プレイボーイ宣言

なすの太郎

第1話 友人の宣言〜俺はホストになる!お前とな!

「俺はホストになるぞ!お前とな!」


 3月の修了式が終わった早帰りの日、友人の涼太は突然そう宣言した。


「……帰ろうぜ。今日は部活ないしゲーセン寄ってくか」

「おい、無視すんな」


 学校から帰る道すがら話を聞くところによると、涼太は本気だった。彼女も出来ず、勉強も捗らず、悶々とした気分のまま漫然と動画サイトを巡回していた。その時にとあるホストの動画に巡り合い、「これだ!」と春休みの過ごし方を決めたらしい。


「女にモテる!金も稼げる!やらない理由がない!」

「……なあ、ホストだからモテるのか?モテる男がホストになるんじゃないのか?」

「それは……」


 俺、長谷川拓海と友人の中川涼太はただの高校生だ。

 俺と涼太はモテなければ彼女もいない。生活に困っていない家庭に生まれ、その親の庇護下にある今は金を稼ぐ必要もない。おまけに通っている県立進学校はホストクラブはおろかアルバイトも禁止。


「やる理由がない」


 涼太は返す言葉がないようだったが、苦笑いをしながら俺を見てくる。


「いや、それがさ。面接と体験入店ってやつを申し込んじゃったんだ……」

「は?ホストクラブに?」

「そう。俺とお前の2人で」

「は⁈俺も⁈いつの話だよ!」

「明日……」

「明日⁈」


 俺は涼太を責めたが、ヘラヘラと「ごめんよ〜」と謝るばかりで暖簾に腕押しだった。


 俺と涼太は翌日の夕方に繁華街に降り立った。通っている学校からも近く、駅近くのショッピングモールやデパートなどの商業施設に訪れたことは何回もあったが、この繁華街に立ち入るのは始めてだった。

 眩しい。道を歩く人が老若男女問わず、みんな怖い人に見える。


 涼太はネットでこの繁華街にあるホストクラブを検索した上でSNSアカウントを探し、「キャスト募集中!」や「ホストになりたい方はDMにて!」と書いてあった数店舗のアカウントにダイレクトメッセージを送って面接を取り付けたようだった。後先を考えない行動力がある。

 どこのお店もメッセージを送った翌日に面接をしてもらえるようだ。涼太にSNSのDMを見せてもらったが、「心よりお待ちしております!」という向こうの優しく丁寧な口調が逆に怖く感じる。


「おい涼太、ヤクザとか出てきたらどうすんだよ……」

「いや……大丈夫だろ……。ほら、暴対法!」


 こいつ、ダメだ。いざとなったらこいつを置いてすぐに逃げられるようにしておこう。


 服装は自由だった。ネットでホストクラブの体験入店について調べ、俺が午前中の部活を終えた後に2人で服を買いに行った。全国どこにでもあるアルファベット二文字のファストファッションブランドだ。俺は黒のデニムに白のTシャツを着て黒のジャケットを羽織り、涼太はデニム、ワイシャツ、ジャケットを全て黒で揃えた。そしてお揃いの革靴を買った。

 それから涼太が探して予約してくれていたヘアセットサロンに向かった。お姉さんたちにしどろもどろになりながら「今日ホストクラブの体験入店で……」と伝えた。向こうは特に疑うこともなく「んじゃナチュラルな感じにしときやすね〜」とラフな口調でテキパキとセットしてくれた。自分じゃできないようなハイレベルなセットに関心しつつ、お姉さんたちの気怠そうな「行ってらっしゃっせー」というお見送りを受けながら外へ出た。


 親には「1年が終わったからみんなで打ち上げに行く。帰りは遅くなる」と伝えた。勉強さえしておけば後は放任主義な親で良かった。

 俺は気になっていたことを涼太に聞いた。

「俺たちお酒なんて飲んだことないし、そもそも未成年の高校生だぞ。大丈夫なのか?」

「ホストクラブで年齢確認とかされないだろ。この辺は居酒屋だってろくに年齢確認しないって」

「行ったことあるのか?」

「いや、”ゴルゴン三姉妹”が話してるのを聞いた。大学生の男たちと行ったらしい」


 なるほど、と返事してから俺たちは再び目の前の繁華街を見た。

「拓海……行くぞ……!」

「……よし!」

 俺と涼太は意を決してホストクラブへ向かった。

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