やれやれツンデレなんだから…』


 返答が無くなった攻略さんのことをからかってみたが、これ以上の反応は返ってこなかった。


 まぁ攻略さんのことはいい。とにかく、ノアールだ。好感度がもうカンストしそうなのだ。どうするのか、真剣に考えないといけない。


 どう、すべきか。


 …どう…


 ……よし、明日のオレに任せよう。おやすみなさい


 オレは、思考することを放棄して、布団をかぶる。


『……ダメ人間ですね』


 薄れゆく意識の中、どこかのツンデレが頭の中で何か言ってる気がした。

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