第47話 エルネスタ王国騎士団

 それからオレは、朝はジョギングをしてスナフさんに美味しい食事をご馳走になり、昼から中級Cのリーフシープを狩って、夜は食堂ふくろうで食事をとる。という生活を繰り返した。


 1週間ほど、攻略さんからはなにもアドバイスがなかったので、毎朝のジョギングとファビノ食堂通い、もといスナフさんの元へ通いを継続してきたのだ。


 しかし、今朝やっと新しいアドバイスが表示された。


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今日のリーフシープ討伐は19匹目を狩り終えてから、

リングベルに戻ってください。

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 とのことだ。


 いつもは10匹で切り上げているので、ほぼ倍の数だ。リーフシープは個体数が少ないのかそんなに遭遇しないモンスターなので、少しめんどくさいが、しょーがない。


 これもスナフさん攻略のためなのだろう。

 1週間経った今のスナフさんの好感度は、


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スナフ・ファビノ

 好感度

  52/100

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 になっていた。実に順調である。


♢♦♢


 リングベルからモンスターの生息域まで歩いてきて、リーフシープの1匹目の毛皮を刈ったところで、2人に提案する。


「今日は実験でいつもの倍くらい狩ってみようか。1日の収入をどれだけ増やせるか試したいんだ」


「わかったわ」

「わかりました」


 特に反対意見も出ず、承諾される。



 攻略さんのアドバイス通り、リーフシープを19匹狩ってから、今日の討伐依頼は切り上げた。町への帰路をのんびりと歩く。


 空はすっかり赤く染まり、もうすぐ暗くなりそうだ。


「やっぱり、リーフシープは効率悪いわね〜」


「そうだよね~」


 このエリアでリーフシープを19匹探すのは、なかなかに骨が折れた。あまり大きな群れがいないようで、10匹狩ったあたりから姿を見つけるのに苦労したのだ。


「明日からはまた10匹に戻してもいいかもですね」

 とリリィ。


「そうだね。んー、なんか稼げる方法ないもんかなー」


 2人と話しながら、東門まで帰ってくると、

 パカラッパカラッ!と平原の方から馬が走ってくる音が聞こえた。


「はぁ、はぁ…あんたら冒険者か!?」


「え?はい、そうですが」


 とてもあわてた様子で馬上の男が話しかけてくる。見た目は農民って感じだ。


「今、この先で行商隊がモンスターに襲われてる!力を貸してくれないか!報酬は払う!」

 男は自分が来た道を指差して、あわてて話す。


「わかりました!すぐに向かいます!」


「ありがとう!俺はこのまま騎士団を呼んでくる!頼んだ!」

 馬上の男はそれだけ言い、町の中を駆けていく。


 オレたちはその男とは逆方向にすぐに駆け出した。


「2人とも勝手にごめん!」


「いいわよ!ほっとけないもの!」

「もちろん大丈夫です!」


 2人ともオレに合わせて走ってくれるが速度は抑え気味にした。今日は2人がついてこれる速度で走ろう。


 少し走ると、5台くらいの馬車の一団が、大きな羽を持つモンスターに追われているのを見つけることができた。


「戦闘準備!」


 その場でみんなして構えをとる。そして、馬車が過ぎ去るのを見送ってから、


「ソフィア!岩!」


「ストーンスピア!!」


 モンスターの進行路を塞ぐようにソフィアの魔法が炸裂した。地面から何本もの岩の槍が飛び出して、やつの足を止める。


 オレたちは行商隊を襲っていた巨大なモンスターと対峙した。


「なっ!グリフォンじゃない!特級クラスのモンスターよ!気をつけて!」


 巨大な獣の体に大きな鳥の羽、そして顔には鷲のような顔がついている。イメージどおりのグリフォンだ。


 はじめての特級クラスの相手に緊張が走る。


「オレたちならやれる!いくぞ!」


「はい!」

「うん!」


 2人に合図して戦い始めた。


 まずはオレが剣で斬りかかる。やつは前足でその攻撃を受けてからすぐに上空に飛び上がってしまう。


「くそっ!空中にいたら剣が届かない!ソフィア落とせるか!」


「やってみる!」


 ソフィアが上級魔法をぶっ放しながら、すぐにリリィがMP回復魔法をかけて、次弾を打ち込む。

 しかし、グリフォンにはかすりもせず、やつは上空を旋回している。


 その攻防をしばらく続けていると、ソフィアとリリィの息があがりはじめ、魔法の連射がとまってしまう。

 その様子を見てか、グリフォンが地上に降りてきた。


「こいつ!知能も高いのか!」


 オレは2人を守るように剣を構える。


 グリフォンと睨み合っていると、大量の蹄の音が聞こえてきた。


「エルネスタ王国騎士団だ!あとは任せろ!」


 男の声が聞こえたと思ったら、馬上から人影が飛び出し、オレの前に立つ。


 水色の長い髪をなびかせ、白い鎧を身に纏う、その少女は、エルネスタ王国騎士団 西方支部 騎士団長 スナフさんであった。


 今日は三角巾を付けていないので綺麗な角が左側頭部に確認できる。


「やつの相手は団長に任せればいい!おまえたちはモンスターが町に行かないように警戒!」


 20名あまりの騎士たちは、オレたちの後ろに横並びに整列して構える。スナフさんの援護はしないようだ。


 スナフさんが剣を抜くと、キーン、という高音が聞こえてきた。


 白く美しい刃を持つ、その剣は持ち手や鍔の装飾も美しかった。宝石らしきものも埋め込まれている。


 スナフさんを観察していると、グッと前に構えたと思ったら、すごい速度で駆け出した。駆け出す、というよりも弾丸のように一瞬で移動した。


 あっという間にグリフォンとの間をつめ、斬りかかる。


 相手はなんとか前足で防ぐことに成功する。しかし、その前足に触れた剣から冷気が漏れ出し、やつの前足を凍らせた。すぐにバキンと前足がバラバラになる。


「グァァァ」と咆哮を上げながら、グリフォンは翼を羽ばたかせて上空に逃げようとする。

 それをスナフさんは顔を上げて確認してから、人間離れした跳躍力で空に飛び込んだ。


 ビル数階分の高さまで飛び上がったスナフさんは空中でグリフォンに追いつくと、一閃。やつの首を切りつけると、そこから氷が発生し、グリフォンの全身を包みこんだ。


 彼女が地上に降り立つと、少ししてグリフォンが落ちてきて、その衝撃でバラバラに砕け散る。


「おぉ!」

「さすが団長だ!」

「見事だ!」

 後ろの騎士団の連中は、スナフさんを見て興奮しながら、はやしたてている。


 そんな中に、


「チッ、化け物が…」

 という邪悪な声が聞こえたのをオレは聞き逃さなかった。


 スナフさんも聞こえたのか少しピクっと反応したように見えたが、気にしないそぶりで、しかし、暗い顔でうつむき気味でオレたちの方に歩いてくる。


「モンスターの足止め、ありがとうございます。私はステラ・ファビアーノ・エルネスタ。皆さんの援護に代表して感謝を」


 スナフさんが近くにきてお辞儀をしてくれた。


「ステラ・ファビアーノ??」


 オレは気づかないふりをしていればいいものを、知っている名前と違ったことに疑問を感じて、そのまま口にしてしまう。


「私の名になにか?」


 スナフさんが頭を上げてオレと目が合う。


「あっ……」

 とだけ、彼女は言った。


「やぁやぁ、冒険者の諸君、ご苦労だったね」


 オレたちが気まずそうにしているところに、男が近づいてきた。騎士団に指示を出していた男だ。


 長い金髪に色白、特に強そうには見えないが指示を出していたということは、それなりの役職についているのだろう。育ちが良さそうなやつだ、まぁ、貴族のぼっちゃんなのかね、そんな印象だった。


 そいつは、オレとリリィ、ソフィアを順番にみて、リリィに近づいて左手をとる。


「私は、オズワルド・オールダルト・エルネスタ。騎士団の副団長を務めております。美しいお嬢さん、援護に感謝をします」


 そいつは、ひざまずき、リリィ左手の甲にキスしようとしやがった。すかさず、そいつの顔の前に左手を出し、それ以上の接近を阻止する。


「やめてもらえますか?」

 キレそうである。


「なにか?」

 ニコリ


 キレたわ。


「わかんねぇのか?オレの女に触るなって言ってんだよ」

 オレはリリィの肩を抱いて、剣の柄に手をかけた。


「これはこれは…失礼しました」

 男はやっと手を離し、両手をあげる。


「それでは、わたくしどもはこれで」


 そいつは、ペコリとリリィにだけ頭を下げ、騎士団を引き連れて帰っていく。


 オズワルドと名乗った その男が騎士団長を化け物と呼んでいたことに、オレは気づいていた。リリィのこともあり好感度は最悪だ。というかマイナスだ、滅ぼしたい。


「では、私も失礼します。今日は足止めありがとうございました」


 スナフさん改め、ステラさんが暗い顔をしながらお辞儀をして馬でかけていった。


 あ、彼女のことを忘れてリリィをかばったのマズかったか?

 いや、でもあんなん無視するのは不可能だし…


 まぁ、また攻略さんを頼りにしよう。


 騎士団が去ったあと、オレはウォーターで水を空中に浮かせながら。


「ばっちいのでキレイキレイしましょうね」

 とかいいながら、リリィの手を洗う。あのキザ男に触られたところだ。

 オレはリリィの手を洗ってアイテムボックスからタオルを取り出し、丁寧にふきふきする。


「ふふっ、ライ様はやっぱり王子様みたいです。いつもわたしを助けてくれて。

 こうして手を洗っていただくと、はじめて助けていただいたときのことを思い出しますね」


「王子様?そんな風に思っててくれたんだ。あー、そんなこともあったね」


「あのときは、反抗してごめんなさい」


「ははっ、〈べつにあなたのものじゃありません〉だったっけ?」


「もう…今はライ様だけのものです」


 リリィのそのセリフと笑顔にとても愛おしくなってキスをする。


「わたしがいること、忘れてるわね…」

 と、うらめしそうに腕を組んだソフィアがそっぽを向いていた。


「ソフィアさん」


「なによ?」


「オレはあの男に2つ怒っています」


「なんなの急に?」


「1つはもちろんリリィに触れたことです。

 ですが!あのキザやろーは、ここに天使が2人もいるのに!ソフィアたんのことを無視したのが許せない!

 あ、でも触ろうとしてきたら、もちろん止めてたよ?」


「ふ、ふん!キザなのはライも一緒でしょ!」

 顔を赤らめながら怒ってしまった。


「ソフィアは可愛いですね」


 オレは2人が愛おしくなって、2人と手を繋いで宿に帰ることにした。


 宿に着いたら、さきほどのことに感化されたオレは、2人のことをベロベロと舐め回すことに決めていた。

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