第15話
「駿介、お願いがあるんだ」
「ん? どうした?」
「今度の日曜、だまされたと思って付き合って欲しい」
「ほう」
放課後の教室で、このはが珍しく真面目な態度で駿介に話しかけた。
鬼気迫る表情を見ながらも、駿介の心のどこかでは「まぁこのはの事だからどうせアホな事だろう」とタカをくくっていた。
休日に勉強を見てもらった恩もある。駿介の中に断る選択肢は存在しなかった。
「ありがとう。それじゃあ日曜の午前十時に、駅にある大きな時計集合で!」
「言っとくが、七時に来ても俺はいないからな」
「当たり前でしょ?」
キョトンとした表情で駿介を見るこのは。
前回朝七時に家に押し掛けてきたアホはどこのどいつだ。
口から出そうになる言葉をグッとこらえる駿介。大人である。
「おう、そうだな。じゃあ日曜の朝十時に集合で」
ニッコリと笑顔でこのはにヘッドロックをかける駿介。
そのままもう片方の手でこのはの頭を掴むと、このはの髪が乱れるのもお構いなしにグシャグシャとし始める。
「ちょ、駿介何するんだよ。髪の毛乱れるから! ボサボサって乱れるから!」
「うんうん。十時に集合だな」
「もうやめて、やめてってば!」
やめてと言いながらも、キャッキャと喜ぶこのは。
まるで尻尾を引っ張られているのに、遊んでもらっていると勘違いして喜ぶ犬のようである。
駿介になら、髪をグシャグシャにされるのも満更でもないのだろう。
一通りグシャグシャにされ、「えへへ」と笑うこのは。
(ほっといたら、髪が乱れたまま帰りそうだな)
「このは、ちょっと椅子に座れ」
「うん!」
一度ツインテールをほどき、櫛を使ってこのはの髪を綺麗に整える。
数分後、見事に不揃いなツインテールになったこのはが居た。
「駿介ヘタクソ」
「むぅ……すまん」
「仕方がないから、もう少しボクで練習させてあげてもいいよ!」
そんな練習をしても、駿介に披露する相手はいない。
あえていうなら、このはにこうやって髪をグシャグシャにした時くらいである。
そして駿介は気づく。今後も髪をグシャグシャはやるだろうから覚えておいて損はないかと。
このはといえど女の子。
髪をボサボサにしたまま放置も、不揃いな恥ずかしいツインテールにするのも気が引ける。
「このはは普段どうやってるんだ?」
「お母さんにやって貰ってる!」
「そうか!」
やり方のアドバイスをと思って聞いてみた駿介だが、聞いた相手は全く役に立たないアホの子だった。
このはが自分でやれないなら、今後の事を考えると覚えるしかない。
駿介は軽くため息を吐く。
「じゃあもう少し練習させてくれ」
「しょうがないなぁ。良いよ!」
なんだかんだで一時間ほど練習し、綺麗にツインテールが結えるようになった駿介。
帰り道、いつもの1.5倍マシでテンションが高いこのは。
鏡を見る度に、鏡の前でくるくる回ったり、前髪を弄ったりしている。
「悪いな、前髪は難しいからまだ無理だ」
「えへへ、そんなんじゃないよ」
「そうか。まぁ今度までに覚えて来てやろう」
「ホントに!? 仕方がないな、どうしてもっていうなら、また髪をいじらせてあげても良いよ」
フフンと無い胸を張るこのは。
仕方がない、どうしてもっていうならと言いつつも、横目でチラチラと駿介を見てやって欲しいアピールである。
「じゃあどうしてもで」
「うん。良いよ!」
上機嫌で下手な鼻歌まで歌い始めるこのは。
時折音程が外れているが、お構いなしである。
そんなこのはを優しく見つめる駿介。
(全く、そんな事程度ではしゃぐとかアホ……いや、女の子らしいと言うべきか)
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