骨董屋 鬼灯

巻き込まれる

第1話

 江戸の外れ、吉原の近くに一件の骨董屋があった。大店では無く小さな小さな二十坪ほどの土地に一階が見世みせ、二階が住居という見世みせだ。

 いつの時代から建っているかも分からないような建物は周りにびっしりと壺などが並べてある。

 外観も傷んではいないが古びており、特に掃除をしているようには思えない。せめて小綺麗にしていれば客も寄りつくだろう。

 いや、やはり寄りつかない。この見世にはそれ以外にも大きな欠点があったからだ。

 

「あ~あ、今日もお客は来ないかねぇ・・・・・・」


 この見世みせの店主である鬼灯ほおずきは店の奥でじっと入り口を見つめていた。

 見世の中は薄暗く、微妙に埃っぽく、足の踏み場も無いほど骨董品しょうひんが置かれている。

 この見世の中、一見整理整頓さえされていないように見えるが、実はしっかりと整頓されている。

 骨董品は種類別、年代別にきちんと整理され、はしっかりと落としてある。ただし以外は一切落とされていない。

 古ぼけた骨董品は全くいじられてはいないし、補修されてもいない。骨董としての価値のみを生かされている。

 そのような見世の奥でぼそりと呟いた女。

この骨董屋鬼灯の主である鬼灯である。

しかしのんびりとしたその声はそれほど切羽詰まった様子は無い。


 鬼灯ほおずき

 年の頃は二十五を越えた大年増である。

 白い肌もとい青白い肌、肩で切り揃えた黒髪に、長く細い眉。

 流れるような目は細く、睫毛が長い。

 鼻は高くも無く低くも無くすっと通っていて、口は小さい。

 顎は細く、貌自体はほっそりとはしているが面長では無く全体の均整は取れてはいる。

 背は高く五尺五寸程。

 そして盛り上がった双丘は小袖の上からも自己主張が激しい。

 そのくせ身体はふくよかではなくほっそりとしている。正確にはほっそりとしているのでは無く引き締まっているのだが。


 今の時代、このような女子おなごは好まれない。

 ~小町など、世で言う美人には遠く及ばない。

 まして、見世みせの位置が悪い。

 近くには綺麗に着飾った遊女ゆうじょ達が数百といるのだ。

当然男衆は一度寄ると二度目はほとんど来ない。

 この見世みせには本当の骨董好きのみが訪れる。

 それか吉原なかからの使いか・・・・・・だ。

 因みに鬼灯ほおずき、当然だが遙か昔に婚期は過ぎ去っている。容姿と背格好、加えて骨董屋という胡散臭い見世みせの店主ということで嫁として貰ってくれる者がいないのだ。

 もっとも鬼灯ほおずきは特に婚姻こんいんに対して思うところは無い。寧ろ独り身の方が気軽で良いのだ。

 それにもう一つ、人を寄せ付けていないように見えるのは鬼灯ほおずきの裏のかおが関係している。

 この流行らない見世みせが何故女手一つでやっていけるのか。

それは鬼灯ほおずきがやっているのおかげである。


 何でも屋。

 この日という指定があれば仕事をして貰える。

 その仕事は多岐に渡る。

 庭木の剪定、部屋の片付け、子守、芝居小屋への付き合い、屋台の見世番みせばん、銭湯の高坐、相撲の場所取りに花見の場所取り、あげくには産婆まで。

 鬼灯が手を出さないのは男が絡む仕事いろごとだけだ。正確には手を出さないのでは無くお呼びでないだけなのだが・・・・・・。

そしてこのような仕事以外にまた別の仕事もある。


 それは闇の仕事だ。

 依頼主は様々。

 盗人ぬすっとの逃がし屋、新刀の試し斬りにつじぎり、仇討ちの手助け、盗賊の捕縛。

 これが何でも屋の中でももっとも大金を生む仕事だ。

そして骨董屋鬼灯こっとうやほおずきが儲からなくとも、客が来なくともやってゆける理由である。

その骨董屋鬼灯こっとうやほおずきの戸が久しぶりに開かれた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る