第260話 母の味
「リリィのお母さんの料理!美味しいわね!」
「そうですね、わたしにとってはとても懐かしくって、大好きな母の味です」
「落ち着いて食べなさい。もう、手のかかる子ですね」
ユーシェスタさんが、ほっぺを汚したソフィアの顔をふきんで拭いてくれる。
「ぷはっ!子どもじゃないんだから!子ども扱いしないでよ!」
「なら大人のレディらしく落ち着いて食べなさい」
「はぁーい……なんだかリリィがもう1人いるみたいね…」
「なんですか?ソフィア、イヤそうにして」
「あはは!リリィが2人いたら小うるささも2倍ですね!」
「む、ステラは後でお仕置きですね」
「私はソフィアと違って簡単には捕まりませんよ♪」
「リリィ、私も協力しましょう。先ほど、ステラには頑固頑固と何度も言われましたし、尻を叩きたいです」
「そんな!?お料理手伝ったのに〜。ライさ〜ん」
よよよ、とステラがオレにもたれかかってくる。
「あはは、ステラはちょっとお茶目なだけなんです。場を和ませようとしてくれてるんだと思いますよ」
頭を撫でながらフォローする。
「えへへ♪」
ステラは嬉しそうにして大人しく撫でられていた。
「夫であるあなたが甘やかしすぎなのでは?」
「たしかにライ様は甘々です」
「……ところで、なんで様付けなんですか?夫に対して……あなたたち…そういうプレイなんですか…」
「いえ…そういうわけでは…お母さん…そのですね、ライ様には助けていただいてからそう呼ぶようにしてまして…」
「プレイとはなんじゃ?」
「さぁ?ボクわかんない、もぐもぐ」
「ピー?」
「ミィ…この前、本で読んだよ…」
ご飯をみんなで食べながら、ワイワイと話をする。
ユーシェスタさんに全員で直談判した後、お昼ご飯の準備をみんなで始めて、リリィも合流してからの食事会となっていた。
オレたちは、中央教会の食堂で、数十人が座れる大きなテーブルを囲んで、ユーシェスタさんの手料理をご馳走になっている。ユーシェスタさんの手料理は、どこか懐かしさを感じる家庭料理で、とても美味しくて心があったかくなるな、と感じた。なによりも、ここにいるみんなが笑顔で話せていることに幸せを感じる。
「それでは、昼食が済んだら、さっそく修行をはじめましょう。覚悟はいいですか?リリィ」
「はい!お母さん!いえ!ユーシェスタ様!」
「よろしい、ビシビシしごいてあげましょう」
「どんな修行なのか気になるのう」
「たしかに、わたしも気になるわ」
魔法使いの2人がユーシェスタさんの修行に興味を示す。
「見学するのは構いませんが、治癒術士でない者が見ても習得はできませんよ?」
「それはもちろんわかってるわ」
「そうじゃな、知的好奇心というやつじゃ」
「そうですか、それではリリィが怠けないように2人にも監視してもらいましょうか」
「む、おかあさん、わたし怠けたりしません」
「そうですか?リリィは昔は甘えん坊でしたからね。小さい頃は、私に怒られると泣きながら近所の人に甘えてましたし、転んだときは魔法で治して~、って泣きついてきましたし」
「ちょっと!おかあさん!みんなの前で!やめてください!」
「なにその話!興味あるわ!」
「私もです!」
「ソフィア!ステラ!食いつかないで下さい!」
「ふふ、修行の合間に昔話でもしましょうか」
「はーい!なら私も見学します!リリィの弱みを握れるかもしれませんし♪」
と、いうことでリリィと修行見学組を残して、オレはコハルとミリアを連れて宿に戻ることにした。
教会の外に出る。
宿に戻ろうかと思ったが、
「いや、宿に戻る前にクリスのやつと色々相談した方がいいのかな?」
「んー?たしかにクリスもリョクたちのこと気にしてたもんね?ミリアはどう思う?」
「ピー?」
「ミィは…うーん…クリスさんにも…相談した方が…いいアイデアが浮かぶかも…って思う…よ?」
「なるほど、たしかにそうだよな。なら、聖騎士隊のところを訪ねてみるかぁ。入れるかどうか分からないけど。てか、聖騎士隊の駐屯地ってどこだっけ?」
「ボクわかんない」
「ミィも…」
「詰んだやん」
呆然と立ち尽くすオレたち。
クイクイ。
そんなとき、ぽかへいがミリアの服を引っ張った。
ビシ!
そして、路地の向こうを指差す。
「ぽかへい?…クリスさんの場所…わかるの?」
コクコク。
「おぉ〜、なんの能力?」
ビシ!ビシ!
オレの疑問にはもちろん答えてくれず、ひたすら指を差し続けるぽかへい。
「おーけーおーけー、せっかくわかるみたいだし、ぽかへいに案内してもらおうか」
「うゆ…ぽかへいは…すごい…ね」
えっへん!
ミリアの腕の中のぽかへいは、偉そうなポーズで威張っていた。
そして、オレたちは歩き出す。クリスタル・オーハライズを目指して。
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