第82話 月夜の港でプロポーズ

 翌日、オレたちは自作の竿とタモを持って、全員で釣り堀にやってきた。


 仲間と子どもたち何人かに竿を持たせて、針に餌をつけて投げて入れるように指示する。するとすぐに魚がヒットした。


「うわっ!ステラねぇちゃん!釣れたよ!どうするの!?」


「えぇ!?私も分かりません!ラ、ライさん!」


「おぉ、はいはい、了解」


 オレはタモを持って、カイリの竿にかかった魚を掬い上げてやる。


「お!おー!とったどー!」


 カイリはタモから魚をとり出し、天に掲げて叫んでいる。狩猟本能が刺激されたのだろうか。


 そのあとも、みんなで釣りを楽しんだ。


 全員が釣りを体験できるように順番で竿を回すが、ホントにすぐに釣れるので、みんな、2回目、3回目と順番を回していく。


 オレたちがワイワイと楽しそうにしていると、仕事を終えた漁師や奥さんたちが近づいてきた。


「なにしてるんだい?」

「それが釣りってやつか?」

 そんな具合だ。


「はい!よければやってみてください!」


 オレは、ここぞとばかりに町の人たちを巻き込んでいく。釣りは楽しいものだと宣伝するチャンスだからだ。


 こうして、町民たちを巻き込んでの釣り大会がはじまった。


「おぉ!網で捕まえるのとはぜんぜん違うな!」

「あたしにもやらせておくれよ!あんた!」

「おれのほうが大物だ!」

「いいや、おれだね!」

 そんな感じで大変盛り上がっていた。


 そこへ、小太りの男が走ってやってくる。お手伝いさんも数人一緒に来たようだ。


「はぁはぁはぁ……ミカヅチ様!このディグルム!あなた様の手紙を見て、すっ飛んでまいりました!それで!新しい商売というのは!?」


「いらっしゃいませ。まぁ、説明するより体感するのが早いでしょう。こちらへどうぞ」


 オレはみんなが盛り上がってる釣り会場へディグルムを連れていき、竿を渡して釣りについてざっくりと説明をした。


「ほう?これを?えぇえぇ、なるほど?わかりました…

 お?おぉ!なにかが引っ張っておりますぞ!なにかが!!ミカヅチ様!ミカヅチさまー!」


♢♦♢


 釣り大会が終わるのを待たず、オレはディグルムと宿の一室に戻ってきていた。


 子どもたちはみんなに任せて、そのまま港に置いてきた。


「それで!新しい商売というのはあの!」


「えぇ、釣りを商売にしたい」


「これは!新しい娯楽として!か!必ず!流行ります!ぞ!!

 して!ワタクシめにはなにを!?」


 椅子から立ち上がって、机に両手を置き、前のめりに話しかけてくるディグルム。


「ディグルムさんには、竿とリール、釣具の製造。そして、グランアレスでの独占販売権を取得してしてもらいたい」


「ふむふむ!」


「ただ、これだとそちらには美味しい話じゃない。この独占販売権、うちはグランアレス自由国だけでいい。他国ではあなたの商会で独占してください」


「はっ!それは!?……はぁはぁ……それは……よろしいのですね!!」

 息がどんどん荒くなるおっさん。


「えぇ」


「契約を結んだら!もう覆りませんぞ!」

 目が完全に$マークになる小太りのおっさん。


「えぇ、元々私の目的は、子どもたちが生活できる基盤を作ることです。大儲けじゃない。どうぞ、存分に稼いでください」


「ミカヅチ様!!」

 いいながら、はぁはぁ言ってるおっさんが手を差し出してきた。


 オレは笑顔でその手を握る。


 握手すると、ディグルムの手はめちゃくちゃ汗ばんでいて気持ち悪かった。



 ディグルムは、ノアールに書いてもらった竿やリール等のイラストを持って、すぐにガルガントナに帰っていった。


 他国での独占販売権をいくらで買うかは、まだ決まっていない。


「このような素晴らしいアイデア、いくらで買えばいいかわかりません!しばし考えさせてください!」

 とのことだった。


 いい値段がつきそうだ。釣り堀を軌道に乗せるのが本来の目的ではあるが、お金を出してくれるというなら貰っておこう。


 資金はいくらあってもいいものだ。


「ふーむ、次は食堂か、どこに作るかな」

 と一人で考えていると、念じてもいないのに、勝手に攻略スキル表示され、新しいアドバイスが書き出された。


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ウミウシでやろうとしていることを、

今すぐに、ティナと子どもたちに説明してください。

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「そっか、そうだよな」


 あやうく順番を間違えるところだった。

 さすが攻略さんだ。


♢♦♢


 夕方ごろ、釣り大会から帰ってきたみんなを部屋に集める。


 オレは、主に子どもたちに向かって話しかけた。


「みんな、オレはこのウミウシで、みんなが生きていけるようにお店を作ろうと思ってる。それがあの釣り堀だ。あと、もう一個、食堂も作ろうと思ってる。その経営をみんなに任せたい」


「それって……」

 カイリとユーカはなにかを察したようだ。寂しそうな顔をする。


「…パパとママも一緒だよね?」

 その空気を感じ取ったのか、ノアールが不安そうにいう。


「ごめん、ノアール、オレたちは一緒にいてやれない。この商売が軌道にのったら、オレたちは旅に出る」


「なんで!?イヤだよ!」


「ノアール…ごめんなさい、わたしたちは…」


「イヤだ!ノアも一緒にいく!」


「ノアール、わたしたちは家族で生きていかないといけないの」

 ユーカが諭すように言う。賢い子だ。


「わかんない!どうすれば連れてってくれるの!?」


「そうだな、ノアールが大きくなって、強くなったら一緒に旅をしよう」


 諭すように、納得してくれるように、しゃがんで頭を撫でながら言う。


「…ホントに?」


「あぁ、ホントだ」


「なら!ノア強くなるから!」

 涙を目にいっぱい溜めてノアールが宣言する。


「あぁ、待ってるよ」


 オレは頭を撫でながら、オレの娘を抱きしめた。リリィも同じようにしてくれた。


「カイリ」


「はい」


「食堂はお前の店だ、任せれるな?」


「はい!」


「ユーカ、釣り堀の経営と売上の計算を頼む」


「わかりました!」


「トトとキッカは2人を助けてあげて」


「うん!」

「はい!」


「ノアールもみんなとがんばれるね?」


「う、うん……でも、強くなったら連れてってね?」


「もちろんだ!」


「ならがんばる!」


 こうして、子どもたちの同意はとれた。


「……」


 オレたちのやり取りを、ティナは終始黙ってみていた。



 子どもたちが釣り堀や食堂のことについて話し合いをはじめると、


「ライ、少し話がある」

 と、ティナから声がかかった。2人で話したいということだろう。


 オレはティナと2人で宿の外に出て、港まで歩いてきた。適当なところに腰掛ける。


「なぜ、おぬしはここまでする?おぬしらにとって、わしらは他人のはずじゃ」


「最初はそうだったけど、今はもう大切な人だと思ってるよ」


「……人間は愚かなはずじゃ…」


「そうかもね。でも、今はオレたちのことどう思う?」


「おぬしたちのことは……好ましく思っておる」


「そっか、ありがとう」


「もう一度聞く。なぜお主は、ここまでやってくれるのじゃ」


「キミに一目惚れしたからかな」


「一目惚れじゃと?」


「うん。キミがカイリのために必死になっているところを見て、なんとかしてあげたい、助けてあげたい、って思ったんだ」


「お人好しじゃな……」


「それに、この1ヶ月一緒に過ごしてきて、ティナが子どもたちのことを本気で愛してて、大切に思ってて、優しくしてる姿を見て、もっとキミのことが好きになった。キミは素敵な女性だ」


「わしにそこまでの価値があるとは思えぬ……子どもたちを1人で守ることもできない……

 わしは、わしには……なにもできないのじゃ…」


「そんなことない。ティナは自分を犠牲にして、子どもたちを守ろうとした。その心は高潔で、簡単に真似できることじゃない。ティナは自分ができることを精一杯やったんだ」


「……一目惚れと言ったな?わしのなにがいいのじゃ」


「キミはこんなに綺麗じゃないか」


「………人間は俗物じゃ。わしの容姿を見て、あれこれ言う。よくわからぬ……

 じゃが、お主から、綺麗と言われるのは……悪くない」


 そこまで言って、ティナは立ち上がって宿に戻っていった。


 オレはその後ろ姿を見送って、もう少し、海を眺めることにした。

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