第26話
前回のあらすじ。
駿介と真紀もアホだった!
「それで、だな」
「分かってるわよ。このはちゃんの下着でしょ」
腕を組み、仕方ないという表情を見せている真紀だが、頬が緩んでいる。
「今穿いてる体操着貸してあげるから。水泳の授業って何時限目?」
「二時限目だな」
「そう。じゃあちょっとトイレで脱いでくるから待ってて」
「おう」
真紀が教室を出ていくのを見送る駿介ととも。
真紀がいる間は良かったが、いなくなると他の教室という居心地の悪さが不意にこみあげてくる。
なので、ともに話しかけようとする駿介だが、このはと真紀以外の女子とはまともに話した経験がない。
どう話しかけるべきかと、腕を組み悩み始める。
このはの話をされるんじゃないかと、ひやひやしていたともだが、駿介の口からこのはの話が出て来ない。
「えっと、駿介君……このはちゃんの話でも良いよ?」
駿介の姿が流石に可哀そうになったのか、自分からこのはの話を振りに行くとも。
そう言うともに、駿介が苦笑を浮かべる。
「いやぁ、真紀ならともかく、とも……さんはこのはの話に興味ないかなと思って」
「あー、ともで良いよ。共通の話題が真紀かこのはちゃんしかないでしょ」
「ふむ。そうだな……それなら真紀の話を聞かせて貰って良いか?」
本当ならこのはの話をしたい駿介だが、そこはグッとこらえ真紀の話にする。
慣れ親しんだわけでもない相手に、更に慣れ親しんだわけでもない相手の話をするのは宜しくない。
駿介なりの配慮である。
そんな駿介の配慮に、関心を示すとも。
(駿介君って、変な人と思ってたけど結構常識人なんだ)
最近は真紀と一緒にお出かけをして、その時取った写真を見せるとも。
そんなともの話を「へー」と言いながら、面白そうな場所なら今度このはを連れて行ってやろうと考える駿介。
発想が恋人か保護者である。
「駿介、このはちゃんに体操着渡しておいたよ」
ともと駿介の話が盛り上がり始めたタイミングで、教室に戻ってきた真紀が声をかける。
なんだ、このはに渡したのかと思い振り返ると、真紀の隣には、真紀から借りた体操着を持ったこのはが立っていた。
「あれ、このはも一緒に来たのか?」
「教室の前で中の様子覗いてたから声をかけたのよ」
「そうか……このは、ちゃんと真紀にお礼を言ったか?」
「うん!」
満面の笑みで答えるこのはに、偉いぞとほめる駿介。どう見ても保護者である。
「真紀ちゃん、明日ちゃんと洗って返すね!」
「ううん。洗わずに返してくれれば良いから!」
直後、パーンという音が教室に響き渡った。
駿介が、真紀の頭をはたいた音である。
このはは意味が分からず笑顔のままだが、駿介とともが物凄く苦い表情を浮かべていた。
「幼馴染だから言ってやるが、もう少し考えて発言してくれる?」
「幼馴染だから今の心象を察してくれると思ったのだけど」
「分かるかッ!」
叩かれた頭をさすりながら、やれやれといわん表情を見せる真紀。
そんな真紀の態度に軽くイラッとしながらも、体操着を貸してくれたのだから最低限の礼を言ってから、このはを連れ教室を出る駿介。
「駿介、下は何とかなったけど、上が……」
薄手の白い制服だから、下に何も着用せずに着れば透けてしまうかもしれない。
「あぁ、それは俺のシャツを貸してやろう。それでも色々不便だろうし、汗臭いかもしれんが、そこは我慢しろ」
制服のシャツの下にある、赤いシャツを引っ張ってこのはに見せる駿介。
男の自分が着たのを貸すのはどうかと思うが、ないよりは遥かにマシだろうと諭すようにこのはに言う。
「えっ、うん。大丈夫だよ! ほら、ボクも汗っかきだから汗とか全然気にしないし!」
だが、そんな駿介の気がかりなど気にもせず、駿介のシャツを貸してもらえると聞き、少しだけ顔を赤らめ、テンションが上がるこのは。
アホっぽい笑顔を駿介に向けているこのはを見て、真紀が気持ち悪い笑顔を浮かべる。
そんな真紀を見て、駿介は案外常識人かもしれないなと評価を改めるとも。
後日、駿介が意外と常識人だった話を別の友人に話したともが「DV被害者みたいな思考」と言われ、物凄く嫌な顔をするのだが、それはまた別の話である。
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