第14話

「急にどうしたよ?」


「いいから」


「ええと」メモ帳を繰りながら、「別に普通の服装だぞ。あの日は寒波が来ていたから、発見時の衣服は....」


「上は茶のチェスターコートで、下は黒のウールのパンツ」


「手袋はしてたか?」


「ああ。防寒用のレザーグローブだ」


「なるほど。復路の謎が解けた」


「ホントか!」宗太はテーブルを勢いよく叩いた。「教えてくれ。なんで彼女は、わざわざ事件現場まで戻ったんだ」


「返り血のカモフラージュだよ」


「返り血?誰の返り血だ」


「決まってるだろ。千堂梢のものだ。千堂を殺害したのは、池田アキだ」


「おいおい、お前、いきなり何を言い出すんだよ。凶器のナイフからは牧口の指紋が出たんだぞ」」


「兄貴、冷静になって考えれば、まずその点がおかしいだろ?」


宗佑は冷静に言う。


「どこの世界に、自分の指紋がついた凶器を放置するバカな犯人がいるんだ」


「でも、凶器は間違いなくあのナイフだ」


「いいか。あの晩で起こったことを時系列で整理すると、こうなる」


「最初の犠牲者は千堂だ。歩いている彼女を、池田がナイフで刺殺した。池田の指紋が残っていないのは、当然だ。彼女は手袋をしていたんだから」


「そして、そこに牧口が通りかかった。牧口は動揺しながらも、事態を察知し、アキを捕まえようとした」


「じゃあ、牧口は犯人ではなくて、?」


「そう。そして、同時に第一の事件の目撃者でもある」


「牧口は、女性であるアキなら取り押さえられると思った。実際、アキは牧口に刃物を向けるが、返り討ちにされた」


「じゃあ、あの指紋は?」


「二人は揉み合いになって、その中で、牧口はアキのナイフを奪った。そして、もののはずみで、牧口は池田を刺してしまったんだ。その時に、ナイフに牧口の指紋がついた」


「でも、牧口はそこから逃げた。ということは、その先はさっきと同じだな」


「ああ。スタンガンで牧口は反撃を受け、逃走。そして、事故にあった。アキが牧口を追いかけた理由は分かるだろう?」


こうなると答えは一つしかない。


「目撃者を殺すため」爽太が呻くように行った。「恐ろしい女だ」

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