第80話 海産物の町ウミウシ

 教会から帰った後、宿の自室で落ち着いて考えてみたが、あの教会に子どもたちを預けるのは無しだと判断した。


 現状でも運営が厳しそうな教会に、「自分たちの子どもを追加で面倒みろ」、と言うのは酷だと思ったからだ。

 運営が厳しいならお金を渡せばいいんじゃないか?

 とは、もちろん考えた。


 例えば、教会に大量の寄付金を渡したとしよう。今後10年分の資金、子どもたちが大きくなるまでの運営資金だ。

 これで一瞬は解決するかもしれない。


 でも、その運営資金を誰かに持ち逃げされたら終わりだし、その金銭が原因で強盗にでも入られたら目覚めが悪いなんてもんじゃない。


 それに、このアイデアは攻略さんのアドバイスにあった〈自立〉という言葉には当てはまらないように感じた。


 攻略さんのアドバイスはこうだ。

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子どもたちが自立して生きていける環境を整えてください。

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 改めて確認すると、やはり、教会に預けて、はいよろしく、というのは違う気がした。


 ただ、教会に子どもたちを預けないにしても、ゴリシスターさんとは何か協力できるのではないか、とは思う。

 お互いがwin-winになるようなアイデアを出せればいいのだが……


 う~む…難しい問題だ…


 そんなこんなで、オレはまた頭を悩ませながら、日々を過ごすことになる。


♢♦♢


 それから1週間ほど、みんなで子どもたちの世話をしつつ、モンスターの討伐を交代で行う、という生活を続けていると、痺れを切らしたのか、攻略さんから新しいアドバイスが表示された。


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海産物の町ウミウシに赴き、そこで子どもたちの自立について考えてください。

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 か、考えてください?またしても具体性がない抽象的なアドバイスだった。


 でも、今までのアドバイスを思い出してみると、攻略さんはどこどこに行け、とは言っても、そこで何をしろ、とまでは指定しないことも多い。


『答えは教えてくれないってことですね。わかりましたよ。アドバイス通り、ウミウシに行ってみます。それでいいんですよね?』


『……』


 心の中で攻略さんに話しかけるが、特に返答はない。


 まさか、海辺の町に行って頭をリフレッシュしたら良いアイデアくらい浮かぶだろ?なんて意味じゃないよな?


 そんなわけないか、と一人ツッコミしてから、みんなにウミウシに行かないかと提案しに向かう。


 みんなは最初、「突然なんで?」という反応だったが、「海見てみたくない?」と聞いてみたら乗り気な子が何人かいて、無事この提案は受け入れられることとなった。


 ということで、明日は海産物の町ウミウシへ出発だ。


♢♦♢


 オレたちは今、全員で海辺の町の入口に立っている。


 町の入口には木製の門、というか、ただの丸太の木枠が立っていて、その木枠の上部には、町の名前が記されていた。


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海産物の町ウミウシ

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 オレたちは、貿易の町ガルガントナから3時間ほど馬車で揺られてウミウシまで到着し、町の入口に降り立ったところだった。


 ここからは町全体を眺めることができ、町の入口から海辺の入り江に向かって下り坂になっている。

 入り江には漁船がいくつも並んでいて、ここが漁師の町だということを想像させた。


 下り坂の途中には、壁を白、屋根を青色に塗った家が立ち並び、海の青とあいまって美しい町だという印象を受けた。


 ふむふむ、良い町だね、んで、ここで何を考えろと?


 頭を悩ませていると、


「ソフィアねぇちゃん!またボクたちのこと浮かしてよ!」

 キッカが楽しそうにそんなことを言い出した。


「いいわよ!」

 とソフィアが答え、トトとキッカがフワフワと宙に浮く。


「わぁーい!」

 ソフィアが2人を浮かせたまま、下り坂をくだっていく。


「ステラねぇちゃん、今度試したい料理があるんだけど」


「いいですよ、一緒に作りましょうね」


 カイリとステラは料理について話しながら、歩き出す。


「ユーカ、本を読みながら歩くのは危ないですよ。ほら、手を繋いで」


「はぁーい」

 言いながらユーカがステラの手を取るが本を読むのはやめない。


「ママ!パパ!早く行こう!」

 ノアールがリリィとオレの手を握って引っ張ってくる。


「ゆっくり行きましょうね、ノアール」

 リリィが優しく諭すように言う。


 ノアールはリリィのことをママ、オレのことをパパ、と呼ぶようになった。


 ノアール曰く、リリィがノアールのお母さんに似ているから、らしい。美人なお母さんだったようだ。


 ちなみに、オレはお父さんに似てるわけじゃないらしいが、

「ママの旦那さんだからパパだね!」ということで、にぃにからパパに昇格した。


 個人的には、にぃにも気に入っていたが、ママ、パパと呼ばれて、リリィが照れたり、嬉しそうにしたりするのが可愛くて、すんなり受け入れてしまった。


 そんな単純人間なオレの横をティナが歩いている。


 仏頂面だった、どうしたんだろう?


「ん~?子どもたちを取られたみたいでイヤだった?」


 仏頂面の原因を想像し、質問してみる。


「……なんでそんなこと言うのじゃ」


 さらにムスっとした。図星だったらしい。


「ははは、ごめんごめん。ちょっと意地悪だったかな」


「……わしは、子どもたちが幸せならよい。じゃが…正直おもしろくないとも思ってしまうのじゃ」


「ティナねぇねも大好きだよ!」


 ノアールがティナに抱きついて手を引いて歩いていく。


「おぉ!そうかそうか!可愛いやつじゃのう!」


 ティナの表情はニッコニコになりご機嫌になった。


 意外とちょろいのかもしれないな…



 オレたちはウミウシの町を見て回りながら、そのまま港までやってきた。

 

 小さな漁港という感じだ。大小様々な船が20隻あるかないかくらいの数、係留されている。


 お昼頃なので、ちょうど漁から帰ってきたところなのか、何隻かの船からは魚や貝を運び出す漁師たちの姿を見ることができた。


「オレたちの村も、漁をしてたんだ……」

 カイリがその様子を悲しそうに見ている。


 他の子たちを見ると、みんなツラそうな顔をしていた。村でのことを思い出しているのだろう。


「もう、漁を見るのはイヤか?」


 カイリはぶんぶんと首を横に振る。


「オレ、とうちゃんみたいな漁師になりたい」

 涙を拭いて強い目で漁船の方を見る。


「そっか、カイリは立派な男だ」


 オレはカイリの肩に手を置いてそう言った。

 頭を撫でるのは違う、こいつはもう一人前の心を持っている。そう感じた。


 いつのまにか、カイリ以外も悲しい顔をやめ、グッと漁師たちを眺めるようになった。


 子どもたちは、しばらくそこから離れようとせず、なにかを決意したような顔で静かに漁師たちの様子を眺めていた。

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