榊真司よりケイ・アッシュ宛のEメール
差出人 : 榊 真司〈s-sakaki@****.ne.jp〉
送信日時 : 四月二十九日 金曜日 二十三時四十分
宛先 : Ash〈ashestoashes@******.edu〉
件名 : 相談
担当しているクライアントに関わる話を第三者に打ち明けるのは褒められたことではないが、君とぼくの間柄に免じて大目にみてもらいたい。ぼくは君の口の堅さを全面的に信頼しているし。
最近、あるクライアント(二十一歳・女性)がヴァンパイアを自称する人物と接触した、と言ってきた。彼女はゴスロリ・ファッションを好んでおり、同好の士と集まることがあるらしく、その会合に「自称ヴァンパイア」がいたようだ。もちろん彼女もそれを真に受けてはいないが、非日常の装いをするうえでのなりきりごっこというよりは、「自分がヴァンパイアである」という妄想に取り憑かれているように見える、とのことだった。
彼女がぼくにはっきりと語ったのはこのエピソードだけだが、ぼくは他の場面でも彼女が「自称ヴァンパイア」と遭遇しているのではないか、という気がする。話をしている間中何かに怯えているように落ち着かなかったし、私にも幻覚の症状があるのかも知れない、とも口にしていた(彼女の精神状態は非常に不安定だが、幻覚をみる類のトラブルは今のところ抱えていないと思う。これに関しては、彼女の主治医もぼくに同意見だ)。あくまでぼくの推察だが、彼女は幻覚だと思いこみたいような事態に直面したのではないだろうか?
関係ない事だとは思うが、彼女が「自称ヴァンパイア」に接触した時期とごく近いタイミングで、新宿の献血ルームから採血後の全血のみが盗まれるという事件が連続して起きた。ニュースのURLを貼っておくから、参照して意見をくれるとありがたい。
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