第63話 小悪魔な魔女っ娘とラブラブデート
「じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい」
リリィとステラに手を振って、ソフィアと二人っきりで歩き出した。
今日はソフィア嬢のご褒美という名目のデートである。
ご褒美にデートを要求するなんて……
内心、あまりにも可愛すぎてクラクラしたものだが、お嬢様がそれを御所望というのなら全力でエスコートしなくてはならない。
今日のオレは紳士、紳士だ、しっかりとお嬢様を楽しませるのだ。
自分に言い聞かせてから、ソフィアに話しかける。
「少し向こうに湖が見えるね。あっちまで行ってみようか」
「そうね。そうしましょう」
指をさして提案してみると同意を得られたので、また歩き出す。
そこでソフィアが落ち着かなそうにしているのに気づき、キュッと手を繋いでみる。
「あっ…えへへ///」
もじもじしていたソフィアがこちらを見て笑い返してくれた。かわいい…
これで正解だったんだと安心する。
手を繋いで上機嫌になったのか、ソフィアが繋いでる手をブンブンと振り回しながら、鼻歌を歌って歩いていく。
嬉しそうなソフィアを横目に歩調を合わせていると、湖のほとりに到着した。
「綺麗なところね!」
「そうだね!」
そこは、なかなか大きな湖で、美しい水面にきらきらと太陽が反射していた。
オレたちは草原から歩いてきたのだが、湖の左手は林になっていて、ところどころ木々が生えていた。
のどかな風景である。
隣のソフィアは、おもむろに靴と靴下を脱ぐと湖に駆けていった。
「つめたっ!ライも来なさいよ!気持ちいいわよ!」
オレもすぐに靴を脱いでズボンを巻き上げて後を追う。
「えいっ!」
ソフィアがバチャッと水をかけてくる。
「おっ!仕返しだ!」
オレは控えめに水をかけ返した。ソフィアの素足に少しかかるくらいの威力を心がける。
「やったわね!えーい!」
ソフィアは力一杯やり返してくる。
バチャバチャ!、に対して
パシャパシャ、と応戦した。
しばらく遊んで湖を上がると、オレはびしょ濡れであった。
「あはは!びしょ濡れじゃない!」
キミがやったんだよ?
「手加減してよ〜」
「いやよ!ライは手加減してたけど関係ないわ!」
わかっていたらしい。まぁそりゃそうか。
アイテムボックスからタオルを出す。
「こっちおいで」
「なによ?」
おずおずと近づいてきたソフィアの足を持ってふきふきする。
「くすぐったいわ…」
「ごめんごめん」
「…えへへ」
イヤなのかな?と思ってチラリと顔色を窺ったが、笑顔だから大丈夫そうだ。拭き終わったら、靴下と靴を履かせてあげる。
「お姫様みたいね!」
オレがひざまずいているからそう思ったのだろう。ソフィアは上機嫌、ニッコニコだ。
オレは適当に自分の身体を拭いてから靴を履く。
「あっちの方にも行ってみましょ!」
「うん!」
ソフィアに促されて、湖のほとりを歩き、木々が生い茂ってる林の方にやってきた。林の方からは水が流れてきていて、湖に合流している。
「ライ!魚がいるわよ!」
「ホントだね。これだけいたら釣りができそうだ」
小さめの魚だが、たくさん泳いでるのが見てとれた。
「釣りってなによ?」
「え?釣り知らないの?」
「知らないわ」
こっちの世界には釣りってないんだろうか?
「えーっと、こう長い棒に糸をつけて、その糸に針をつけてから餌をつけて水にたらすと魚がその餌を食べにきて、釣れたりするんだよ?」
「ふーん?」
いまいち伝わってなさそうだ。
「ちょっとまってて」
オレは近くの木から枝を拝借して、アイテムボックスから裁縫セットを取り出す。
ちなみに裁縫はできない。リリィあたりがやってくれるかもと思って、なんとなく旅の準備のときに買ったものだ。
糸の片側を木の先端に巻いて、反対にはグニッと曲げた針をつける。
ソフィアは、オレの釣り竿作りを興味深そうに見ていた。
釣り竿の準備はできたのであとは餌だ。オレは再び靴を脱いで水の中に入ると、水底を漁って小さめの貝をいくつか見つけて採ってきた。
「それで、この貝を針にセットします」
「うん、それで?」
「それで、こう」
竿を振って、ポチャンと魚がたくさんいるあたりに貝付きの針を投げ込む。
「それで?」
「待ちます」
ぼーっと魚がかかるのを待つ。
「なにも起きないわよ」
「うーん、ダメかなぁ?」
ちょんちょんと動かして誘ってみる。すると枝がクンッと曲がった。
「おぉ!きた!」
バチャバチャバチャ
「え!なになに!」
そのまま竿を引き上げて、魚をゲットした。20センチもない小さな魚だが、簡単に釣れてくれた。
こんな仕掛けでも意外とうまくいくものである。
「なにそれ!なにそれ!わたしもやりたいわ!」
「ちょっと待ってね」
オレは魚を逃してあげてから、針に新しい貝をセットした。
「はい、持ってみて」
「うん!」
「あのあたりに餌を投げてみて」
湖と川の合流ポイントをさす。
「わかったわ!むっ!難しいわね」
ソフィアの一投目は、オレが指定したポイントには届かず、すぐ近くにポチャンと落ちてしまった。
「何回かやればすぐ慣れるよ」
「あっ!こんどはいい感じね!」
2投目は狙い通りの位置に投げ入れることができた、いいセンスだ。
「じゃあ、しばらくまってて。で、たまにちょんちょんって少しだけ枝を動かして」
「うん…ちょん、ちょん…ちょん、ちょん…」
腰を下げながら、口を尖らせてちょんちょん言う魔女っ娘を横目で眺める。
え?なにこの生き物?かわいすぎない?計算なの?
オレがソフィアに見とれていると、クンッとソフィアが持つ枝が曲がった。
「わっ!わっ!ライ!コレどうするの!」
「ゆっくり!ゆっくり身体ごと下がって」
肩を抱いて下がらせる。そして、無事、魚を陸に上げることができた。
「やった!やったわ!」
「やったね!」
ソフィアとハイタッチする。
一緒にピチピチとはねている魚に近づいて、すぐに針を外しにかかる。ソフィアは魚に触れるのが怖いみたいで、ちょっと離れて眺めていた。
「逃してあげるね?」
「うん」
許可をもらってから、またリリースする。
「釣りって面白いわね!」
「そうだね、気に入ってくれてよかった」
「もっと大きいのが釣れたら食べたいわ!」
「ははは、海だともっと大きいのが釣れるかもね」
「じゃあ!海に行ったときはまたやりましょ!」
「いいね!そのときが楽しみだ!」
そんな約束をしてから、オレたちはしばらく釣りを楽しんだ。このあたりの魚は警戒心が弱いらしく、結構簡単に釣れる。
それぞれ5匹くらい釣って満足した。どれも小ぶりだったので、ちゃんと感謝を述べてリリースした。遊んでくれてありがとう。
釣りは十分楽しんだので、また湖の周りを歩き出す。
最初はオレからソフィアの手を握ったのだが、今はソフィアの方からオレの腕にギュッと抱き着いてくれている。
ニコニコしながら、たまに腕にスリスリまでしてくれて、すごく愛おしかった。
「楽しいね」
「うん!」
天使の笑顔だ。
これはなでなでしておくしかない。うむ、なでなでしよう。
ソフィアのふわふわな白い髪は今日もとっても良い匂いがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます