第57話 プロポーズは騎士団の壊滅で

「なんだ?冒険者ではないか。貴様にはもう依頼を出していないはずだが?」


 エルネスタ王国騎士団 西方支部の駐屯地に一人で歩いてきたら、入り口で門番に止められた。


「ステラに会いに来た」


「団長に?団長は貴様には会わないと公言していただろう。帰れ帰れ」


「どうしてもダメですか?」


「くどいやつだな、ここは通せない」


「なら、押し通ります」


 オレは剣を抜いた。新しい相棒を。身体中に力が満ちていく。


「な!?貴様正気か!?ここはエルネスタ王国騎士団の駐屯地だぞ!」


 オレが剣を抜くのを見て、門番2人も剣を抜いた。


「それがなにか?」



-ステラ視点-


 私は、団長室で書類を片付けながら、数日前のことを思い出していた。


 差し伸べられた手、本当は握りしめたかった彼の手のことを。でも、素直に握ることはできなかった。私には責任があるからだ。


「はぁ……」


 ため息もついてしまう。それくらいは許してほしい。

 一人で言い訳をしていると、駐屯所の入口の方がなにやら騒がしいことに気づく。


「?なにかしら?今は訓練の時間ではないはずだけど…」


 バタバタバタッ


 ゴンゴンゴン!

 扉が強く叩かれる。


「団長!!」


「はい?なんでしょうか」


ガチャ


「彼が!ライ殿が来ております!それで!」


「っ!?あの人はもう!!」


 私はライさんの名前を聞いて、すぐに駆けだした。


 ほっといて欲しかった。でも、また来てしまった。


 そして騒ぎが起きてる。暴れているのか。彼の身が危ない。助けないと。


 数日前、彼のことをボコボコにしたくせに、そんな矛盾した気持ちを持っていることに、今は気づけなかった。



-主人公視点-


「なにごとですか!?」


 騒ぎを聞きつけたのか、準備運動が終わったあたりで、やっとステラが訓練場に現れた。


「やぁ、数日ぶりだね」


「ライさん!?なぜここに!」


「キミを攫いに来た」


「っ!バカなことを言うのはやめなさい!私に負けたあなたに何が出来ると言うのですか!」


「痛いところをつくね。でも、今はなんだって出来る自信がある」


 彼の余裕そうな顔に奇妙なものを感じ、あたりを見回す。


 周囲には何人もの、何十人もの騎士団員が倒れていた。


「なっ!?」


 中には騎士団でも特に腕利きの者もいた。数日前の彼では敵わないはずの相手だ。


「もう一度戦って、キミに勝てばついてきてくれるかな?」


「まだ、そんなことを言ってるんですか!仮に私に勝ったとしても、私には団長としての責務があります!」


「キミに害をなす騎士団に、キミが責任を負う必要はないと思うよ?」


「それでも……あるんです……責任が…」


「お父さんの、お店のことかな?」


「っ!それも……あります…」


「なんだか煮え切らないね」



「はあ!やれやれ!また来たんですか!平民!」


 せっかくステラと会話しているのに、オズワルドのやつがやってきた。10名ほどの取り巻きを連れている。


「この惨状はもはや!国家反逆罪は明白!処刑するしかないでしょうな!」


 やつが合図すると取り巻きがオレを取り囲む。


「オズワルド!やめなさい!」

 ステラがあせって止めようとする。


「大丈夫だから」


 だけど焦る必要はない。安心させるように笑顔で制してから、剣を構えて、一閃。

 峰打ちで1人を気絶させた。


「え?」

 ステラが心底驚いた顔をしているのがわかった。数日前とは比べ物にならない速度でオレが動いたからだろう。


「お!おまえたち!平民ごときに全滅したら厳罰だぞ!」


 オズワルドのやつがなにか言っている。オレは無視しながら2人目、3人目と気絶させていく。


 そうすると、

「フレイムストーム!」

 上級魔法が飛んできた。


 すかさずライトニングで相殺する。


 何人か上級魔法が使えるやつがいるらしく、そこかしこから魔法が飛んでくるがライトニングで相殺していく。特に脅威には感じない。


「やつの魔力が尽きるまで打ち続けろ!」


 剣では敵わないと悟ったのか、そいつらは魔法での攻撃に集中するようだ。何度か打ち合っていると、オレのMPが少なくなってきた。


「ふぅ、そろそろか……」


 あれの襲来を覚悟していると、ズガーンッ!とオレに雷が落ちた。


「ライさん!!」


「ぐぎぎぎ……雷龍様、もうちょっとやり方なかったんですかね…」


「え……」


 平気そうにしているオレをみてステラが驚いている。それよりも雷が落ちたときに心配してくれたのが嬉しい。そう思った。


「ライさん……その頭……」


「あ、これ?ステラとお揃いだね」


 オレは笑顔でステラに答える。


 どうやら、オレの頭には雷龍様の角の形が青白く光って形作られているらしい。鏡で見たわけではないが、さっきリリィたちに教えてもらった。


 雷が落ちてきて、オレの魔力が切れるまでは、その角が光り続けるらしい。そして、魔力が切れそうになると、勝手に雷が直撃し魔力が補充される。実に荒っぽい力の貸し方である。


「こ!この!化け物がー!」


 オズワルドが斬りかかってきたので、力を込めて剣を振るう。一応峰打ちにしてやった。


 ゴキン

 やつの剣を弾き飛ばし、オレの剣がやつの腕に食い込む、肩の下あたりで変な方向にへし曲がった。


「ぐぁぁぁ!」


 うるさかったので、顔面も殴っておく。歯が何本もバキバキに折れて地面に這いつくばった。顔をおさえて足をばたつかせている。

 きもちわりーな、ゴキブリが。


「オズワルド様を守れ!」


 主人のピンチに残りの取り巻きたちも向かってくるが、オレはなんなくそいつらも気絶させた。


 バカどもの相手をしてる間、何度か魔力切れになりかけて雷に打たれたが平気だ。いや、まぁ、雷に打たれるのは、結構…かなり、痛いけど。

 だけど平気だ。オレにはやることがある。


「さぁ、オレと行こう」


 ステラに笑顔で手を差し伸べる。数日前は届かなった手だ。


「行けません」

 首を振るステラ。


「なんで?」


「責務が……」


「それはもういい。本音を教えてくれ」


「……」

 彼女は無言で剣を抜いた。


「私に勝てたら……話します」


「臨むところだ、頑固者」

 オレも構える。


 オレたちは同時に飛び出して剣を打ち合った。


「くっ!」

 剣と剣がぶつかると、彼女の顔が歪む。以前のように、力業で吹き飛ばすことができないからだろう。


 むしろ、今日はオレの方が優勢のようだ。


「やぁぁ!!」

 何度も何度も打ち合う。


「なんで!私に!構うんですか!」


「キミが好きだからだ!」


「っ!?そんなの!わかりません!」


 彼女が力を込めると剣から冷気が伝わってくる。


 しかし、オレの剣は凍らない。


「なんで!?その剣は!?」


「オレの剣も特別なんだ」


「くっ!」


 また剣での打ち合いが始まった。


「私は!エルネスタ王国!騎士団の!団長なんです!」


「知ってるよ。でも、キミはここにいちゃいけない。キミだけの力じゃどうにもならないんだ」


「お父さんに!お店を守るって!約束したんです!」


「うん、それも知ってる。キミはその約束を立派に守りきったよね?」


「ちがう!そうじゃない!

 …わ、わたしは!お父さんの死に際にも間に合わなかった!

 だから!だからお父さんが死ぬとき!どう思ってたのか!わからないんです!」


 剣での鍔迫り合いの音が鳴り止まない。


「うそだよね。ふくろうのご主人とおかみさんから、お父さんの遺言は聞いてるはずだ」


「っ!?」


「〈ステラ、おまえは好きに生きろ〉そうだよね?」


「それでも!」


「もうわかったから!素直になれ!」


 ガインッ


 鈍い音が鳴り、オレが放った一撃がステラの剣を弾き飛ばす。


 彼女の剣は近くの地面に突き刺さった。


 その剣を拾おうとステラが移動し柄を握る。オレはその手を上から握って剣を抜かせないように抑えた。


「なにを気にしてるんだ!!」


「ライさんも!私の力が目当てなんでしょう!この角に宿った!禍々しい力が!

 だから!私のことをパーティに誘った!」


「バカやろう!いつそんなこと言った!」


「じゃあなんでよ!なんで私に構うの!ほっといてよ!」


「キミの!キミのご飯が美味しかったからだ!

 だから一緒にいて欲しい!

 好きなんだ!

 つべこべ言わず!オレと来い!!」


「っ!?

 ……なによ、それ」


 彼女の柄を握る手から力が抜けていき、ペタンと座り込んだ。


 そんなステラの手を取り、「さぁ行こう」と声をかける。


 顔をあげて目が合うが、まだ頷かない。



「何をしている!化け物!早く反逆者を始末しろ!」

 オズワルドのやつだ。


「だまれ、それ以上しゃべるな」


「なにが、一緒にこいだ!ホントはその化け物が目当てじゃないだろう!

 そうか!我が国の宝剣が目当てか!この盗人が!」


「これのことか?」


 地面に刺さっていたステラの剣を手に取る。そのままオズワルドの方に向かって投げつけてやった。


「やるよ」


 剣は真っ直ぐにオズワルドの顔に向かい、やつの右耳を切り飛ばした。


「あ、あぁぁぁぁぁ!!」



「さぁ、行こう」


 ステラはぶんぶんと頭を左右に振っている。なにが気に入らないのだろうか。



「ま、まて!反逆者!この剣があれば!私直々に!」


 血まみれのオズワルドがステラの剣を握る。すると、剣から冷気があふれ出て、

やつの腕に伝わったかと思うと、バキンと肩から下が崩れおちた。


「ひあ?」


 オズワルドは無くなった自分の腕をみて、しばらく固まったあと泡を吹いて気絶した。割とどうでもいい光景である

 マジできもちわりーな。



「ステラ、ほら行くよ」


 ぶんぶん


「何が気に入らないの?教えて?」


「……私のことが好きなんて……信じれない」


「はぁ…

 オレ!ライ・ミカヅチは!!

 エルネスタ王国騎士団西方支部団長!ステラ・ファビアーノ・エルネスタを攫うためにこの駐屯地を襲撃した!!

 なぜなら!オレはこの女を愛しているからだ!!」


 リングベル全体に響けと言わんばかりに大声で叫ぶ。


 気絶させた騎士も何人かは目覚めていた。

 ステラ傘下の騎士は、そもそも戦おうとせず見守っている。


 証人の数は十分だ。


 ステラはなにごとかとオレの方を見ていた。


 オレはそのステラの腕をグッと引き寄せて、無理矢理キスをした。


「むぐっ!?」


 ステラは驚いた顔をして、離れようとする。だけど離さない。


 オレは唇を離して、


「ステラ、愛してる。これからもオレにメシを作ってくれ」


 目を真っ直ぐに見て伝えると、ステラはゆでだこのように真っ赤になった。


 もう一度キスをする。


「ふむっ、ん〜〜……」


 今度はそこまで抵抗はなかった。


「オレと、来てくれるね?」


「…………」

 コクリッ


 長い沈黙のあと、やっとステラが頷いてくれた。


 オレはそのままステラをお姫様抱っこして、駐屯地を後にする。


 騎士たちは呆然とオレたちのことを見ていて、出ていくのを止めようとするものは誰もいなかった。



 ステラを抱いて歩くオレのことを、リングベルの住人がなんだなんだと確認すべく、通りまで出てきて、遠巻きに眺めてきた。

 あれだけ派手に暴れて、あれだけ大声で叫んだんだ、当然かもしれない。


 少し歩くと、ふくろうの大将とおかみさんが現れた。すぐにオレたちに駆け寄ってくる。


「ステラ!あんたは頑張った!頑張ったんだよ!幸せになりな!」

 とおかみさんは言って、オレに抱かれたステラの頭を撫でた。


「うん。おばちゃん、おじちゃん、ありがとう」

 ステラは少女のように泣いている。


「にーちゃん!オレたちの娘を頼む!」

 大将に背中をバーンと叩かれた。


「任せてください。絶対幸せにします」


 オレたちは2人にお辞儀をしてから、西門へ向かう。


 腕の中には愛しのお姫様が抱えられていた。


 やっと、やっとステラを連れ出すことに成功したんだ。そう確信を持って、力強く歩き続ける。


 門を出るころには、暗雲は晴れはじめ、雲から漏れる光のすじがオレたちの道先を照らしていた。

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