第17話
そこはつけ売りではなくその場その場での現金売りをしてくれる数少ない
それはいつ死ぬかが分からないような仕事をしている鬼灯だからこそであった。
「ど~も~。
酒を売ってほしいのだけど~」
それでも毎日一回、下手をすると二回は買いに来てくれる上客だ。しかも酒に酔って
そして金払いの良さは大したものである。
「やあ、
昨日買ったやつはどうしたんだい?」
馴染みの売り子の声に鬼灯は口でへの字をつくる。
「あれっぱしの量じゃあ一晩でなくなっちまうよぉ。いい加減樽で売っておくれでないかい?」
因みに
これは江戸の中でも珍しく、年に二~三樽しか入荷しない。
「確かに売るのはやぶさかじゃあないんですけど、他の者達の楽しみというものを一人で奪うってのはどうかと思いますがね」
売り子の言葉に
酒は庶民の楽しみの一つだ。
江戸の町では絶えず大酒飲み大会、大食い大会などが開かれている。
因みに大酒飲み大会の景品は酒なのだが・・・・・・。
「ま、まぁいいや。
これを徳利で二つと普通の
そう言いながら
「そりゃあ良いけどよ。
それはちいと換金がめんどうでぃ。一分判で三枚な、あるか?」
酒屋の男の問いに
「はぃ、まいど。
で、夕刻で良いか。
大体昼七つ《16時頃》過ぎになるが?」
「それでいいよ。
あたしもこれから夕餉の材料とつまみを買いに行くからね」
「・・・・・・特に昨今の
酒のつまみに関しては最悪に近い。
困ったもんだね」
「まったくさ。
公方様にも困ったものだねぇ。
・・・・・・喰うけどね」
にやりと笑った
「ちげえねぇな。
まぁ、やりすぎて捕まるなよ。ただでさえ昨夜から町方がすごい数走り回ってるんだ。
少しは控えなよ」
酒屋の店員の言葉に
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
(ついて来てるねぇ)
鬼灯は酒を買った後、今度は
酒屋を出た辺りからつけているものがいる。
着かず離れず、二町程。
(さぁて、どうするかね。
折角の
誘うかねぇ)
少し遠回りをして
そこまで入らないと買いたいものを買えないからだ。
「どうも~、例のもの買いに来たんだけれど、ある?」
「禁制品だからな。
少し高いうえに量は売れないが良いか?」
店主に頷き返す。
店主は
暫くして手の平に乗る程度の包みと中が見えない小さな入れ物を持ってきた。
「ほれ、
誤魔化しの為に周りは食べられる野草で覆ってある。
全部で二分と五百だ」
「釣りはいいや。
持ち歩くの面倒だしねぇ」
基本的に分判などを使うのは武家か商家、遊女程度だ。
普通の庶民が使うのは一文銭と四文銭。しかも持ち歩くのは数枚から百枚程度。
基本的な支払いはつけ払いが基本である。
先程の
もっとも後者はもっと別の所とも取引があるのだが・・・・・・。
因みに
そこいらの商売人が引くほどの守銭奴だ。
単につけて来ている者がいるので五百文を持ち歩くのはつらいし、争いになってそこら辺にぶちまけるのが惜しいので、どうせ世話になっているからと思っただけなのだが・・・・・・。
「そうかい。じゃぁ預かりということにしとくよ。
で、これは持って帰るのかぃ?」
店主の問いに
「すまないが届けておくれ。
そうだなぁ・・・・・・、暮れ六つ(18時頃)くらいに頼めるかねぇ」
「そうだな、その刻限の方が此方としても有り難い。
届け賃で百文引いとくぜ」
(まだいるねぇ。
まったくしつこい奴は嫌われるのにね)
今度は自宅件
それを追うようについてくる。
(一人・・・・・・か?
密偵みたいなものかねぇ。
探りだけなら放置でも良いんだけど・・・・・・殺る気満々なんだよね)
気がついていないのか、気づいていてあえて誘いに乗っているのか、つかず離れずついてくる。
暫くするとほとんど人の往来が無い所へと辿り着いた。
ふと、
間は二町と変わらない。
「つけてきているんだろ、誘ってやったんだ、出てきな!」
少し強い口調で話しかける
その言葉に対し、これまで近づいて来なかった気配が一気に間を詰めてきた。
慌てて胸元から短刀を引っ張り出す。
抜くと同時に圧力が
「・・・・・・躱しやがるか。
相変わらずの化け物ぶりだな」
相手の顔を見て
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