第67話 青髪女騎士の冒険者登録
貿易の町ガルガントナの冒険者ギルドはなかなかに栄えていた。大きな酒場のような出立ちで、冒険者が大勢いて賑わっている。
掲示板を見ると、多くは行商隊の護衛依頼で距離やルートの危険度に応じて依頼ランクが決められているようだった。
そして、どの依頼もかなり高額であることが見てとれる。
なんで高額なのかというと、数週間から数ヶ月かかる依頼がほとんどなのと、出発は明日、明後日、のように急を要するものばかりだから、だと理解した。
つまり、ガルガントナで商品を仕入れた商人は、すぐに冒険者ギルドに依頼を出して、即出発、なるべく早く転売先の町に到着して利益を上げたい。
だから、高い報酬で冒険者を集めて、最短で出発する。そんなところだろう。
ここまで考えて、掲示板を眺めていると、ドタドタと大勢の冒険者が入口から入ってきた。
「ギムリ!あんたがあんな依頼を受けるから嫌な思いしちまったよ!」
「でもよ姉御!報酬がいい依頼を持ってこいって言ったのは姉御だぜ!」
「だからって奴隷商の護衛だって!クソ食らえだよ!あんなやつらを護衛するなんてたまったもんじゃない!」
「姉御は相変わらずそのガタイでお優しいねぇ!」
「あんた!舐めてるとぶちのめすよ!」
大声で横切っていった女性を見ると、オレよりも身長が高いゴリマッチョのシスターだった。
伸縮性のシスター服なのだろうか?筋肉がギチギチとつまっていて今にも張り裂けそうだ。
そのゴリシスターの後ろに様々なメンツがぞろぞろと付き従っている。彼女がパーティのリーダーなのかもしれない。
「あー…ええっと、まずはステラの冒険者登録をしようか!」
ゴリシスターの方を見るのをやめて、自分のパーティに振り返る。
「はい!お願いします!」
♢
「登録料は1万2000ルピーになります」
受付に行くと、受付嬢にそう言われてしまった。エルネスタ王国ではタダだったのに、なんか損をした気分だ…
ケチ臭いことを思っているオレの隣で、ステラは登録用紙に必要事項を書込んでいる。
「ライさん」
「なぁに?」
「私の分の登録料、出してもらっちゃってごめんなさい」
「いいよいいよ。オレがサイフも持たせないで攫ってきたんだしね」
「そうですね。私は攫われちゃいましたから、うふふ♪」
ステラは攫われたときのことを思い出したのか嬉しそうに笑う。
「でも、お金を出してもらうばっかじゃダメだと思うんです」
「気にしなくていいのに、だってステラはオレの、むぐっ」
嫁だから、そう言おうとしたら、人差し指でお口に蓋をされた。
「だからですね?」
ステラが耳に近づいてくる。
「身体でお支払いします♡」
唐突なえちち発言にドキッとする。
やばいやばい。
おちつけオレ。
とくにオレのジュニア。
「ふー!」と息を吐いて冷静になろうとする。
「ステラさん」
「はい♪」
「そういうのは外ではやめなさい」
「はーい♪人の目につかないところでにしまーす」
そ、そういうことなのか?
いや…まぁ……それならイイか!
オレがハッピーな気持ちになってる間にステラの冒険者登録は完了した。ステラも冒険者ランク初級Cからスタートだ。
これでオレたちパーティのランクはこのようになった。
-------------------
ソフィア
上級A
オレ
上級C
リリィ
上級C
ステラ
初級C
-------------------
「こうやって比べると、すごい差がありますね」
「まぁでも、ステラが強いのは分かってるから、上級の依頼をこなそうと思ってる」
「ライ様と私も上級の依頼を受け始めたら、すぐにランクアップしたので、すぐにステラも追いつきますよ」
「そうなんだ!わかりました!がんばりますね!」
「じゃあ、ステラの登録も終わったし、次は武器屋だね」
オレは、ステラが持っていた剣を副隊長のバカに投げ捨ててしまった。だから、今のステラは丸腰、なんの武器もないのだ。なので、剣を買いに行くつもりだった。
「武器屋の後は防具屋に行ってもイイかもしれないわ。ライ、あんたの防具、もうちょっと良くしてもイイんじゃない?」
「そうかな?まぁ、ソフィアがそういうなら、見るだけは見てみようかな」
♢♦♢
-ガルガントナの武器屋-
「どれか気に入ったのあった?」
「う〜ん、どうなんでしょう?私、剣を選んだことなんてないんですよね」
「そうなんだ?あれだけ強いのに意外」
「騎士団では、勝手に支給されますし、団長になってからは、あの宝剣がありましたから」
「ほー、なるほど。そういえばあの宝剣?って特別なものなんだよね?」
「はい。エルネスタ王国に代々受け継がれる宝剣の一振りで、各支部の騎士団長しか所持できないらしいですよ?あの宝剣を持つと、適当に魔力をこめるだけで氷魔法が発射できて便利でしたね」
「そ、そうなんだ……今更だけど、雑に捨ててきてごめん…」
ペコリと頭を下げる。
「え?いえいえ!そんな!謝らないでください!私あの剣にそこまで愛着なかったですし!
なにより!ライさんが剣なんか興味なくて、私のことだけ見てくれたのがすっごく嬉しかったんです!
だから!謝らないで!」
「そ、そう?」
「はい!」
「な、ならいいけど」
「なので、えーっと、こんどは愛着を持ちたいので!ライさんが選んでくれると嬉しいです!」
「オレが?いや、そんな、アクセサリーじゃないんだし…」
「え〜?ダメなんですかぁ〜?しゅーん…」
わかりやすく凹むステラ。
「わかった!ステラに合うものを選ぶよ!」
嫁にそんな顔をさせてはいけない。そう思い、ステラの剣を選ぶことを承諾する。
「そうだなぁー、ステラは片手で扱える大きさの剣がいいよね?」
リングベルで使っていた宝剣を思い出して質問する。あの宝剣は片手剣だった。
「そうですけど、両手剣でも片手で使えますよ?」
……そういえば、この人、怪力だったわ。
バカでかい剣を片手でぶんぶん振り回しているステラを想像してちょっと怖くなり、頭を振って切り替える。
「…いや、まぁ、使い慣れてる感じのサイズ感がいいよ、たぶん。てことで、この辺りから選ぶとして」
オレは片手剣がズラリと並ぶエリアに移動してきて、
「ステラに似合いそうなのは、鞘が白くて水色の髪に合わせた色が入ってるとイイなぁ。てことで、これとか?」
オレは、キレイな白い鞘に収まった細身の片手剣を手に取る。柄には水色の刺繍が施された革が巻いてあった
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値札:20万ルピー
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ぐっ、少し高いな、オレの2本目の剣より倍以上する。
「じゃあ、それにしますっ♪」
「え?いいの?そんな簡単に?」
「はい!ライさんに選んでもらったのがいいので♪」
「そ、そっか。一応握ってみて、しっくりくるか確認してほしいから」
「はい♪」
ステラはいいながら腰に構え、剣を抜く。
少し振り回すと実に様になっていた、凛としていて美しい立ち振る舞いだ。
「はい!いい感じです!」
「うん、わかった。これにしよう」
オレはステラに値札を見られないように会計を済ませて、本人にプレゼントする。
「うふふ♪ライさんに選んでもらっちゃいました♪」
「よ、喜んでくれてなによりです」
「……」
「……」
ずっと静かにしてたから気にはなっていたけど、なんだか、リリィとソフィアにジト目で見られている。
ど、どうすればいい?
「……ふ、2人には今度、服をプレゼントしようかな??」
「はい!嬉しいです!」
「ふんっ!それで許してあげるわ!」
おお、正解だったらしい。
「えー!私も服の方がいいですー!」
「あんたは剣買ってもらったでしょ!」
「そーですけどー」
女子たちが騒ぎ出したので、なだめて防具屋に向かうことにした。
♢♦♢
-とある防具屋-
「お気に召したものはありましたか?」
「う〜ん?いや〜?」
「なんでもいいから、もっと強そうなのにしなさいよ」
「いやでも、ピンとこないんだよね〜」
「ライさんには!この金ピカのやつがいいと思います!」
「……」
ステラが指さす方を見ると、ピカピカの金メッキのド派手な鎧が目に飛び込んできた。こんなの着たら、宝物庫から無数の剣の雨を降らせる王様になってしまう。
「ステラ…あんたセンスやばいわよ…」
「えー!そんなことないですー!ライさんにも聞いてみます!ライさん!あれ?」
オレにも質問される前にそっとその場を離れた。
そうか…ステラにはこんな弱点というか、意外なチャームポイントがあったのか。
しっかりお姉さん風なのにセンスは壊滅してる。
…うん、かわいいね!ギャップ萌え!!
恋は盲目である。
「みんなー、次行くよー」
その後も何件か防具屋をまわってみたが、結局気に入った防具は見つからなかったので、今日は宿に戻ることにした。
宿に戻ったら、小さな受付嬢に会ったので、オススメのレストランを聞いてみた。今夜はそのレストランに行ってみるとしよう。
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