第14話
「一旦休憩にするか」
勉強に集中していた駿介とこのは、気が付けば十時を回っていた。
朝七時ごろからずっと勉強していたのだから、凄い集中力である。
実際は何かを教える度に擬音を挟むこのはがアホ可愛くて、面白がっていた駿介。
そんな駿介の反応が嬉しくて、張り切っていたこのは。
例え勉強であろうとも、駿介とこのはにとっては普段遊ぶのとなんら変わらない。
とはいえ、それはそれ、これはこれである。
「じゃあ遊ぼう!」
勉強か遊び、どっちが良いかといわれれば、遊びになるのは当然の理。
ワクワクしながら、このはがカバンに手を伸ばそうとした時だった。
「ヒッ!」
コンコンッとノックの音が響いた。
先ほど幽霊の話をしていたせいか、音に驚き小さい悲鳴をあげるこのは。
このはが駿介の腕にしがみつくのと、ドアが開かれるのはほぼ同時であった。
「あらまぁ!」
ドアから顔をのぞかせたのは、駿介の母である。
可愛くない愚息に可愛い少女が抱き着いているのを見て、思わずニンマリの母。
もしこれが普段の駿介ならば母に文句の一つや二つは言っているだろう。割と強めの言葉で。
だが今はどうだろうか?
部屋に男女二人きり。
勉強と言っておきながら、駿介の腕には、このはがしがみついている。
この状況で勘違いだという方が無理な事くらい、駿介も分かっている。
何を言っても言い訳にすらならないだろう。
「しゅんちゃん」
「あっ、はい」
母親の、明るく優しい声が、今の駿介にはとても怖く感じた。
女の子を部屋に連れ込んだことを咎められるのだろう。
今の状況を父親にも説明され、説教されるのだろう。
なんなら、相手の親にも連絡されるかもしれない。
しゅんと小さくなり、死刑宣告を受ける囚人のようである。
「その子は?」
駿介の母の言葉に、このはがハッとなり、駿介から離れる。
駿介とくっ付いてた事を気にしたというよりも、駿介の母に挨拶をしてなかったことが気になったのだ。
「ボクはこのはです! 駿介……君とはクラスメイトで仲良くしてもらっています!」
このはが若干テンパりながらも挨拶をする。
駿介の母は目を細めながら、口に手を当てて「あらあら」と笑うのだった。
「しゅんちゃん」
ゆっくり手招きする駿介の母。
顔を青くしながらフラフラと母の元へ歩く駿介。
「良い? お母さんたち、夕方までお出かけしてくるから」
「あっあぁ」
その言葉に、駿介は助かったと安堵した。
今回は見逃してやる。だから変な真似をするなという事だろう。母の言葉に重みを感じた。
「分かってる?」
「大丈夫、変な事しなって」
駿介の言葉に、駿介の母の笑顔が固まる。
「良い? お母さんたち、夕方までお出かけしてくるから」
「ん? あぁさっき聞いたよ」
「分かってる?」
「だから変な事とかしないって!」
息子の返事に気を良くしたのか、笑顔で頷く母。
「アンタそれでも男なの!?」
いや、全然気を良くしてなかった。
ようは手を出せと遠回しに言っていたのだ。
「お前こそそれでも母親かよ!?」
よそ様の娘に手を出せという母親がどこの世界にいるんだと言おうとした駿介だが、残念な事に目の前にいたので口をつぐんだ。
なによりこのはの前である。変に口論して何の話をしているかバレれば余計面倒な事になるのは目に見えていた。
「このはちゃん、ケーキがあるから駿介と食べてね」
「ケーキ!」
このはの反応に気を良くし、息子にガンつけながら舌打ちをして駿介の母は部屋を出て行った。
しばらくし、玄関からドアが開く音がした。
窓から両親が本当に出て行ったことを確認する駿介。
両親が出ていき、このはと二人きりで一つ屋根の下である。
(コイツにそんな感情抱いたりするわけないだろ)
駿介にとって、このはは恋愛対象ではない。
ただほっとけなくて、見ているだけでも楽しいアホ可愛い妹分である。
「ねぇ駿介?」
「ん? どうした?」
窓の外から、こっそり両親が帰ってきて監視しようとしないか警戒していた駿介。
そんな駿介の袖をこのはが引っ張る。
「あのね、駿介としてみたい事があるの」
上目づかいで、頬を赤らめながら、駿介を見るこのは。
誰もいない、駿介とこのはの二人だけの空間。
やる事は決まりきっていた。
「いっけぇ! ボクのスピンワイバーン!!」
「はっはっは、俺のスパイラルフェニックスがその程度で落ちるか!」
一昔前に流行った、ベーゴマ型おもちゃのバトルである。
「相手のゴールにシュート!」
「超エキサイティング!!!!」
更に前に流行った、バトル型パチンコドームである。
このはが普段遊びたがるもので、明らかに小学生レベルの物がある。
流石に高校生になった駿介がそれに付き合うのは、少々恥ずかしく感じるのは仕方がない。
仕方がないのだが、しょんぼりするこのはを見るのはいたたまれなくなる。
なので、他人の目を気にしなくて良い場所に限り、駿介はこのはの遊びに付き合っている。
今回は自宅という、人目がなく時間も気にしないで良い場所である。
ガキっぽい遊びと思いつつも、段々と熱くなる駿介。
気が付けば勉強はそっちのけで、このはと遊び続けていた。
(全く、こんなので遊びたがるとか、アホ可愛い奴だ)
結局勉強を疎かにしたために駿介の成績はあまり変わらなかったが、駿介の母親はお小遣いをアップしてくれた。
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