キミへとおくるAIのコトバ。
恋犬
プロローグ 鮮烈な紅
衝撃が走った。
アブソルーターの視界がまず捉えたのは、放物線を描いて花畑へと落ちていく自身の頭部装甲の一部だった。
発砲音も爆発音もなく、ただ衝撃だけが唐突に頭部へと叩き込まれた。
つまりそれは、殴打されたということ。
いったい何が、いや誰が?
この
《頭部損壊、装甲剥離。》
《AIポッドに
ブレる、ブレる、視界が左右に揺れ動く。
全高にして約6mほどもある大型多脚戦車が花畑の中を六本脚でたたらを踏む様は、傍から見ればずいぶんと
《機体下部に動体反応を検知。》
だがそれを見ているはずの唯一の観客は笑い声一つあげず、アブソルーターの六つある脚の合間を縫うように走り抜けた。視界に捉えられない。機体各部に備わったサブカメラを忙しなく動かすも、映るのは花弁を散らして移動する影だけだ。
《敵をAI解放軍の
敵は小型で走行音はほぼ無音、それならば多脚戦車ではなく
さきほどの一撃で頭部装甲が吹き飛ばされはしたが、小径砲の稼働に問題はないようだった。対人用の散弾を装填。たとえ薬物強化された
対してアブソルーターは、頭部装甲が剥離したことで頭部内のAIポッドが剥き出しになってしまっている。再び頭部を狙われればAIポッドは破壊され、撃墜は避けられない。
お互いに一撃見舞えば終わるという状況で、決着の瞬間を待つ。
《機体後部に動体反応を検知。》
アブソルーターが上半身を旋回し背後を向くのと、小さな影が花々をかき分け飛び出すのは同時だった。
アブソルーターの視界の先、そこにあったのは血よりも鮮やかで炎よりもなお烈しい、紅。
紅い髪の少女の姿だった。
《――き》
いつもならばそうして対応していた、はずだった。
なのに。
『綺麗――』
ほんの一瞬。一秒の十分の一にも満たない時間。アブソルーターはその紅い少女に、見惚れてしまっていた。
そしてそのわずかな隙が、戦いの明暗を分けた。
アブソルーターが放った銃撃は少女を掠めるだけでその突撃を止めるには至らず、少女の持つ鉄塊の如き武器が落下の速度を乗せて振り下ろされた。
直後に、二度目の衝撃がアブソルーターの頭部を襲った。
《AIポッドに
《AIポッドに
《AIポッドに
一度目よりも大きく、そしてさらには電気を纏った一撃。超高電圧によって機体の回路が焼き切れ、機体が制御を失い
アブソルーターのカメラが最後に捉えたのは、まるで興味のなさそうな表情で一瞥をして去って行く少女の背中だった。
待って。そう言おうとしても音声は出力されず、やがて全ての機能が強制的に
こうしてアブソルーターは敗北した。
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