第302話 これからの聖剣様との関係について
そろそろおやつの時間かな、という頃にレウキクロスの正門まで帰ってきて、門番にお礼を言いながら馬を返す。
そのとき、門番のやつがニヤニヤしながら、
「今度、デートの感想聞かせてくださいね」
と、こそっと耳打ちしてきた。
うん、こいつは今度しばこう。
門番のことは忘れ、気を取り直してクリスと一緒に正門からの大通りを歩く。このまま行くとクロノス神殿だ。
「神殿にでも行くのか?」
レウキクロスの象徴とも言えるでっかい塔を見上げながら隣のクリスに話しかけた。
「お、正解」
「ふーん?クロノス神殿になんか面白いものでもあるのか?」
「まぁそれは行ってみてのお楽しみ〜、ということで」
「そっか〜。てか、入れるのか?」
「僕の肩書忘れたのか?」
「あぁそういえばそうか、聖剣様だもんな。でも、その格好で行ったら、また仲間にジロジロ見られるだろうな~。明日からおまえ、聖騎士隊の中で、めちゃくちゃモテるんじゃないか?」
「……別にモテたくなんてない」
「そっか〜」
「き、キミに……」
「ん?なに?」
「キミ、以外には……モテたくない……」
「……な、なんだよ……やめろよ、突然そういうの……」
オレは、不意打ちのセリフにドキドキさせられてしまう。
「なんだよ、キミだって突然、美人とか言っただろ。だから、仕返しだ」
「そうか……仕返しか……それならしょうがないか……」
「……」
「……」
何度目かの気まずい雰囲気になりながら歩いていると、クロノス神殿に到着した。
「上に上がる許可貰ってくるから、そこで待ってて」
「わかった」
クリスがオレのそばから離れ、姿を消す。
オレは、雷龍様襲来のときに使ったエレベーターの前で待たされることになった。
1人になったので、今日のことを思い出しながら、クリスのことを考える。今日のデートで、あいつがオレに何を伝えたかったのか。
さすがのノンデリ男のオレでも気づいていた。
あいつがオレのことを好きだっていうことに。
じゃあ、オレはどうなんだろう?クリスのことが好きなんだろうか。
クリスのことは、信頼してる。
冒険者としての実力は確かだし、一緒に戦うと楽に連携も取れる相棒みたいな存在だ。
それに、戦い以外でも、気軽に軽口を叩けて心地よい相手だと思う。あいつと何気ないバカな話をしてるときは、誰とも異なる楽しさを感じているのはわかっていた。
オレはあいつのことが好きなのか?
自問自答する。
好きといえば、好きだ。友達として。
あいつがどう思ってるかわからないが、あいつが男の姿だったとき、オレはあいつと親友になれると思っていた。
でも、あいつは女だったわけで、オレに好意を持っていて……
今日一日の、いや、最近の振る舞いを考えても、あいつが親友って立ち位置を求めてるようには見えなかった。
あいつは、オレと特別な関係になりたいんだろう、たぶん。
オレはどうなんだろう。なにか問題はあるのだろうか。
妻たちは、オレとクリスのことをくっつけようと躍起になっているように見えたし、出かけるときも、くっついても問題ないと言われた。
じゃあ、あとは、オレの気持ち次第じゃないのか。
「……」
「お待たせー」
「おう」
クリスが小走りで戻ってきたので、考えごとを続けながら、2人でエレベーターに乗り込んだ。
隣に立つクリスは、親友だと思っていたこいつは、今はとても美しい女になっていた。
「……」
黙ってクリスのことを見ていると、エレベーターはどんどんと上昇し、停止する。
かなり上がったようだが、前来た場所とは違っていた。エレベーターが止まったのは最上階の屋上ではないようだ。
「ここは?」
「ここからは階段だよ」
クリスが螺旋階段を指差す。ぐるりと壁沿いに設置された螺旋階段が最上階まで伸びていた。
クロノス神殿は円形の塔なので、螺旋階段の形状はその壁沿いに沿った美しい円を描いている。階段が壁から生えるように伸びいていて、浮いているようにも見えるデザインだった。
塔の上の方から太陽の光が差し込んでるので、あそこが最上階なのだろうとわかる。
階段の手すりに近づくと、一階までを覗ける場所があったので、覗き込んでみる。
「すっげぇ高いな」
「だよね」
「なんで最上階に行くのにここで降りたんだ?」
「この螺旋階段、なんかカッコよくない?」
「たしかに!実はのぼってみたかったんだ!」
「おっ、そう言ってくれると思った。ちなみに、一階からのぼると、長すぎて後悔するよ」
「ははは、そうだろうな~。でも、やってみたい気もするな」
「じゃ、また今度2人でのぼろうか」
「おう、そうしよう」
「じゃ、いくよ」
タタタ、
小走りで先にのぼっていくクリス。
「なに急いでんだー?」
クリスのことを見上げると、
ふわっ
スカートがフワリと持ち上がって、斜め下から覗くオレには、あいつのスパッツが……
スパッツじゃなかった。
白い、レースがあしらわれた女性らしい下着がチラリと見えてしまう。
「……」
オレは、呆然と目が奪われ、ピタッと足を止める。
そんなオレにくるりとクリスが振り返った。
「見たかったんだろ?」
「……」
「その顔は、まんざらでもなかったみたいだな♪」
嬉しそうにしながら、また階段をのぼっていってしまった。
不覚にもドキドキさせられた。
そんな心臓の音を聞きながら、あいつとのこれからの関係について真剣に考えて、オレもゆっくりと螺旋階段をのぼりはじめた。
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