第6話 冒険者登録

「すみませーん」


 オレはギルドの扉をあけて、受付らしきところで声をかけていた。


 ギルドはおばちゃんのいった通りの場所にあり、看板が出ていたのですぐわかった。

 中に入ると、ファンタジー世界の酒屋といった雰囲気の内装が広がっていたが、人は誰もいなかった。なので、今は受付さんを探しているところである。


「はーい、お待ちくださーい」


 奥の方から声が返ってくる。女性のようだ。


「はい、お待たせしました。どういった御用でしょう?」


 ギルドの制服なのか、キッチリした服装で現れた女性は、メガネをかけており大人びた印象だった。こっちの世界にもメガネあるんだな。


 若くてスタイルのいい女性だった。

 攻略スキル、使ってみようかな、と一瞬考えたが、まずは当初の目的をはたすことにした。


「冒険者になりたいのですが、ここで手続きすることはできますか?」


「はい、出来ますよ。では、手続きのためにこちらの用紙に記入してください」


 用紙とペンを渡される。内容は、氏名、年齢、出身地、緊急連絡先、使用武器、職業などであった。

 書き込みながら、そういえば日本語なんだな、と思いあたる。都合がよくてなによりだ。


 それに、言葉も普通に通じるからありがたい。言語翻訳スキルとかいらないらしい。

 用紙を渡すとお姉さんが確認する。


「ライ・ミカヅチさん。年齢は20歳。出身は日本?ですか。聞いたことないですね。

 緊急連絡先は無し、武器は未定、職業は剣士志望と、なるほど。わかりました。それでは手続きします」


 記載内容について、色々つっこまれるかな?と思っていたが、特になにもないようだ。家族もなく、その身一つで冒険者になる人は珍しくないのかもしれない。


 そんなものがあるのか知らないが、身分証も確認されないので、出身地についても何も聞かれない。


 受付嬢は、一度奥に引っ込むと、何かを持って戻ってくる。


「それでは、このプレートにライさんの情報を登録しますので、こちらに手をかざしてください」


 用紙の上にチェーンがついた銀色のプレートが置かれていた。


 これはアレに似ている。あの、戦争映画とかで兵士が首からかけてるやつ。なんだっけ?ドッグタグ?みたいなやつ。

 思い出しながら、手をかざす。


「冒険者登録」

 と受付嬢が両手をかざして唱えると、ほんのりプレートの周辺が光って収束した。


「はい、これで登録は完了です。こちらのギルドプレートは、依頼の受諾と報酬の受け取りに必要ですので、無くさないようにしてください。もし無くした場合は再発行の費用がかかります。ライさんは冒険者ランク初級Cからスタートになります」


「ありがとうございます。再発行にはいくらかかるんですか?」


「ギルドの支部によって異なりますが、だいたい1万ルピーになります」


 1万ルピーがいくらなのかは分からないが、覚えておこう。


「あれ?そういえば登録にお金は必要ないんですか?」


「はい、エルネスタ王国では冒険者の初期登録は無料になっています。他の国では有料のところもあるようですよ」


「へー、そうなんですね」


 それはありがたい。もし、登録したあとにお金を請求されても払うすべはなかった。いきなり盗賊ルートは勘弁したい。


「冒険者ランクは最初は必ず初級Cなんですか?」


「王族、貴族の方や、上級以上のランクの方から推薦があれば、上位のランクからはじめることもできますが……もしかしてライさんも該当しますか?」


 受付嬢が少し不安そうにする。


「いえ、気になっただけです」


「そ、そうですか。よかった」


 ホッとしたような表情をする。貴族とか怒らせるとまずいんかな?


「では、さっそく依頼を受けたいのと、あと安く泊まれる宿と宿代を教えてもらえますか?」


「はい、わかりました。まず、この町ですと宿は一つしかなくて、西門のすぐ前に、ぶらり旅、という宿屋があります。1泊3000ルピーだったはずです。

 依頼については、あちらの掲示板から初級Cでも受けれるものを選んでこちらにお持ちください。依頼は自分のランクの2つ上まで受けることが可能です。ライさんの場合は、初級Aまでの依頼ですね」


「なるほど、今からすぐに受けられるものはありますか?」


「えーと、今からですと何かあったかな?」


 そう言いながら、受付嬢さんは掲示板の方に向かう。オレもそれについていく。


「モンスター討伐系ですと、今から向かうと夜になってしまって危ないかもしれませんね。ライさんはまだ武器も持っていないようですし。

 そうなると、町の中でできる依頼…あ、この野菜の収穫でしたら、すぐにできますよ。だいたい3時間くらいで完了して、報酬は3000ルピーです」


 そういって、依頼用紙を渡してくれる。


 内容を確認すると、

---------------------------

依頼内容:野菜の収穫

所要時間:3時間

場所:町の八百屋裏

報酬:3000ルピー

---------------------------

 という内容が手書きで書かれていた。1番下に初級Cというスタンプが押されている。


 おそらく、依頼者が依頼用紙に内容を記入し、その内容をギルドが確認して適正ランクを判断する、という流れなのだろう。


「ありがとうございます。では、この依頼を受けたいと思います。でも、報酬3000ルピーだと宿屋に泊まったら無くなっちゃいますね」


「そうですね。宿にお困りでしたら、冒険者はギルドの宿泊スペースを利用することができます。個室にはなっていませんし、設備はそれなりですが、無料で利用することができますよ」


「おぉ、そうなんですね。ありがたいです。じゃあ、今日は利用させてください」


「わかりました」

 そういって宿泊スペースの場所を案内してくれる。


「それでは、依頼が完了したらまたこちらに来てください」

 一通り説明してくれた受付嬢は、受付に戻って依頼の受諾手続きをしてくれている。


「わかりました」


 受付嬢は、依頼用紙の上にオレのギルドプレートを置いて「依頼登録」と唱えた。


 オレはプレートを受け取って、依頼用紙に書かれていた場所に向かう。


「お!なんだいまた来たのかい!冒険者にはなれたのかい?」


「はい、おかげさまで無事、登録できました」


 また、さっきのおばちゃんの八百屋に戻ってきていた。野菜収穫の依頼はこのお店が出したらしい。


「それで、この依頼を受けて来たんですが」

 依頼用紙をおばちゃんに見せる。


「おぉ!そうなのかい!助かるよ!じゃあ、娘に案内させるね!

 ココー!このにいちゃんと収穫に行ってしておくれー!」


 店の奥から「はーい!」と元気な声が返ってくる。そのあと、バタバタと幼女が走ってきた。


「じゃあ、にいちゃん、こっちきてー!」


「うん、わかった。よろしくね」


 幼女に手を引かれ畑の方についていく。冒険者として、はじめての依頼だ。



 しばらく作業して、空が赤くなってきた頃。


「おつかれさーん!もう終わっていいよー!」

 と、おばちゃんの声が遠くから聞こえてきた。


「はーい!わかりましたー!」

 と大きめの声で返す。


あのあと幼女は、「ここからここの野菜ー!」と指示してくれたので、その通り野菜を収穫してお店の裏のカゴに運んでいった。


 幼女は、収穫中もオレの周りをちょろちょろと走り回っていた。今はオレに肩車され、楽しそうにしている。


「いやー!おつかれさん!いい働きっぷりで助かったよ!」


 お店まで戻ってきたところ、おばちゃんに話しかけられた。


「はい!これ!報酬だよ!たくさん収穫してくれたから少し色つけといたさね!」


「ありがとうございます」


 硬貨を受け取る。銀色の硬貨が手元に4枚のせられた。


 元々の報酬が3000ルピーだったから、色がついたとして、4000ルピーなのかな?と憶測する。


「バイバーイ!」


 幼女とおばちゃんが手を振っているので、手を振りかえして、ギルドへと戻ることにした。



「はい。依頼完了ですね」


 受付嬢は、オレのギルドプレートを受け取って、「依頼成功」と唱えていた。


「依頼はどうでしたか?」


「楽しかったですよ。少し多めに報酬もいただいちゃいました」


 いいながら銀貨が4枚あることを見せる。


「あ、1000ルピー上のせしてくれたんですね。あそこの奥さん、働きが悪いと機嫌悪くなるので、よっぽどいい働きだったんですねー」


 ほーそうなのか。そんな印象なかったが、わからないものだ。とにかく銀貨の価値を確認できたので、よしとしよう。


「お金に余裕ができたので、今日は宿に泊まりますか?」


「いえ、予定通りギルドを使わせてください」

 お金はなるべく節約しておきたい。


「わかりました。私はもう少ししたら帰りますので、寝る前に戸締りをお願いします」


「わかりました」


 このあと、ギルドの裏の井戸で水浴びをして、10人くらいが雑魚寝できそうなギルドの就寝スペースで眠りにつくことにした。


 敷布団は無かったので、薄いシーツを何枚か重ねて代わりにし、シーツを被って寝ることにする。オレ以外に利用者がいないから、意外と快適に過ごすことができた。



 翌朝、受付嬢が来るころにオレは目覚め、また町の中での依頼をこなすことにした。


 とりあえずの金策である。まずは、生活に困らないくらいは貯金しておきたいのだ。


♢♦♢


朝から晩まで地味な依頼をこなすこと3日間、手持ちの資金が3万ルピーをこえたことを確認し、次の行動を開始することをオレは決心した。


そう、美少女攻略、だ。

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