第4話 ようこそ異世界へ
目覚めたとき、そこはいつものベッドだった。
「あーはいはい。そりゃそういうオチですよね。楽しい夢をありがとうございました」
独り言を呟きながら、少し涙目になる。
「グスッ……はぁ…」
目をこすりながら、ため息をついて、起き上がるために手をベッドにつく。
クシャ
「?」
手のひらにはベッドのものとは思えない感触が返ってきた。
草のような感触だ。
それは草w
……特に面白くないな。
なんだか、いつもの部屋よりだいぶ明るいような?
太陽の光を瞼(まぶた)の奥に感じつつ、少しずつ目をあける。目の前には、背の低い草花が映し出された。
「?」
ハテナマークをうかべながら、身体を起こす。上半身だけ起こした状態であたりを見わたすと、そこには草原がひろがっていた。見たこともない景色だ。
少し傾斜になっている丘のようなところの中腹にオレはいて、右手には森、正面には草原、小さな畦道、左手には湖のような風景が映し出される。
「どこだここ?」
ありきたりのセリフが口からこぼれる。
夢か現実かの確認のため、ペタペタと顔や身体を触ってみる。たしかに感触がある。夢ではないようだ。
お腹のあたりを触ったところで違和感に気づく。やけに硬い。見慣れない服をめくりあげると、そこには見事なシックスパックが現れた。
「わぁぁお、誰の腹?……これ、マジか?」
急速に頭が回り始めたオレは、すぐに自分の顔を確認したくなり、湖の方に駆け出した。
ザッザッザッ
湖についたオレは水辺から水面を覗きこんで自分の顔を確認する。
そこには見覚えのない顔が――
映っていなかった。
というか、水面に映る自分の顔はボヤけていてよくわからない。
あれぇ?水って鏡みたいに映らなかったっけ?アニメの見過ぎか…
でも、ここまで走ってきて違和感を覚えていた。丘から湖まで結構な距離を走ったのに、まったく息切れを起こさない。
オレってこんなに体力無かったよな?それは間違いなく無かった。
それにこんなに早く走れたっけ?いや、走れなかった。
それにやっぱり、この身体……改めて自分の腹筋を見る。見事なシックスパックだ。
あたりを見わたすと、いつもより、視界が高いようにも感じた。身長が伸びているのだ。
それに見たこともない風景。
これは――
「転生した?」
……
「マジか……」
ワナワナ
「うぉー!マジかー!」
オレはガッツポーズをとりながら飛び跳ねる。
「こいつはすげぇ!」
飛び跳ねながら、いつもより高くジャンプできることに気づく。力をこめて飛んでみる。
「うわっ!!」
自分の身長をゆうに超える高さをジャンプしてしまった。
人間業じゃないよな……これって…
全ての行動が自分が異世界へ転生したことへと繋がっていく。もう、驚きよりも喜びやワクワクの方が優っていた。
「あ!ステータスって見れないのかな!?」
こんだけジャンプできるってことは、身体強化が効いてるってことだし、確認しときたい。
「えーと、ステータスオープン!」
言いながら手のひらをまえにかざす。
シーン。
特になにもおきない。
「あれ?ステータス!」
シーン。
同じだ。
目の前に透明なスクリーンが出てきて、ステータスが表示される。なんてことを期待したのだが、そんなものは出てこないようだ。
なるほど、そういう世界観なのか。ふむふむ。
「じゃあ魔法!魔法はどうだ!」
えーっと。
目を閉じてキャラクター設定で使える魔法一覧にあった魔法名を思い出す。
右手を前にかざし、「サンダー」と唱えながら目を開ける。
そうすると右手から
バリバリッ!
という音が鳴ったかと思うと正面に電撃が飛び散った。
右手が少し下を向いていたため、その電撃は湖の水面に飲み込まれる。
電撃が直撃したあたりに
バンッ!
と水飛沫があがり、その周りに電流が伝わるように光の帯が広がっていく。それから、ボタボタと水飛沫が水面に落ちて、少しずつ元の状態に戻っていく。
しばらくすると魚が数匹浮かんできた。電撃でマヒしたのだろう。
「……お…おおぉ……おー!!!」
その光景をみて、オレは興奮していた。
「す!すげぇ!魔法!魔法だ!ホントに使えた!」
他の魔法も試したい!えと、なにがあったっけ。
そこで、魔法一覧に載っていた名前をすべて記憶できていないことに気づき焦る。
ま、まずい。魔法名がわからないと使えないんじゃないか?
試しに目を閉じて念じてみる。…何も起きない。都合よく頭の中に呪文が浮かんできて、詠唱できたりはしないようだ。
あ!でもメモは取っていたはず!
慌ててポケットの中をまさぐる。ポケットからキャラクター設定のときに使ったメモ帳とボールペンが出てきてくれた。
「やった!これコッチの世界にも持って来れたんだな!」
メモ帳には、スキルの説明などがビッシリと記されている。もちろん雷属性魔法の一覧もだ。
オレはその一覧を見ながら、いくつかの魔法を試してみることにした。
♢
あたり一面に魔法の痕跡がついた頃、満足したオレは、水辺に座って休憩することにした。
改めて周りを見ると、結構大きい木が真っ二つになって煙をあげながら焦げていたり、地面がえぐれていたり、と自然破壊をはたらいてしまったことに気づく。
「な、なんか、すみません…」
興奮のあまり、魔法一覧にあるものを片っ端から使ってみた結果こうなってしまった。
でも、そのおかげで色々分かったことがある。
雷属性の上級魔法は、結構な威力で、人に向ければかなりの殺傷力がありそうだ
それは真っ二つになった巨木を見ればよくわかる。
ただ、魔法耐性とか防御魔法とかっていう概念があるから、対人戦、モンスターとの戦いでどこまで通用するのかは謎だ。
あと、威力の高い魔法を連発すると疲れてきて、それでも使い続けると頭痛や吐き気を催すことがわかった。いわゆるMP切れというやつだろう。
ステータス画面がないため、あとどれくらいでMPが切れるのかがわかりづらいのは不便だった。このあたりは感覚で掴んでいくしかなさそうだ。
ただ、威力が低い魔法や〈ライト〉のような周囲を照らすだけの攻撃力がないような魔法は何度使っても疲れることはなかった。まぁここ数時間での実験では、という条件付きだが。
「ふぅ」
心地よい疲労を感じつつ寝転んで空を見上げる。
ホントに異世界にきたんだなー。
すでにめっちゃ楽しかった。これからどんなことが起きるんだろう、とワクワクしている。
落ち着いたところで、例のスキルのことが気になってきた。いや、ホントは最初からずっと気になっている。
でも、最初からあのスキル使うのって、なんか性欲丸出しみたいで恥ずかしい気持ちがあり、見送っていたのだ。
いや、でもそもそもこんなスキル選んだ時点で今更だな。そう言い聞かせながら、スキルを使うことを決意する。
「攻略」
呟く
「?」
なにも起こらない
「攻略」
やはり、なにも起こらない。どういうことだ?
「んー?」
と目をつむりながら、
「攻略」
と再度唱える。
そうすると、頭の中に、
------------------------------------
攻略対象を選択してください。
------------------------------------
という文字が浮かんできた。
「うおっ!」
咄嗟に目をあける。そこには何も写っていない。もう一度目を閉じるとやはり文字が浮かんできた。
------------------------------------
攻略対象を選択してください。
------------------------------------
ゾクッと鳥肌がたつ。
攻略対象、攻略対象。
今は見ぬ美少女を想像してワクワクしてしまう。
「えー、攻略対象を検索」
目をつぶったまま唱える。すると、
------------------------------------
検索条件を設定してください。
------------------------------------
という文字が浮かんできた。
「……」
それにしても目をつぶらないといけないのどうにかならないかな?
『魔力を消費することで、メニューを投影することが可能です』
「お?」
独り言のつもりだったが、そんな返事が頭の中に返ってきた。
「じゃあ、それで」
目を開けて「攻略」と唱える。そうすると、さっきまで頭の中にあった文字が、目の前に青白い文字で映し出された。
------------------------------------
検索条件を設定してください。
------------------------------------
文字の周りには四角い枠が付いていて、iPadを横向きに使っているくらいのサイズ感であった。
「おぉ、これはいいね」
魔力を消費するとのことだったが、そんな大量には使わないようだ。〈ライト〉を使っていたときのような、少しずつ魔力が減っているような感覚はあるが、しばらく使っていても問題なさそうなレベルであった。
「えーと、検索条件か」
んー、まずは
------------
美少女
------------
これマスト。あとは……
------------
処女
------------
……
自分の言った内容が文字として表示され、なんとも言えない気持ちになる。
な、なにか?処女厨オジサンですけど?異世界処女厨オジサンですけどなにか!?
誰にも何も言われていないのにキレてしまった。
「ふー…」
一旦落ち着く。
えーあとは、なんだろ?まぁこれでいいか
「検索」
そう唱えると、マップが現れて検索結果が表示される。
自分の現在地らしき青い点が真ん中にあり、湖の地形が映し出されている。自分以外の点は無い。
そりゃまぁこんな場所だしね。
なんとなく、そのマップを触ってみる。iPadを使う感覚だ。そうすると、同じ感覚でマップを動かすことができた。
「おぉ、これは便利だね」
いつもと同じ感覚でマップを操作し、少しずつ範囲を広げていく。そうすると、少し離れたところに町のような地形を見つけることができ、その中に3つの赤点があることを確認できた。
その赤点はそれぞれ少しずつ移動していた。
それが、自分が検索した相手だと、人間だから動いてるんだろうと、理解し、
「おぉぉ」
と声が漏れてしまう
ここにまだ見ぬ美少女が!3人もいるということですか!ワクワクがとまらない。
「これは行くしかないでしょ!」
テンション高めの独り言を呟きながら、オレはマップを頼りに歩き出した。
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