第61話 青髪騎士団長お姉さんと主従契約

「雷龍様、オレたちはエルネスタから出ようと思います。つきましては、シエロス山脈を越えてもよろしいでしょうか?」


「うむ。我が眷属、ライよ、通行を許可する」


「ありがとうございます」


「それと、ソフィアよ」


「なによ?」


 ソフィアはイヤそうにしている。オレを助けるために雷龍様と戦ってくれたと聞いている、だからだろうか。


「おまえの神級魔法は実に見事であった。おまえの杖に埋め込んだ我の加護は、魔力消費を抑えることができる。また、おまえの魔力がきれても、しばらくは結界を張ることができる。ありがたく享受するがよい」


「ふんっ!」

 ソフィアは特にお礼を言わない。


「私の妻に寛大なご対応ありがとうございます」


「つま……えへへ…」

 隣を見るとソフィアと目があった。ニコッとしてくれる。かわいい。


「ステラ」


「なに?」


「腕を出せ」


「なにする気?」

 言いながら右手を前に出す。


 すると光が集まり、ステラの右手首に金色の腕輪がはめ込まれた。

 細身のその腕輪は、とても上品で、繊細な模様のように繰り抜かれていた。腕輪の中心には小さな黄色い宝石が1つ埋め込まれている。


「おまえは頭の角のことを気にするようになったな?」


「うん…」


「この腕輪を付けているとき、おまえが心を許していない者には、おまえの角が認識できないようになる」


「え?」


「オレには特に変わったようには見えないですね」


 いつも通り、ステラの綺麗な角は認識できる。リリィとソフィアにも伺うが同じ反応だ。


「おまえらには心を許しておるようだな」

 雷龍様は優しい顔をした。


「それで、少しは生きやすくなるだろう」


「…おねぇちゃん!ありがとう!!」

 ステラは涙を浮かべて、拭う動作を見せた。


 今まで角を見られて、その第一印象で誤解をうけてきた。しかし、これからはそんなことは起きない。

 それがわかったから、とても嬉しいんだと思う。ステラが嬉しそうでオレも幸せだ。


「それでは、今日はここで休み、明日の朝、発つがよい」


「ありがとうございます!」


 雷龍様の締めくくりの言葉を聞いた後、オレたちはいつも通り、野営の準備を始めた。


 雷龍様はその作業中、人間の姿のままウロウロして、「これはなんだ?ふむふむ、これは?」とオレたちの道具に興味津々であった。


 お?これはオレの発明を自慢するときがきたか?さぞ、雷龍様も褒めてくれるだろう。


 そう思いながら自信満々にシャワーを見せたときは、

「なんだこれはよくわからん」と不評で、しょんぼりしたものだが、テントと寝袋を見せたときは、

「おぉ!小さな寝床になるのだな!これはフカフカで気持ち良いではないか!」と好評であった。


「もしよければ、こちらの方を差し上げましょうか?」

 2つある片方のテントを指さして提案してみる。


「よいのか!ライ!おまえ眷属として良い心がけだな!」


 ご満悦だったので、「ははぁ」と頭を下げておいた。


「ときにライよ。なぜステラには妻の証を渡さぬ?」


 妻の証?

 ああ、リリィとソフィアが付けている指輪のことだろうか。


「えと、今、銀の指輪を持っていなくてですね。次の町で調達しようと思っております」


「ならば!我が作ってやろう!」


 言いながら雷龍様は手のひらを広げると光が集まって、2つの銀の指輪が現れた。


「どうだ!これでよいだろう!」


「ありがたく頂戴します」


「ステラ!こちらにこい!」


「なぁに?」


「ライから話だ!」



「ステラ」


「はい」


 真剣なオレの顔にステラはまじめに答えてくれる。


「オレはステラのことが大好きだ。だからずっと一緒にいてくれ」


「はい、私も大好きです。もちろんずっと一緒にいさせてください」


「それで、この指輪なんだけど、主従契約を結んで欲しいんだ」


「はい、そのことはリリィから聞いています。もちろん結ばせていただきます」


「ありがとう」


「じゃあ…

 汝、ステラ・ファビノは、我、ライ・ミカヅチを主人と認めるか?」


「はい、認めます」


 ステラの薬指に指輪をはめる。


 指輪が小さく光り、その銀の指輪にライ・ミカヅチと刻まれた。


 オレは自分の薬指に3本目の指輪をはめる。そして、指輪が光り、ステラ・ファビノの名前が刻まれる。


 お互いにその名前を確認し合って、オレたちは静かにキスをした。



「ガハハ!これで我のステラもライのツガイなのだ!」

 雷龍様も満足そうだ。


 もちろんオレも大満足だ。


 その日、オレたち4人は5人用のテントで、雷龍様は3人用のテントで眠りについた。



「それじゃ、おねぇちゃん、ありがと」


「うむ、またメシを作りにこい。いや、そうだな、食いたくなったら我の方から出向いてやろう」


「うふふ、竜の姿でくるなら人がいないところで来てよね?」


「ふむ?善処する」


 ホントかよ、ピンときていない雷龍様の顔を見て心の中でツッコミを入れる。しかし口には出すまい、だってまた怒り出したら怖いし…


「雷龍様、この度はお世話になりました。この御恩は忘れません」


「うむ、達者でやるがよい、我が眷属、ライよ。

 ソフィア、おまえはまだ伸びる、精進せよ」


「ふんっ!言われなくてもやるわよ!」


「それでよい」


 オレたちは、雷龍様に見送られながら、横穴を進み、地上に出た。


 リングベルとは逆側、ここはもうエルネスタ王国ではなかった。

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