ニートな僕がレンタル彼氏を始めたらS級美女達がご贔屓さんになりました
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 最低の弟
「ねぇ~美雨ちゃん。お小遣いちょ~だ~い」
姉の美羽は例によってパソコンに向かい、カタカタと仕事をしている。
プレゼンの資料でも作っているのだろう。
背中越しに溜息を吐くと、美雨はくるりと椅子を回転させて振り向いた。
「お小遣いならこの前あげたばっかりでしょ!」
「いーじゃん。美雨ちゃんお金持ちなんだから」
まだ20代だが、美雨は複数の事業を経営する若手実業家だ。
詳しい事は知らないが、メチャクチャ稼いでいるのは確かである。
そんな美雨に寄生して、早霧は立派なタワマンで姉と二人暮らしをしている。
いわゆるニートという奴である。
「あんたねぇ……。毎度毎度双子の姉にたかって、ちょっとは恥ずかしいとか思わないわけ?」
「思わないけど?」
ガクッと美雨の肩がコケ、危うく椅子から転げ落ちそうになる。
「早霧!」
「美雨ちゃんが聞くから正直に答えたんだよ? それとも、嘘ついた方がよかった?」
「……そういうわけじゃないけど。お小遣いをねだるにしても、もっと言い方ってものがあるでしょうが!」
「なるほど」
頷くと、早霧は少し考えた。
「そう言えば美雨ちゃん。ネットで見たんだけど、専業主婦の働きを給料に換算すると年収1300万になるらしいよ」
「………………で?」
「僕も専業主婦みたいなものだから、それくらい貰ってもいいのかな~って」
「あんたの場合はただのニートでしょうが!?」
「異議あり! 確かに僕はニートだけど、掃除も洗濯も料理もやってるよ? それとも美雨ちゃんは、世の中の専業主婦はみんなニートだって思うわけ?」
「そ、そうは言ってないけど……。流石に1300万は多すぎでしょ!」
「うん。僕もそう思う。だから、ちょっとでいいよ。出来るお姉ちゃんから、不出来な弟に、ほんの少しお恵みを貰えたらなぁ~と」
「うぐぐぐぐ……はぁ……」
美雨は諦めたように溜息を吐き。
「……で? 今度は幾ら欲しいわけ?」
「これくらい」
早霧が掌を広げると、美雨は分厚い札入れから諭吉を五枚取り出した。
「わ~い! ありがとう美雨ちゃん! やっぱり持つべきものはお金持ちの姉だね!」
「嬉しくないわよ! ったく。ていうか、ニートの癖に何にそんなにお金使うわけ?」
「ガチャだけど?」
「返しなさい!」
美雨の伸ばした手を早霧はひらりと回避した。
「やーだよ。っていうか美雨ちゃんだってガチャゲーで稼いでるじゃん」
「だから余計にガチャゲーの不毛さを知ってるのよ! あんなのにお金突っ込んだってサ終したらなんにも残らないじゃない!」
「それを言ったらなんでもそうじゃない? 美味しい食べ物はウンチになるだけだし、旅行とかライブも形のある物は残らないでしょ」
「思い出にはなるじゃない!」
「ガチャだって同じだよ」
「同じならもっと有意義な事に使いなさいって言ってるの!」
「わかってないなぁ美雨ちゃんは。魂を削るようなヒリついたスリルはガチャでしか味わえないんだよ?」
「そういうのは自分で稼いだお金でやりなさいよ!?」
「人のお金で回すガチャが一番楽しいんだよ」
グッと親指を立てる早霧を見て、美雨のこめかみに青筋が走った。
「こんのぉぉぉぉおお! クソニートがぁああああ!?」
わしゃわしゃと髪の毛を掻きむしり、早霧をとっちめようと椅子から離れようとするが。
丁度いいタイミングでスマホが鳴った。
「はいもしもし。朝倉です。はい、はい。いつもお世話になってます。えぇ、えぇ。そちらの件につきましては――」
どうやら仕事の連絡らしい。
覚えてなさいよと言いたげにこちらをひと睨みすると、さっさと出て行けと言わんばかりに手を振る。
早霧も口パクで「ありがとね、美雨ちゃん」と言って部屋を出た。
貰ったばかりのお小遣いをガチャで溶かし、夕飯の支度をはじめる。
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