第七話 巫女とかみさまの年越し
7-1
「相談、いい?」
明日香と叶恵に電話をして、学校に集まりました。冬休みですが、学校ということで一応私たちは制服を着ています。門から入って、校長室へ。事前に連絡していたので、ノックをするとすぐに入れてもらえました。
そうして私の前には、明日香と叶恵が座っています。部屋の奥、いつもの席では校長先生がこちらに意識を向けてくれています。
「まずは今日、集まってくれてありがとうございます」
そう言って私が頭を下げると、
「別にいいよ! それよりも、さつきのお願いってことはかんな様に関わることだよね」
「遠慮しなくていいから、何でも言いなさい。できるだけ、協力するわ」
「かんな様のためなら、学校の総力を上げようじゃないか」
私の親友二人は頼もしいです。ですが校長先生、それはそれで問題だと思うのですが。いえ、とても有り難いのですが。
「まずはこれを見て」
巫女の日誌を差し出して、あのページを開きます。それを読んだ二人は、なるほどと納得しました。明日香が校長先生へと日誌を渡しに行き、校長先生も私の目的を察してくれたのか頷いていました。
「今年はやりたいってことだよね。それで、私たちに相談した理由は?」
「えっとね……。噂を聞いたことがあるかもしれないけど、今は二年生、三年生に巫女はいないんだ。だから、こうして集まることはできなくて」
「あの噂って本当だったのね……。それじゃあ、どうするつもり?」
「みんなで集まるのはどうかなって思ってる」
かんな様の姿が見えるのは、確かに私一人です。でも巫女しか来てはいけないってわけでもないはずです。そもそも、明確なルールなんてないはずですから。
先日のスキー合宿で分かりましたが、かんな様は人を見るのが好きなようです。参加はできなくても、誰かが楽しんだり騒いでいたりするのを見ているだけで楽しそうにしています。いえ、無表情ですけど。それなら、みんなで集まるのは悪くないと思うのです。
そういったことを説明すると、明日香と叶恵はなるほどと頷いてくれました。
「まあ私たちはかんな様の姿が見えないからねー。その辺りはさつきを信じるし、さつきがそう思うなら協力するよ!」
「つまり私たちは、年越しの集まりに参加する人を探したり、その準備の手伝いをすればいいわけね」
よしきた、と明日香は請け負ってくれます。クラスの人気者の明日香が請け負ってくれるなら、きっと大丈夫でしょう。
「ふむ。ではこちらは出店の方をするとしよう。なに、任せるといい。かんな様も楽しめるようにしてみせるよ」
校長先生も頷いてくれました。断られたらどうしようかと思いましたが、その心配は杞憂だったようです。
「一週間を切っている。さあ、早速行動しようか」
校長先生はむしろとても楽しそうです。いそいそとテーブルからファイルを取り出すと、あちこちに電話をし始めました。それを見ていた明日香と叶恵は顔を見合わせて、よしと頷き合いました。
「諸々はこちらで計画するわ」
「さつきは最終確認がお仕事! それまではかんな様の話し相手と社の周辺の掃除ね」
「あ、うん……」
あれ? 発案者の私の仕事がすごく少ないような……。むしろ今、完全に私の手を離れたような気がします。大丈夫かなと不安になりますが、この三人ならきっとうまくやってくれるでしょう。
「さあ、やるぞー!」
明日香の元気な声が校長室に響きました。
あっという間に日は流れ、大晦日。
この町には神社とお寺が一つずつあります。そのどちらも、三が日は出店が並びます。お店を出す人はお寺か神社かの選択肢でしたが、今年はそれに加えてもう一つ、選択肢が出てきました。
中学校の周辺、社の前の道です。
社へのお参りは午前一時からとしてもらったので、今はまだ落ち着いた雰囲気です。出店の人がそれぞれ準備をしています。
社の前では大きなブルーシートが広げられて、今回声をかけられた人が集まっていました。総勢十人。
まずは当然ながら私、神谷さつきです。社の前に座らされました。拒否権も選択権もなしです。
そして明日香と叶恵、校長先生と島崎先生、夏休みの時にルールを教えてくれた先輩巫女さんもいます。その先輩巫女さんの妹さんも来ていました。妹さんといっても、やっぱりこちらも先輩ですが。
その人はこの学校の見学の時に車椅子を押してくれた先輩でした。私が巫女だと知ってとても驚いているのと同時に、どこか納得しているようでもありました。
私たちの保護者として、私の両親も一緒にいます。
以上九人が今日のメンバーです。これにかんな様を加えた十人で全員となります。……かんな様を一人として数えていいのかは分かりませんが。
すでにみんな、それぞれに会話を弾ませています。
シートの上には色々な料理が並んでいます。各自持ち込んできたものと、出店の人が試食用とかんな様に、と持ってきてくれたものです。
そして最後に、かんな様は私の隣でみんなの様子を眺めていました。いつもの無表情ですが、どこか柔らかく感じます。
「かんな様。何か食べますか?」
「ん……? んー……。やきとり」
「はい。分かりました」
膝立ちになって、パックに入れられた焼き鳥を取ります。それをかんな様の前に置くと、かんな様は一本取って匂いをかいで、そうしてから口に入れました。何度か租借して、満足そうに頷きます。
「ん。美味しい。さつきはいいの?」
「じゃあ、一本だけ」
かんな様から一本だけもらって、私も食べます。濃厚なタレでとても美味しいです。
「さつき。この後はどうするの?」
私が食べ終えたところで、お母さんが聞いてきました。その声に反応してか、全員の視線がこちらへと向きます。ちょっと怖いんですけど。
ノートには、かんな様と挨拶して終わり、としか書かれていませんでした。それができるのは私だけです。儀式なんて考えてなくて、かんな様に楽しんでもらおうとしか思っていなかったので、少し困りました。
「えっと……。かんな様。どうしましょう」
かんな様が心底呆れたといった様子でこちらを見てきます。すごく心に刺さります……。私が少し頬を引きつらせて目を逸らすと、かんな様がため息をついたのが分かりました。
「もうほとんどさつき独自の行事になってるんだから、最後まで考えればいいのに」
「耳が痛いです……。かんな様が楽しんでくれたらそれで良かったので、詳しく考えてませんでした……」
「…………。まあ、仕方ないね。うん」
あれ? かんな様の機嫌が良くなったような……?
「じゃあ、零時から少しだけここにいるように。そう伝えて」
「あ、はい。分かりました」
私がそれを伝えると、みんなが不思議そうに首を傾げていましたが、かんな様がそう言うならと納得してくれました。
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