第76話 最後の1人はネコミミ幼女

 南門についてから1時間が経とうとしていた。


『こっちには来てない。みんなは?』


『こっちもよ』

『こちらも見当たりません』

『…まだじゃ』


『そうか…』


 まだ、ノアールの姿は見つけれていない。ティナルビアからノアールの特徴は聞いているので、見逃すはずがないのだが…


「いや!いやぁ!」


「困っただなぁ…大人しくついてきてくれよぉ…」


「いやー!いや!いや!」


 騒ぎ声が聞こえてその声の主を探すと、路地の向こうから男に手を引かれた女の子が現れた。


 女の子の特徴は、黒い長髪に猫耳と尻尾。

 ノアールだ!


 オレはみんなに『見つけたからすぐ来てくれ』と連絡して、急いで駆け寄る。


「すみません!」


「ん?なんかオラにようか?」


「その子、昨日、奴隷商から購入しましたよね?」


「そうだぁ。それがどうかしたかぁ?」


「実はその子は私の身内なんです。買い戻させていただけないでしょうか?」


「そ、そんなこと…オラに言われてもわかんねぇ。村長に奴隷さ買ってこいって言われたんだぁ」


「購入したのは35万ルピーですよね?100万ルピーお渡ししますので、それでいかがでしょう?これだけあれば、人間以外の、例えば牛とか馬とかを買えますよ?そうすれば村長も喜ぶんじゃないですか?」


「た、たしかに、そうかもしれねぇ……でも…でもぉ…」


 男が考えている間にみんなが合流する。


「ノアール!」


「ティナねぇね!」


 ノアールがティナルビアに抱きついて、


「ねぇね!ねぇ…あぁ!うぁぁぁ!!!」


 大声で、今までの恐怖を全て出し切るような大声で泣きだした。


「よしよし!怖かったのぅ……よしよし…」


 その様子を農民の男は黙ってみていた。


「……」


「100万でよろしいですね?」


「んだ…」


 そして、奴隷契約の解除を行った。


♢♦♢


 ノアールを連れて宿に戻ったオレたちは、ティナルビアと子どもたちが触れ合う姿をしばらく眺めていた。

 みんな嬉しそうに、再会を喜んでいる。さっきまで大泣きしていたノアールも今は笑顔だ。


 みんな揃って本当に良かったと思う。


 しばらくすると、ティナルビアがこちらにやってくる。


「今回のこと、感謝する。子どもたちが助かったのは、お主らのおかげじゃ。

 じゃから……おぬしの要望通り……わしはお主の妻になろう……好きにするがよい……」


 ティナルビアは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


 ……なんか無理矢理みたいで、すごく嫌だ。


 その会話を聞いてか、子どもたちがティナルビアの前に割り込んできた。


「ねぇねにひどいことしないで!」


 さっき助けたノアールにそんなことを言われてしまう。

 き、傷つくじゃないか……やめてくれ……


「ひどいことはしないよ」

 オレはノアールの頭を優しく撫でる。


 最初、ビクッと怯えた様子を見せたが、オレに悪意がないのがわかるのか、

「ホントに?」と大人しく撫でられてくれた。


「ソフィア、ティナルビアの奴隷契約の解除を」


「いいのね?」

 逃げられてもいいのよね?という意味だ。


「あぁ、大丈夫」


 そのときはしょうがない、これ以上、彼女の自由を縛る気にはなれなかった。


 ソフィアが「いつでもいいわよ」と言うので、ティナルビアをオレの正面に立たせる。すぐに奴隷契約は解除された。


 ティナルビアの首にあった鎖のあざがすぅっと消える。


 彼女は、それを確かめるように両手で触ってから、

「なぜじゃ?なぜ、契約を解除した?」と不思議そうに尋ねてくる。


「前も言ったけど、キミには奴隷になって欲しいんじゃない。仲間になって欲しいし、妻になって欲しいんだ。無理矢理にって意味じゃない」


「……わからぬ。わしは……わしが人間を愛することはない…」


「それはウソだよね。それくらい オレにだってわかる。だって、キミはそんなにその子たちを愛してるじゃないか」


 ティナルビアが周りを見ると子どもたちがそれぞれティナルビアに触れる。両手いっぱいに愛情があふれていた。


「それは……そうじゃな…わしはこの子たちを愛しておる」


「まぁ、キミがその気になるまで気長に待つことにするよ」


「………おぬし、名前は?」


「オレは、ライ・ミカヅチ」


「ライ。こたびは、子どもたちのこと感謝する。もうしばらく、世話になってもよいか?」


「もちろんだ」


「そうか、わしのことは、ティナと呼ぶといい。長くて呼びにくいじゃろう」


「わかった。よろしくね、ティナ」

 握手を求めるが、それには答えてくれなかった。


 オレの手は虚しく空を舞う。


「ノアがあくしゅしてあげる!」


 虚しいオレの手を猫耳幼女が握ってくれた。

 おぉ、これが癒しか…


 オレはもう一度、猫耳少女の頭を撫でながら、これから、ティナの信頼を勝ち取るにはどうすればいいか、頭を悩ませた。

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